2015-09-11

昨日「釣りタイトル」と騒がれたアルツハイマー病の記事について

http://b.hatena.ne.jp/entry/www3.nhk.or.jp/news/html/20150910/k10010224521000.html

私も昨今の釣りタイトルの多さには辟易しているが、この件は違うと思うので解説したい。

(私は医者研究者です。)

まず最初に、アルツハイマー病とアルツハイマー認知症は違う。

アルツハイマー病は、極めて稀な遺伝性疾患で若年性認知症を引き起こす。

映画私の頭の中の消しゴム」の主人公罹患した病気

原因はβアミロイドという異常タンパク質が膿の神経細胞に蓄積して細胞死を起こすことによる。

ゴミが溜まりすぎて死んじゃった状態。神経細胞がどんどん死んじゃうから認知症になる。

アルツハイマー認知症は、老人性認知症の約半数をしめるもので、

よくある病気というかむしろ正常な老化現象のひとつとも言える。

なぜアルツハイマー認知症と呼ばれるかというと、βアミロイドが脳の神経細胞に蓄積していて、

顕微鏡で見るとアルツハイマー病に似ているから。

クロイツフェルト・ヤコブ病狂牛病プリオン病と呼ばれ、異常プリオンが脳の神経細胞に蓄積して細胞死を起こす病気

正常プリオンは成体に必須大事分子で、用済みになると分解されるのだが、

異常プリオン分子のたたみ方が違うので分解できずに蓄積してしまう。

基本的には遺伝性代謝異常で起こる病気だけど、外来性に異常プリオンを多量に摂取することで遺伝性背景のない人でも発症する。

狂牛病クールー病のように異常プリオンを含むものを食べたり、

医原性ヤコブ病のようにヒト由来手術材料(脳の手術をした後に穴を塞いだりする)とか成長ホルモン投与などで起こる。

ここまでが基本的な背景。こっから本題の今回のニュース

アルツハイマー病は従来ではβアミロイドの合成・分解に関わる遺伝性代謝異常と考えられてきた。

しかしながら、このたび医原性ヤコブ病の脳を調べた結果、プリオンだけじゃなくてβアミロイドも蓄積されていた。

ということは、プリオンのみならずβアミロイドも、外来のものが蓄積する可能性があって、

から人へ伝搬されうる病気であることが示唆された。

間違えないでほしいのは、ヤコブ病でも認知症をきたすことは知られているが、今回の研究はその認知症の仕組みを探ったものではなくて、

あくまでもアルツハイマー病の原因となるβアミロイドの蓄積が顕微鏡的に認められたという現象論だということ。

「βアミロイドも人から人へ伝搬されうるよ」っていうのがもの凄いインパクトで、Natureに載るのもうなずけるぐらい凄い研究

ここでまた補足するけど、病原物質個体から個体に伝搬されることを感染定義する。

感染というと飛沫感染とか空気感染とか接触感染とかをイメージするかもしれないけど、ヒト材料による医原性感染も立派な感染だ。

したがって、上記の現象をまとめると、

アルツハイマー病の原因物質であるβアミロイドが、人から人に感染する可能性が示唆された」ということになる。

それをさらに要約して、「アルツハイマー病の原因物質から人に感染か」

というタイトルをつけるのは、医学的・生物学的に正しい表現だし、的外れでも大袈裟でもない。

意識と知性の高いはてブ民が、

バカがこのタイトルだけ読んだら『呆けた年寄りの近くに寄ったら自分も呆けちゃう』と勘違いして差別に繋がる」

なんてことを勝手危惧してNHKを叩くのは、余計なお世話だしパターナリズムじゃないか。

余談だが、昨年にアイスバケツチャレンジ話題となった筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因は、

TDP43という分子神経細胞に蓄積して細胞死をきたすことなので、もしかするとこれも感染性の可能性があるかもね。

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