2017-12-04

[] #43-3「親の資格

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ところかわって父は大作アニメ製作に関わっていて忙しかったが、俺たちのこともあり早めの帰宅余儀なくされていた。

「フォンさん、シューゴさん。すいません、今日はこれで失礼します」

最近は帰りが早いですね。まあ今回は予算人員もたくさんなので支障はないですが」

子供たちを学童に預けているので、迎えに行かないとならないんです」

あんたの嫁さんはどうした? 病気か? いや、サイボーグから故障って言ったほうが正確か」

「そうではなくて、例の政策に妻が引っ掛かってしまって、いま子供の面倒見れるのが俺だけなんです。では、お疲れさまでした」

はい、お疲れさん……しかし、例のやつにマスダさんの奥さんが引っ掛かったか

「我々が知っている限りでは、問題なさそうな人柄だと思いましたが」

「あれ基準がザックリしすぎているからな。冷静に考えれば問題ない人たちまで弾かれているらしい。逆に問題あるだろって人が親免許持っていたり。要は現実に則していないんだよ」

「ワタクシにも娘がいますが、この仕事のこともあって面倒はそこまで見れていないんですよね。なのに親免許を貰えるんですから不思議なもんですよ」

「それがマズいよな。逆に言えば貰えないやつはどれだけヤバいだって認知される。でも実際のところ子供教育に親がどんなタイプがいいかなんて、収入とか分かりやすものを除けば後は不確定なんだよ」

「一理ありますが、シューゴさん子供いないのに随分と雄弁に語りますね」

「そんなにおかしいことじゃないだろ。関係のない立場から意見を出す人間のほうが遥かに多いんだ」

この時期になると、当事者以外からも今回の政策問題点が徐々に認識され始めていた。


…………

そして俺たちは、迎えに来た父と帰りの道中いろいろなことを話した。

「母さんは何時ごろ帰ってくる?」

「予定表を見る限りでは、早くて1週間、長くて2週間」

それで親の資格が得られるってのも妥当なのだろうか。

どれくらい試験の期間が長ければいいってのも分からないが。

免許がとれなかったら?」

「その時は再試験になるかな」

「じゃあもっとかかるってこと?」

「うーん……」

「弟よ、あんまり問い詰めてやるな。父さんだって不安なんだ」

家族全員ストレスがたまり、それを解消する方法もなかった。

それは母という生活的、精神的支柱がいなくなったこともそうだが、政策のものに不満を抱き始めていたからだ。

「なあ、この政策やっぱりおかしいんじゃねえの。“よき親”なんてものがどんなもんか知らないけどさ、少なくとも今の俺たちは母さんがいなくて不幸だよ」

「……うん、そうだな。なら俺たちは俺たちで、出来ることをやろう」

「まだ耐えろってこと?」

父は市長投票した一人なこともあって、政策批判することを憚っていた。

「いや、市長文句を言いに行こう」

だが、それでもダメだと思うことにはダメだと言うべきだって決断したらしい。

俺たち家族が一致団結し、一つのことを為そうとした数少ない出来事である

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記事への反応 -
  • それから紆余曲折あり、母は免許取得のため試験を受けるハメに。 「なるべく早く免許をとって帰ってくるから。それまでは我慢してね」 それまでの間、いつも母と一緒にいた時間は...

    • “資格”という概念は、社会における象徴かもしれない。 それがなくても出来るが、ないとやってはいけなかったり、あったほうがハクが付いたりする。 こう考えてみると非合理的な...

  • ≪ 前 ところかわって母のほうでは、試験を受けに来た人たちのストレスがピークを迎えつつあった。 「マスダさん、マスダさん」 母に話しかけてきたのはセンセイだ。 この試験に...

    • ≪ 前 この話を思い出す度、俺はセンセイとした、とある話も思い出す。 「マスダ、ちょっとしたクイズだ。組織を崩壊させるトップには、どんな条件があると思う?」 「そりゃあ“...

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