オサカ「ほら、どうだマスダ。これが、いま一部の界隈で密かに話題の『ナントカさんはカントカしたい』だ」
オサカは意気揚々とススメてくるが、何が面白いか俺にはよく分からなかった。
“カントカ”というものについて講釈を垂れて、後は登場人物の中身がない掛け合いで目が滑る。
もしかしたら読み込みが足りないのかもしれないが、俺はそもそもこの漫画の中身になんて興味ない。
「……カントカに興味がない読者にとっては長々と説明されても困るし、興味のある人間にとっては基礎的すぎて退屈な内容だと思うんだが。キャラクターも、物語のテーマと必然性を感じないというか……」
「マスダは相変わらず表面的な感想というか、粗探しばっかりするなあ」
そう言われても、この作品そのものに関心がないから、感想を言語化しようとしたらその程度しか出てこない。
「こういった作品はそんな細かいことを気にするんじゃなくて、キャラクターの関係性とかも加味して、もっと全体的な空気感を楽しむものなんだよ」
「じゃあ、そういう楽しみ方ができない俺がダメってことで、この話は終わりだな」
「いやいや、マスダ。もっと、こう……あるだろ?」
いや、ない。
今ですら、内心では「興味ない」の一言で済ませたいんだ。
だが、「興味ない」では済ましてくれないから、どうにか搾り出している。
「マスダ。もっと実質的な感想を言ってくれよ。魚だって大事なのは味であって、小骨の数じゃないだろ」
「それ大した理屈じゃないよな。小骨が多かったら味わえないだろ」
かといって、正直な感想を言ったところで、こちらの数倍の言葉を用いて反論してくる。
挙句、それを理解できない俺が愚か者だという前提で罵ってくるのがオチだ。
上辺こそ取り繕ってはいるが、本質的な精神構造は極めて単純であることを俺は知っている。
その状態のオサカの相手をすることが、時間の無駄だということも。
こいつから言わせれば、そういった意見のぶつかり合いこそ醍醐味なのかもしれないが、違う意見を持つ相手に対して自分の感情をコントロールできない人間がやることじゃない。
「まあ……面白いと思っている人がいて、お前も面白いと思っているなら、それでいいんじゃないか?」
「なんだよ、それ。僕はマスダの意見を聞きたいんだよ。好きか、嫌いか、そんな単純な感想から始めていいんだ」
どうもこいつの中では、前提として「好き」か「嫌い」かの二択しかないらしい。
だが、俺の中にそんな二択は存在しない。
「いや、どっちでもない」
「どっちでもない、ってどういうことだ?」
オサカの中にはその二択しかないようだが、好きだとか嫌いだとかっていうのは、その対象をどうあれ評価しているからこそ出てくる気持ちだ。
自分にとって評価に値しないものに対して、そういった感情は湧かない。
作品を賞賛するにしろ批判するにしろ、それは評価している人間にある選択肢なんだ。
「……例えば七ならべをする。お前は都合のいいカードが手持ちにたくさんある。そして俺は手持ちに都合のいいカードがない……というレベルですらなく、何のカードも持っていない。七ならべに参加していないからだ」
「その例え意味不明」
その後も、俺は穏便に済ませようと遠まわしに表現するが、オサカは首を傾げるばかりだ。
「あ、そうだ、『ウチュウノススメ』の話しようぜ。あれ好きだろ?」
「いや、最近の『ウチュウノススメ』は宇宙の説明ばっかりで、漫画としては退屈だから話したくない」
「ちょっと前まで熱く語っていたくせに、何なんだそれ」
俺が結局のところは時間を無駄にしていると気づいたのは、その問答を繰り返してしばらくのことだった。
マスダ:オサカにススメられ、『ナントカさんはカントカしたい』を読むことに。もとから興味のなかったものをススメられたので読むこと自体が乗り気じゃない。結局、カントカが何なのかは未だよく分かっていないし、分かる気もない。話題に挙げた『ウチュウノススメ』もかろうじて話についていけるだけで、別段ファンというわけでもない。
オサカ:マスダに『ナントカさんはカントカしたい』をススメた。読んだあとのマスダの感想が気になっていたが、まさかの無関心に肩透かしを食らっている。「どんな意見でもいいから」と言っているが、批判的な意見に寛容というわけではない。『ウチュウノススメ』のファンではあるが、最近は熱が冷めているきているのか『どたキャン×』に浮気気味。
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