工場案内人「こちらではカントカのシアマル部分を作っています」
ヤイノちゃん「あんた部員なのにそんなことも知らないの? シアマルはアブダンするために不可欠な部分、いわば骨組みよ」
ブラーくん「まあ、仮入部だし……ヤイノちゃんは逆に詳しいね」
ヤイノちゃん「こ、これくらい誰でも知ってるわよ! あんたが無知無学なだけ!」
工場案内人「まず、素材のシワイを下処理します。足が早いので手早く皮を剥ぎ、60度ほどの油で芯まで熱が通らない程度に。その後にじっくり燻製しながらハダン樹脂を流し込めば、シアマル部分の完成です」
ナントカさん「近年では技術開発が進み、カントカの製造もほとんど自動化となっていますが、このシアマル部分だけは人の判断と手がなければ不可能なんですよ」
ナントカさん「いやー、それほどでも」
係の人がいるのに、ナントカさんは相変わらず講釈を垂れたくて仕方ないらしい。
むしろ、カントカの製造で、その熱は上がっているようにすら見える。
ブラーくん「えー、そうなんですか。なんだか簡単そうな作業に見えるけど……」
ナントカさん「いいんですか!? やります、絶対にやります!」
ナントカさんは食い気味に返事をした。
ヤイノちゃん「ここをこうして……あれ? 何だか泡みたいなのが……」
ナントカさん「ほら、だから言ったじゃない。そうなると商品としては使い物にならないの。マサシサダがあると、カンダイをアブダンするときに危ないでしょう」
ナントカさん「……当たり前です。このシアマル部分を任されるのは、経験を積んだ選ばれた技術者だけなの!」
ブラーくん「ええ? ナントカさんでもダメだったのに、僕がやるなんて無理ですよ。これ以上、素材が無駄になったら申し訳ないですし」
ヤイノちゃん「私への当てつけかしら」
工場案内人「ああ、大丈夫ですよ。20年ほど前は確かに貴重な素材ばかりだったんですが、現代は火山から代用品がいくらでも取れるので」
ナントカさん「代用できる素材のシワイが発見されたことで、今はカントカを50円で買える。いーい時代です」
ブラーくん「自分の生まれる前の出来事なのに、何をノスタルジーに浸ってるんですか」
ヤイノちゃん「いいから、あんたもやりなさいよ! そうして恥をかいたら、さっさと次の工程を見に行くわよ!」
ブラーくん「なんでヤイノちゃんが仕切るんだ……まあ、いいや、やってみます」
工場案内人「……おお! すごく手際がいいですね。本当に初めてですか?」
ブラーくん「いやあ、でもやっぱり、意外と難しいですね。これ」
ブラーくん「何で失敗させなきゃダメみたいな前提の物言いなのか」
ナントカさん「ギギギ……」
ブラーくん「……ナントカさんまで。そんな露骨に嫉まなくても」
ナントカさん「ち、違いますぅ。ちょっとブラーくんが羨ましくて悔しいって思っているだけですぅ」
ブラーくん「嫉みじゃねーか」
ヤイノちゃん「ふん、案外悪くなかったわ」
ブラーくん「ちょっとだけ、本当にカントカのことが好きになったよ」
ナントカさん「……“本当に”? 今までは好きじゃなかったってこと?」
ブラーくん「あ、口が滑った」
ナントカさん「どうやらブラーくんには、もっとカントカの魅力を知ってもらう必要があるようですね……」
ブラーくん「か、堪忍して~」
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