人生で初めて推した俳優の「ご報告」というツイートには「結婚」の2文字と直筆の名前が綴られた画像が添付されていた。初めて、推しが結婚した。
彼のことを知ったのは当時まだ18歳の頃で、ろくに遠征もしたことないし現場すら行ったことない地方学生のときだった。正直それまではアニメばかり見ていて、舞台もミュージカルも低予算実写化と一緒にしていた何も知らないオタクだった。
好きなアニメが舞台化、しかもその中で1番好きなキャラクターを彼が演じると知ったとき、単純に私は嫌だな、と彼のことを何も知らないのに実写は嫌だ、の気持ちだけで遠ざけていた。今の私からしたら考えられない(俳優目当てで観劇に行くオタク)
そこから1年半ほど経って、何故か私は1枚のチケットを握りしめて彼の出演する舞台を観に行っていた。紆余曲折あるけど、たまたま身近にミュージカルが好きな友達がいて、たまたま私の意識の変わる出来事があって、たまたまミュージカルの円盤を借りて、やっと舞台やミュージカルが実写化映画とは異なることを知ることができた。
「舞台っていいものだね」そう円盤を貸してくれた友達に伝えると、そのまま3月に地方に来てくれる舞台のチケットを申し込みをするはめになっていた。その舞台は当時チケットが全然取れないことで有名で、大楽はライビュが開催されるくらいだった。それなのに、人生初めてのチケット申し込み、ビギナーズラックなのかなんなのか分からないが2枚取れてしまったのだ。取れたのだから行くしかないし過去作も見るしかない。友達に(また)円盤を借りて見て、そこではた、と気づく。チケットが取れた舞台で私の好きなキャラクターを演じているのは彼だ。1年半前、嫌だとなにも情報を入れずに先入観だけで拒否をしてしまったあの俳優さん。
気づけば画面に食い入るように見ていた。私の好きなキャラクターがそこで実際に動いて生きていた。再現度も然ることながら、本当に違和感なくストンと受け入れられたことにも驚いたし、ああ私は3月に彼の演じるキャラクターを生で観れるのか、と思うとじわじわと実感が湧くと共に嬉しさでいっぱいになった。この人のお芝居を観ることができるのは嬉しいな、なんてしっかり目に焼き付けようと思ったことも覚えている。
親に猛烈に反対されながらもチケットあるから!の一言で人生で初めての遠征をした。新幹線で1時間かかるかかかないかのところだが、今まで一度も遠征も外泊もしたことがなかった私からしたらなにもかも新鮮だった。
一緒に行く友達はいろんなジャンルを観劇するタイプで、なにからなにまで教えてもらって劇場に着いた。
幕が上がって、しばらく泣き続けていたと思う。原作の重要なシーンだったし、なにより強烈に記憶に残っているのは彼の見せ場だった。7年経った今でも鮮明に思い出せるくらい。ボロボロに泣きながら双眼鏡覗いていた記憶。
カテコ後にはもう彼のことしか考えられなかった。本当にあの舞台上には私の好きなキャラクターが生きていたし、そうしてくれたのは彼だった。これが初めて俳優を推す、ということなんだろう。そんなことを思いながら物販で買い足すために列に並んでいたことも覚えている。
地方学生の身だったけど、いくつかは彼の出演作を観劇することが叶って本当によかった。今でもチケットがとれて予定が合えば行くか〜、くらいの気持ちで過ごしていたが、ここにきて「結婚」のお知らせだった。
不思議と気分が落ちたり死にたくなったりすることはなかった。素直に心からおめでとう!と言葉がすんなりでてきたことには驚いた。今の本命の推しが結婚したら私は死にたくなるし、同じ事務所の人が結婚しただけでも血の気が引いて明日は我が身、と怯える日々だったのに。
別に俳優と結婚したいとかそんな大層なことは考えていないし無理なのも分かっているけど、そういう事じゃないのだ。いや、それでも彼の結婚に関しては心からお祝いできたことが嬉しい。
私がこうして今の推しの追っかけをしているのも、あのとき彼のお芝居を観ることがなければなかった時間だ。人生で初めての推し、遠征も外泊も飛行機も全部初めては彼の現場だった。たくさんの幸せと思い出をもらった。未だに最前線に立ってくれていることも嬉しいし、こうして家庭をもって幸せになってくれるのも本当に嬉しい。
長々と書いてしまったけど、今まで推しが結婚する、ということが絶望以外の何者でもないと思っていたのに、彼の結婚は心から喜べた。私も俳優の結婚をお祝いできるんだと思ったし、なにより初めて推しが結婚するのが彼でよかった。本当におめでとうございます。これからもご活躍応援しています、またいつか観劇に行けることを楽しみにしています。
刀オタかよくっさ