家族を感染させてはいけない。恋人を感染させてはいけない。もちろん自分自身も。
そう思って帰省はせず、会社の指示より早めに適当に理由をつけてリモートワークを開始した。
引きこもりは得意だから、それ自体はそこまで大きいストレスじゃない。恋人とももともと頻繁に会っていたわけじゃないから、連絡の頻度を少し上げることで関係は保たれている。
誰にも死んでほしくないし、苦しんでほしくない。自分の所為でたとえ赤の他人でも死んだら嫌だ。
そう思って、自宅に引きこもること三ヶ月半ほど。
ここにきて、政府や都の規制が緩和されはじめたとのことで、全社員リモートワークから、週1-2回の出社命令が出た。今日の時点でもその命令は変わらない。でも正直、行きたくない。住んでいる場所の問題で山手線に乗る必要がある。時差出勤OKだけれど、それだって、そもそも電車の本数が少ない時間帯なら混雑は回避できない。
ちなみに、出社命令の主な理由は「コミュニケーションのため」。この三ヶ月半、業務効率はむしろ上がっているし、必要な質問はチャットツールでできている。なんなら体調不良の日が減っている(必要な睡眠時間が確保できているし、お昼を買い食いしたり外食したりすることが減って、比較的健康的な食生活が送れている)雑談が足りないと言うけれど、そもそも会社にそんなものを求めてはいない。それなのに「コミュニケーション(雑談)のために出社」。とは。
身に危険が迫っているように感じたので上司に出社日もオフィスに行かず、自宅で仕事をしたいと申し出たけれど「今は会社全体がそういう雰囲気だから」。
いやいやいや、絶対嫌な人他にもいるだろ。そう思って暫くごねたけれど、頷いてはもらえず。仕方ないので出社日は休みを取ることにした。予定表にそれを入れたら、同じチームの方から「もしかして出社が嫌でですか」とメールが来た。そのとおりだと話したら「子供がいるから私も本当は行きたくない。だけど、この後どうなるか分からないから有休を使いたくない」と打ち明けられた。俺にはどうしようもないけど、この人の主張はわかる。この人も上司に遠回しに確認したらしいが、一蹴されたらしい。
こんな風に過剰に怖れている自分が間違っていて、それを理解しない上司に怒っている自分がヒステリックなのかもしれない、と思って、今週末からずっとふさぎこんでいた。
上司は、自粛期間中も小学生の子供の友達を自宅に招いて遊ばせていたり、ラッシュアワーに普通に出勤していたりと、この辺の感覚に違いがある。だから、俺の主張は理解されない。「過剰に反応する煩い奴」としか思われていない。それがなんだかもう堪えてしまって、辛い。