それがなくても出来るが、ないとやってはいけなかったり、あったほうがハクが付いたりする。
こう考えてみると非合理的なものにも見えるが、俺はそういったものを漫然と受け入れていた。
町の人たちもほとんど同じだっただろう。
数年前の話だ。
普段は特筆するような人物ではないのだが、突発的に妙な政策を打ち出すことがある。
「皆さん、子供を健全に育むために必要なものは何だと思いますか。わたしは“豊かさ”だと考えています。
これはお金を持っているという意味もありますが、心身においても言えることです。
そう、親ですよね。
毒親、貧困、問題は様々ですが、子供が背負う業は親が大きく影響することは誰もが認めるところでしょう。
そして、この問題が起きる要因は、子供は親を選べないことだと思うのです。
だからこそ“よそはよそ、うちはうち”だとか、“個人の資質”だとかで片付けず、わたしたちが代わりにメスを入れるべきなのです」
軽く聞いただけだと尤もらしいことを言っているようにも感じられるが、市長の演説は毎回“尤もらしいだけ”なのである。
こうして打ち出された政策が、子供を持つ親の資格、“親免許”である。
実の子の育児権利にも免許証が必要なので、俺の両親もこれを発行してもらいに行った。
査定の内容は、収入だの学歴だのまるで企業の面談みたいだったらしい。
「……というわけで、収入自体は副業のおかげもあって十分です。妻もいますし、手が回らないときは近くに学童もあります」
「ふうむ、なるほど」
父の方は何とかクリア。
だが問題は、意外にも母のほうだった。
いや、意外だと思っていたのは俺と弟だけだったのかもしれない。
「……おや、あなたサイボーグらしいですが……具体的にはどこを機械化しているので?」
「脳と心臓以外はほぼ全てです」
「うーん……つまりあなたはほぼ機械ってことですよね。機械に親免許をやるというのは倫理的に……」
「そんな!? いまでこそ体は機械化していますが、私は立派な人間です」
「いかんせん特殊なケースなので、適用すべきかどうか判断しかねるのです。ちゃんと規定しないことには……」
「現時点では見送りですね。規定するにしろ会議とか手続きで、恐らくは結構時間が……」
出来立てのルールというものは融通がきかないことが多く、イレギュラーが出てくるとしどろもどろになりやすい。
今回は、母のサイボーグっぷりがソレだった。
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