インボイスの話題でよく出てくるさー「免税事業者は消費者から受け取った消費税をネコババしている」っていうアレ、正確ではないのよね。
例えば年間税抜売上げ900万円のフリーランスのITエンジニアAさんがいたとしよう。
顧客である企業に上げる請求書では90万円の消費税と合わせて請求している。
免税事業者はこの90万円をそのまま懐に入れていると思っている人も多いようだがそうではない。
免税事業者にとってこの90万円は売上として計上されることになり、消費税ではなく所得税と住民税の課税対象になる。
また仕入税額控除も使えないので、仕入にかかる消費税は免税事業者の負担となる。
仮に課税仕入が税抜き200万円、消費税が20万円かかっていたとすると、差し引きで70万円の益税分に所得税等が課される。
税率が所得税20%住民税10%とすると納税額は21万円、手元に49万円残ることになる。これが今まで益税で得してた分ね。
ではAさんが消費税の課税事業者を選択して、本則課税を受けた場合を見てみよう。
この場合、売上分の消費税90万円を受け取り、仕入分の消費税として20万円支払っているので、
消費税として差額の70万円を納付して手元には何も残らない。これが一番あるべき形やね。
ところで、消費税の制度には免税されるほどではない小規模事業者のための簡易課税制度というものがある。
これは売上5000万円以下の事業者は仕入税額控除に使う仕入に払った消費税を集計しなくても、
売上の〇割が課税仕入ってことにしてもいいよという制度で、業種に応じて4割-9割のみなし仕入率を使えるって制度だ。
ITエンジニアならサービス業に該当するからみなし仕入率は5割。
Aさんがこれを適用すると、受け取った90万円のうち5割の45万円は仕入に払った消費税とみなされるから消費税の納税額は45万円。
この場合実際に支払った仕入にかかる消費税の20万円よりも仕入税額控除が多いので25万円の益税が発生しており、
これには所得税と住民税がかかる。税率30%では7.5万円の納税となる。
その結果簡易課税の益税として手元に残るのは17.5万円ということになる。
普通は小規模事業者は簡易課税を選択した方が得になることが多いし、手続きもだいぶ楽になる。
恐らく免税事業者が課税事業者になった場合は、簡易課税を選択する人が多くなるだろう。
でかい固定資産買ったとかあるなら本則課税の方が得な場合もあるから気を付けてね。
上の事例ではより有利な簡易課税を選択したとして、手元に残る益税が49万円から17.5万円に減るので、31.5万円の納税負担増になる。
インボイスで課税事業者になったらどれくらい納税負担が増えるかは人によるから何とも言えないけど、本則課税と簡易課税の有利な方を選択するとして、
年間2-300万円の副業的な小規模事業者で10万円くらい、年間1000万円ギリギリの事業者でも精々3-40万円程度に収まるんじゃないかなと思う。
だから意外と税収としての効果は小さいともいえるし、逆に課税事業者になってもそんなに怖くないよともいえるだろう。
益税についてはこんな感じで整理できて、あとは免税事業者がそれぞれで課税事業者になるならないは判断すればいいんだけどさ、
個人的に一番問題だと思うのはインボイス登録しないと取引しませんって言っちゃう企業側なんだよね。
というのは制度上はインボイスってあってもなくても企業側の負担は変わらないはずなのよ。
課税事業者から税抜き500円、消費税50円の物を仕入て、税抜き1000円、消費税100円で売ったとして、利益500円、消費税納税50円なのと、
免税事業者から税抜き500円、消費税0円の物を仕入て、税抜き1000円、消費税100円で売ったとして、利益500円、消費税納税100円なのって一緒でしょ。
だから原理的には仕入側はインボイスってあってもなくても利益としては変わらんのよ。
それをなんでインボイス有に限定したがるかって今までは免税事業者から税抜き500円、消費税0円の物を仕入たら、
税抜き455円、消費税45円だったことにして消費税の納税を100円じゃなくて55円にできちゃってたからなんだよね。
だから免税事業者がそのまま免税事業者を続けるって言うと仕入側の消費税の納税額が55円から100円に増えちゃうのよ。これを嫌がってるわけ。
だから相手にインボイス登録を迫る。だけどインボイス登録して免税事業者が課税事業者になったから今度から550円請求しますねって言うとそれも渋るわけよ。
そんで価格交渉になると零細の免税事業者より仕入企業側の方が強いから、免税事業者のままなら税抜き455円ってことで値下げしてねとか、
課税事業者になったら税抜き500円だったのを税抜き455円ってことにして税込み500円にしてねって押し切られちゃったりするのよね。
これについては免税事業者側にも弱みがあって、税抜きの適正価格が500円と思っていても、仕入企業から税抜き455円消費税45円の請求書にしといてって言われたら
まあそれでもいいかってそういう請求書出しちゃってたとこが結構あるのよね。
上でも言ったけど、免税事業者にとって消費税って売上と同義だったから、請求書の中で売上と消費税って分かれててもどっちでもよかったし、
仕入側は請求書で分かれてた方が事務処理的に楽だったってのがあって、お互い適当にやってたんよ。
それが今回のインボイス導入で仕入側はこれを盾にとって「だって税抜き455円って言ってましたよね?」って言って価格交渉で値上げを突っぱねたりしがちなのよね。
仕入企業側はインボイスが始まっても免税事業者を締め出すのは論外だし、元々取引があって課税事業者になった元免税事業者に対して実質的な納税負担増分に相当する
3-5%程度の値上げ価格交渉は通すべきなんじゃないかと個人的には思ってるよ。下請法で一応規制はあるけどね。
免税事業者がインボイスで大変って話をするとすぐ益税で儲けてたくせにって言い返されるけど、何が大変ってインボイス導入後の値決めなのよ。
これは課税事業者を選択するにしろ免税事業者を継続するにしろどっちにしても問題になる。
価格交渉力の弱い免税事業者は税抜き価格+消費税でやっと適正価格貰えてたって人もたくさんいるのよね。
その人たちがちゃんと価格交渉できるように制度面で支えてあげなくちゃいけないし、世論にもそれを後押ししてほしい。