三行でまとめると、
私はファザコン
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一番近い街までバスと電車で二時間弱。小さな田舎町で私は育った。両親が結婚して八年目にやっと授かった一粒種。それが私。親戚の集まりに顔を出せば、私がどれほど両親に喜ばれて生まれてきたか、酒を飲んだおじちゃんやおさんどんをするおばちゃんが教えてくれた。
父のことも母のことも大好きで、反抗期も無かったと思う。年の割に身長も高くてすらっとしていて外国の人みたいに鼻が高いと父のことを思っていて、ファザコン気味だったかもしれない。
母は私が高校二年の時に他界した。父は憔悴しきっていたが、ひと月もしたら「私を立派に嫁に出す」と母の遺影に誓ったのだと、仕事と子育てに精を出し始めた。今までしたことのなかった料理もしてくれた。私も手伝ったけど、意外に器用な父はあっという間に料理上手になっていった。
その後、私は大学に通ってそこそこ良い会社に入ることが出来て、三十の時に結婚。退職。一年後に出産。
今は実家から二時間弱の一番近い街で、夫と三つの息子と暮らしている。
ファザコンだと言ったが、夫は少しだけ父に似ている。けれど、それは容姿だけの話で、中身は全く違った。
夫は、いかに結婚生活が窮屈かということを会社で愚痴っているらしい。同じ部署の新人の女の子に鼻の下を伸ばし、後輩に向かって「結婚早まったかなあ」と真顔で言うのだという。夫と私は同じ職場で出会ったので、同僚伝いに私に伝わるって思わないのかなあ。そういう浅はかさも父とは違うと思う。
子どもが生まれたら父のようになるのかもという気持ちも少しあった。期待値は60パーセントぐらい。けれど、まぁもちろんそんなことはなかった。すぐには変わらないけど次第に父になるものじゃない?そう思ったけれど、三年経っても変わる兆しはない。朝は遅いが出かける直前まで寝ている。夜遅く帰ってきて夜食を食べて風呂に入ってゲームを少しして寝てしまう。休日はゲームか、趣味のバイクの集まりに出かけてしまう。
増田では家事に協力的な男性をよく見るのになあ。おかしいなあ。
昨日、私たちが住む街で行われる講演会を聴くためにと父が田舎から出てきた。講演会後にはうちに一泊して帰ることになっていたので、講演会を聴き終えた父を駅に迎えに行った。
“父と夫は同じように体格が良い”……ずっとそう思っていたのだけれど、およそ一年ぶりに見た父は、駅の人混みの中でずっとずっと小柄に見えた。私と息子を見つけて笑う顔は昔のままだったけれど。
夫くんは俺が泊まることを嫌がってないか、嫌ならホテルに泊まるぞ、と確認されたけど、「今日も帰ってくるのは日付が替わった頃だし、明日は休みだけど友達と遊ぶって言ってたから」と答えると何か言いたげにしつつも父は黙りこくった。
マンションに帰って、夜ご飯に作ったハンバーグを父と息子と私の三人で食べた。楽しかったなあ。息子は、久しぶりにじいじに会えて喜んで興奮して、夜はなかなか寝付かなくて参ったww
さっきね、父をバス停に送ってきたんだ。外面だけは良い夫も一緒にさ、息子を挟んで親子三人手を繋いで。父はボストンバッグを持って私の傍を歩いてた。夫は父を見送ったら友達と遊びに行くつもりだったけど、父のご機嫌取りをしているようで、父が言うことに「へぇ、そうなんですか~!知らなかったです!」と大げさに相槌を打ってた。
バス停が見えてきたところで、父がぽつりと呟いた。
「○○(私)はハンバーグが好きなんだ。××(息子)も好物なんだね」
夫はそれまでと同じようなテンションで「そうなんですか~!」と相槌を打った。ばかだ。
それを聞いた瞬間に、父とバチッと目が合った。何か言いたげな気がしたのは気のせいじゃなかったと思う。
「君が羨ましいよ。一人で食べるご飯は味気なくてね」
父は夫にそう言って、バスに乗った。
息子がお昼寝をしている今これを殴り書きしながら、なんだか涙が出てる。