ところかわって父は大作アニメの製作に関わっていて忙しかったが、俺たちのこともあり早めの帰宅を余儀なくされていた。
「フォンさん、シューゴさん。すいません、今日はこれで失礼します」
「最近は帰りが早いですね。まあ今回は予算も人員もたくさんなので支障はないですが」
「子供たちを学童に預けているので、迎えに行かないとならないんです」
「あんたの嫁さんはどうした? 病気か? いや、サイボーグだから故障って言ったほうが正確か」
「そうではなくて、例の政策に妻が引っ掛かってしまって、いま子供の面倒見れるのが俺だけなんです。では、お疲れさまでした」
「はい、お疲れさん……しかし、例のやつにマスダさんの奥さんが引っ掛かったか」
「我々が知っている限りでは、問題なさそうな人柄だと思いましたが」
「あれ基準がザックリしすぎているからな。冷静に考えれば問題ない人たちまで弾かれているらしい。逆に問題あるだろって人が親免許持っていたり。要は現実に則していないんだよ」
「ワタクシにも娘がいますが、この仕事のこともあって面倒はそこまで見れていないんですよね。なのに親免許を貰えるんですから不思議なもんですよ」
「それがマズいよな。逆に言えば貰えないやつはどれだけヤバいんだって認知される。でも実際のところ子供の教育に親がどんなタイプがいいかなんて、収入とか分かりやすいものを除けば後は不確定なんだよ」
「一理ありますが、シューゴさん子供いないのに随分と雄弁に語りますね」
「そんなにおかしいことじゃないだろ。関係のない立場から意見を出す人間のほうが遥かに多いんだ」
この時期になると、当事者以外からも今回の政策の問題点が徐々に認識され始めていた。
そして俺たちは、迎えに来た父と帰りの道中いろいろなことを話した。
「母さんは何時ごろ帰ってくる?」
「予定表を見る限りでは、早くて1週間、長くて2週間」
「免許がとれなかったら?」
「その時は再試験になるかな」
「じゃあもっとかかるってこと?」
「うーん……」
それは母という生活的、精神的支柱がいなくなったこともそうだが、政策そのものに不満を抱き始めていたからだ。
「なあ、この政策やっぱりおかしいんじゃねえの。“よき親”なんてものがどんなもんか知らないけどさ、少なくとも今の俺たちは母さんがいなくて不幸だよ」
「……うん、そうだな。なら俺たちは俺たちで、出来ることをやろう」
「まだ耐えろってこと?」
父は市長に投票した一人なこともあって、政策を批判することを憚っていた。
だが、それでもダメだと思うことにはダメだと言うべきだって決断したらしい。
俺たち家族が一致団結し、一つのことを為そうとした数少ない出来事である。
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