2017-12-05

[] #43-4「親の資格

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ところかわって母のほうでは、試験を受けに来た人たちのストレスピークを迎えつつあった。

「マスダさん、マスダさん」

母に話しかけてきたのはセンセイだ。

この試験にはセンセイも来ており、母とはよく会場で話していたらしい。

「そういえば、あなたはなぜこの免許を取りに? 子供がいるとか、それとも予定が?」

「いえ、私は就職に有利だと言われてこの資格を取りにきたんです」

就職に有利? 保育士ベビーシッターを目指しているの?」

「いえ、近年では様々な企業で妊休や育休などにも歓迎ムードが漂っています。なので非常に汎用性が高い資格を……とセミナーの人に言われて来たのですが、正直ちょっと胡散臭く思っています

「多分それは受講料を払わせるための建前よ」

母は脳に繋がれたメモリーボードによって、瞬時に理屈提示する。

「妊休や育休は企業側が受け入れるべきものではあっても、歓迎するものにはなりえないものいくらフォローが円滑にできるシステムを構築したとしても、一企業にとって妊休や育休をしない人材に越したことはない、という前提は変わらないんだから

だが時に血の通っていない、身も蓋もないことも平気で言うため、周りからの評判はあまりよくなかった。

とはいえ、今回はセンセイ自身何となく分かっていたことだったため、それを明言化した母の理屈に対して納得せざるを得なかった。

「ふむ、やはりそうでしたか。誰もそういったことを言わないものから、私の懸念が間違っていたのか不安になっていたのです」

「それは仕方ないわ。受容と歓迎を区別できていない人は、側面的に否定をしたら全面的否定していると錯覚してしまうの。区別できている人も、その誤解を恐れて口をつぐむからね。サイボーグであることを言い訳にすれば話は別だけど」

「ははは、まあいずれにしろ、この親免許はそう遠くないうちに効力を失うかもしれませんが」

「どういうこと?」

民衆の不満が徐々に溜まっているんです。理念のものは良くても、色々と難ありな政策ですからね」


…………

俺たちは市長の下へ向かったのだが、その場にたどり着いたときギョっとした。

そこには俺たち以外にもたくさんの人たちが抗議のために集まっていたのだ。

どうやら、この親免許制度は、俺たち以外にも様々な問題が発生していたらしい。

子供たちの身寄りや、保護施設が行き届いていないぞ!」

「なんで年寄りから免許剥奪しないんですか」

仮免ってどういうことだよ」

小学生中学生の親免許が別だなんて聞いてねえ!」

試験内容がクソすぎる。あんな引っ掛け問題で落とされるとか納得いかねえ」

問題が複雑化と肥大化を繰り返し、市の管理では手が回らない状況になっていた。

結局、程なくして親免許という決まりはなくなり、俺たちのもとに母が戻ってきた。

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記事への反応 -
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    • それから紆余曲折あり、母は免許取得のため試験を受けるハメに。 「なるべく早く免許をとって帰ってくるから。それまでは我慢してね」 それまでの間、いつも母と一緒にいた時間は...

      • “資格”という概念は、社会における象徴かもしれない。 それがなくても出来るが、ないとやってはいけなかったり、あったほうがハクが付いたりする。 こう考えてみると非合理的な...

  • ≪ 前 この話を思い出す度、俺はセンセイとした、とある話も思い出す。 「マスダ、ちょっとしたクイズだ。組織を崩壊させるトップには、どんな条件があると思う?」 「そりゃあ“...

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