2018-06-15

[] #57-5「ナントカさんはカントカしたい」

「ほら、どうだマスダ。これが、いま一部の界隈で密かに話題の『ナントカさんはカントカしたい』だ」

タイナイは意気揚々とススメてくるが、何が面白いか俺にはよく分からなかった。

カントカ”というものについて講釈を垂れて、後は登場人物の中身がない掛け合い。

しかしたら読み込めば中身があるのかもしれないが、俺はそもそもこの漫画の中身になんて興味ない。

「……カントカに興味がない読者にとっては長々と説明されても困るし、興味のある人間にとっては基礎的すぎて退屈な内容だと思うんだが。キャラクターも、物語テーマ必然性を感じないというか……」

「マスダは相変わらず表面的な感想というか、粗探しばっかりするなあ」

そう言われても、この作品のものに興味がないから、感想言語化しようとしたらその程度しか出てこない。

「こういった作品はそんな細かいことを気にするんじゃなくて、キャラクター関係性とかも加味して、もっと全体的な空気感を楽しむものなんだよ」

「じゃあ、そういう楽しみ方ができない俺がダメってことで、この話は終わりだな」

「いやいや、マスダ。もっと、こう……あるだろ?」

いや、ない。

今ですら、内心では「興味ない」の一言で済ませたいんだ。

だが、「興味ない」では済ましてくれないから、どうにか搾り出している。

「マスダ。もっと実質的感想を言ってくれよ。魚だって大事なのは味であって、小骨の数じゃないだろ」

「いや、それ大した理屈じゃないよな。小骨が多かったら味わえないだろ」

かといって、正直な感想タイナイに言ったところで、こちらの数倍の言葉を用いて反論してくる。

挙句、それを理解できない俺が愚か者だという前提で罵ってくるるのがオチだ。

タイナイは自分の好きなもの他人も好きじゃなきゃ間違っていると思っている。

そして、間違っている人間は許せない。

上辺こそ取り繕ってはいるが、本質的精神構造は極めて単純であることを俺は知っている。

その状態タイナイの相手をすることが、時間無駄だということも。

タイナイから言わせれば、そういった意見のぶつかり合いこそ醍醐味なのかもしれないが。

違う意見を持つ相手に対して、自分感情コントロールできない人間がやることじゃない。

から、俺がこういうときに言うことはいだって同じ。

「まあ……面白いと思っている人がいて、お前も面白いと思っているなら、それでいいんじゃないか?」

「なんだよ、それ。僕はマスダの意見を聞きたいんだよ。好きか、嫌いか、そんな単純な感想から始めていいんだ」

どうもこいつの中では、前提として「好き」か「嫌い」かの二択しかないらしい。

だが、俺の中にそんな二択は存在しない。

「いや、どっちでもない」

「どっちでもない、ってどういうことだ?」

実際問題、俺にとってこの作品は好きでも嫌いでもない。

タイナイの中にはその二択しかないようだが、好きだとか嫌いだとかっていうのは、その対象をどうあれ評価しているからこそ出てくる気持ちだ。

自分にとって評価に値しないものに対して、好きだとか嫌いだなんて感情は湧かない。

作品賞賛するにしろ批判するにしろ、それは評価している人間にある選択肢なんだ。

「……例えば七ならべをする。お前は都合のいいカードが手持ちにたくさんある。そして俺は手持ちに都合のいいカードがない……というレベルですらなく、何のカードも持っていない。七ならべに参加していないからだ」

「マスダ、その例え意味不明

その後も、俺は穏便に済ませようと遠まわしに表現するが、タイナイは首を傾げるばかりだ。

「あ、そうだ、『ウチュウノススメ』の話しようぜ。タイナイ、あれ好きだろ?」

「いや、最近の『ウチュウノススメ』は宇宙説明ばっかりで、漫画としては退屈だから話したくない」

ちょっと前まで熱く語っていたくせに、何なんだそれ」

俺が結局のところは時間無駄にしていると気づいたのは、その問答を繰り返してしばらくのことだった。


人物紹介

マスダ:同級生タイナイにススメられ、『ナントカさんはカントカしたい』を読むことに。もとから興味のなかったものをススメられたので読むこと自体が乗り気じゃない。結局、カントカが何なのかは未だよく分かっていないし、分かる気もない。話題に挙げた『ウチュウノススメ』もかろうじて話についていけるだけで、別段ファンというわけでもない。

タイナイ:マスダに『ナントカさんはカントカしたい』をススメた。読んだあとのマスダの感想が気になっていたが、まさかの無関心に肩透かしを食らっている。「どんな意見でもいいから」と言っているが、批判的な意見に寛容というわけではない。『ウチュウノススメ』のファンではあるが、最近は熱が冷めているきているのか『どたキャン×』に浮気気味。

(おわり)

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