2015-06-13

善良なる人々

大学中退し、6年ほど俺は憎悪と怒りに包まれていた。

世間体を気にしてばかりで自分の考えをロクにも持たず

そのくせにして傷つけられる人一倍恐れて、そんな脅威を感じ取ると

1人1人じゃ何も出来ないくせにして団結して悪人とみなしたそれを共同体から排除しようとする

"善良なる人々"がとにかくただ憎くてたまらなかった。

そんな奴らは個を消そうとしてまで空気を愛するのだから当然話していてもつまらぬ人ばかりだ。

テレビタレントなどの低俗話題に、低学歴がやるスポーツ話題に、誰と誰が付き合ったのだとか別れただの

俺は心底からうんざりしていた。本当に何も面白くなかった。

 

こうして俺は退学した後に本を読み漁るようになった。自分が間違ってなんかいないと確信を持ちたかった。

マジョリティに苦しめつつ成功した人の本、日本の閉鎖的な文化批判する本、孤独であることを肯定してくれる本など

とにかく色々と読み漁った。哲学書も読んだ。ショーペンハウアーは大変共感した。ニーチェはよくわからなかった。

本は俺に励ましてくれたり、時には厳しいことも言い放つこともあったが、それでも悪い気はしなかった。

しかしそんな生活限界が訪れた。本でいくら励まされても行動しなければ意味がないのだ。

本で肥大に膨れ上がったプライド邪魔をし、俺は行動するのをひたすら恐れてしまっていた。

しか生活はもう成り立たなくなっていた。それでも俺は動けずにいた。

この肥大したプライドを抱えて自滅しようと考えた事もあった。でもそれすらも出来なかった。

ほぼ廃人になりかけた俺を救ったのは俺が"善良なる人々"として見下していた友人だった。

友人の協力でハローワークまで足を運び、それから事は順調に進んで小さな会社正社員として採用された。

もう無理だと諦めていたはずの就職、それは自分の頭の中だけこねくり回した幻想だった。

その時、心の中の何かが崩れ落ちた。あれだけ愛していた本が一瞬にしてどうでもよくなった。

何度も読み返したのであろうの本もダンボールに詰めて売り払った。7千円ちょいで売れた。

俺の6年間は7千円ちょいの金になった。その金で友人に感謝気持ちも込めて飯をおごった。

就職してからもうすぐ1年経とうとしてる。今の所は特にトラブルもなく上手く行ってる。

俺は"善良なる人々"に人生を救われた。

 

俺は完敗した。いや、最初から敵う相手じゃなかった。むしろ敵意を抱いたのが間違いだった。

彼らは生き残る為の術を身につけていただけだった。俺はそれに気づくまで30年近くかかった。

から俺も"善良なる人々"の1人としてこれから生きようと思う。俺はそこまで強い人間じゃなかった。

こうして今は昔は嫌悪していたものを覚えるようにしている。ギャンブルは除いて。

バーベーキューのやり方、スポーツ観戦、ボーリングで高い得点取るコツ、今流行りのソシャゲ

車のメーカーや種類、美味いラーメン店ゴルフの打ち方、ラッスンゴレライ歌詞

俺も早くそっちに行くから色々と教えてくれよな。

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