「宇宙よりも遠い場所」はキャンベルらが示した「英雄の旅」の枠に沿って作られている。
https://en.wikipedia.org/wiki/Hero%27s_journey
キマリにとっては「青春する」というメモが出立を促す「冒険への召命」になるのだが、それが部屋の片づけ中に頭上から降ってくるあたりは神話的だと言える。
報瀬にとっては母親の死が分かりやすい「冒険への召命」である。
次にキマリが一度は学校をさぼって旅行に出る決断をしながら結局それを取りやめるあたりは「召命の辞退」に相当する。
結月が南極行きを拒否し、報瀬にその役目を譲ろうとしたのも同じく「召命の辞退」と言える。
駅で報瀬が落とした「しゃくまんえん」をキマリが拾う話や、彼女らの会話をたまたま日向が聞いていた部分などは、偶然という「超自然的なるものの援助」が出立を助ける場面だ。
しかし日常から非日常へと移る境界には門番がいる。彼らの試練を超えなければ英雄は旅立てない。
キマリは本気なら砕氷船を見に来いという報瀬の声に応じてこの境界を越えた。
日向はパスポートを失うという障害にぶち当たり、報瀬の協力を得てこれを突破している。
境界を越えた英雄には支援者が現れる。彼女たちはいずれも互いに支援者としての役割を果たしている。
日向にとっての越境に相当するパスポート紛失は、報瀬から見れば同行者を見捨てて自分だけが目的地に向かうという誘惑の一種だろう。
船酔いで苦しむ場面は4人のいずれにとっても挑戦だと言える。
そして英雄は異世界の深淵において啓示を受け、いったん死んで生まれ変わる。ここで英雄が遭遇するのは最大の敵である。
キマリにとってはめぐっちゃんの絶交宣言がこのラスボス対決に相当する。彼女の旅路(南極へ行くと決めた時点で既に彼女は非日常の世界に踏み出している)を常に邪魔しようとしてきた敵を倒す場面だ。
報瀬にとってはもちろんメール受信のシーンがそれにあたる。彼女にとって最大の敵であった「母親の死を実感できない自分」がここで打ち倒される。
日向にとってはかつての陸上部の友人たちに対する決別がそうなる。ここでも報瀬の助けを借りているが、過去のトラウマを抱えた彼女はここで死に、生まれ変わっている。
結月の場合は誕生日パーティーがそれに相当する。それまで友情とは何かについてきちんと理解していなかった彼女が、これを機に「ひらがな一文字」の友情を理解できるようになる。
彼女たちはいずれもこの啓示を経て変容する。めぐっちゃんという他人に頼りっぱなしだったキマリは、絶交騒ぎ以降はむしろ他人を手助けする側に回って大活躍する。
日向や結月も変容を遂げた後は報瀬のために彼女の母親の形見探しに走り回る。あまり他人に踏み込むタイプでなかった彼女たちが変わったことが分かる。
その報瀬は分かりやすく髪を切る。彼女が変わったことが明白に示される。
だが英雄が異世界を去り、元の日常に戻るためには代償が求められる。「呪的逃走」のためのアイテムが必要になるのだ。
その役目を果たしたのが「しゃくまんえん」だ。報瀬がこの「しゃくまんえん」を南極に置き去りにすることで、彼女たちは再び境界を越え、日常へと戻る。
日常へと帰還した英雄は異世界からの土産物である「霊薬」を持ち、それによって世界を変える。
報瀬は母親の最後のメールでも、あるいは仏壇の前でも、笑顔を見せるようになる。彼女の世界が変わったことが表情で示される。
結月はファンからサインを求められる。アイドルではあってもそうした場面が全く描かれなかった彼女の世界がやはり変化している様子が分かる。
日向の様子にはあまり違いがない。ただ神社に参拝する時の横顔が、夜間だった第2話とは異なり、日が差し込む明るい姿になっているのが印象的だ。
そしてキマリ。彼女の世界が変わったことはめぐっちゃんのラインによって分かりやすく示される。新しい一歩を踏み出すことを恐れていた彼女たちの世界は、既に大きく変わっている。
そして彼女たちは、きっとまた旅に出る。