2015-08-04

妊娠たかもしれない話

最悪だ。

「堕ろすとか、考えたくないよね。それ、殺人じゃない?」

「産まないって言い方したいけど、堕すことに変わりないしね……あーあ、うちの友達がこないだ中出し許しちゃって、妊娠して堕ろしちゃったんたげど、その子のことをみんなが歩く殺人現場って呼び初めてさあ、大変だったんだよね」

「歩く殺人現場ねえ……」

といった内容の会話を、わたしは友人とつい最近したばかりだった。

高校の頃、主要5科目の成績は最悪だったが、保健体育だけは常にA+の評価キープできていた。

なのに、それなのに。

ベッドの上で震えるセフレ。なんだよ、今日はいつにも増して深刻な賢者タイムなのかよ、と思いきや、口を開いて直ぐに「ごめんなさい」と彼が呟いた。コンドームの先っちょだけが何故か丸く破れていて、精液は見当たらなかった。見事に中出しされていた訳だ。

コンドーム、破れてるんだけど……」

大学生になったわたしは殺人現場になりかけていた。

わたしと彼は、急いで産婦人科に向かって、アフターピルを貰いに行った。

アフターピルをもらう際の質問用紙は結構えげつない物が多くて、いつセックスしただとか、コンドームつけてたかだとか、膣内射精か外出しかとかそんなことまで聞いてくる。レイプ事件でよく『セカンドレイプ』なる単語を耳にすることがあったが、これもちょっとしたセカンドレイプな気がしてわたしは嫌いだった。

なぜ、それらの質問をされる事が嫌いと言えるのか。

それは、愚かなことに、アフターピルをもらうのが二回目だからだ。

前回は、コンドームをつけたのにも関わらず、外れて漏れるなどといった事態が起きた。しかし、今回は漏れているのではなく、確実に膣内に出されてしまっている。それは、精液が溜まってないコンドームを見れば明らかな事であった。

死にたい

からそう思った。アフターピル中絶処理をされる患者区分が『処置』になっていることに気付いて、私はより一層憂鬱な気分になった。隣にいたピンク紫色の『ゆめ可愛いカラーを纏った若い女の子が『処置』で呼ばれているのを見て、ハッとして周りをよく見た。胸のあたりが大きくあいた服、極端に短いスカート産婦人科に似合わない派手な服装。こういった格好をした女の子たちは、お腹を膨らませて、ふんわりとしたワンピースを着ている妊婦とは全く違う世界の生き物で、扱いをされているように思えた。そして、わたしは前者の、『処置』されるような女の子として見られてることが何よりも辛かった。『処置』を待つ女の子が受付に「喫煙所ありますかぁ?」と尋ねている声を聞くと、思わずタバコが入ったポーチを捨てたくなる感情に駆られた。

てかさ、死にたいって思うなら最初からしなきゃいいし、なんでそんなリスキーなことするんだよ、しかも付き合ってない人間と!

だったらセックスしなきゃいいじゃん、ってしょっちゅう言われる。

私もそれが正しいと思う。

だけどできない。セックスはしたい。しないと、辛い。適切に性欲が処理できない。オナニーをする度に、あまりの虚しさに泣いてしまうし、手首や足もカッターナイフでズタズタになる。ベンゾ系の薬物を飲む。眠る。翌朝、また虚しさが残る。

セックスでなければいけなかった。

隣に誰かがいて、他者を巻き込んで、他者のせいにしたかった。

人の温もりを感じたかった。ベンゾに温もりを与えるなんて効用はもちろん無い。

わたしはベンゾを飲むのをやめてセックスを選んだ。

その結果がこれだ。

2回もアフターピルを飲む羽目になってしまった。

生理が早く来て欲しい。

中学生の時はあんなに憎かった生理が恋しい。

確かに、煩わしさしかなかった筈なのに。

薬局に行って下剤をもらって体を壊そうか、食事をやめようか、暇さえあれば子宮のあたりを殴った。腹を壊して、下痢になった。

何もする気になれない。恐怖感だけがそこにある。

だけど、私が生きている中で、セックスをしたいと思えなくなる、貴重な時間であることに間違いはなかった。

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