2014-10-07

スーパーレジ打ち女子高生のEOL

たとえば君が上司に怒鳴られ営業になじられ同期にさげすまれ残業して組んだコードすら思い通りに動かず打ちひしがれて家路につくとする。この時間東横線は相変わらず酒臭い。やっとの思いで最寄の駅につき重い足を引きずってエスカレーターを上る。駅ナカ東急ストア24時まで営業していて、カゴを手にした君はいものルートをたどる。野菜売り場、海鮮類、乳製品売り場をやりすごし足をとめる。惣菜売り場。割引ラベルが何枚も重ねられそれでも売れ残っているふにゃふにゃの餃子やどぎつい色のエビチリが目につく。適当に選んだ惣菜を2個、ポテチ麦とホップをカゴに入れた君はレジに向かいスマホから顔をあげてビックリする。



まるで天使だった。化粧っけもなく、素朴な感じにも関わらず明らかに美少女の部類。どう見ても女子高生。でもこんな時間レジ打ちしているなんて家庭の事情か何かだろうか?名札の下の丸いバッジには『研修中』の文字。値段を読み上げる声は花のように可憐で、おつりを受け取るときちょっとだけ指が触れた。温かい彼女はすぐに手を引っ込めてお腹のあたりで手を組み、ふかぶかと君にお辞儀をする。「ありがとうございました」



それは間違いなく恋だった。君は毎日同じ時間スーパーに寄るようになる。見栄をはっていいビールを買ってみたり、健康そうなサラダをカゴに入れては彼女の反応をうかがったりする。家に帰って彼女を思い浮かべながらビールを飲み、いい気分のまま床に就く。夢にまで彼女を見る。東急ストア制服彼女。君に手を振る。君に微笑む。ふむ。間違いなく恋だ。



だが変化は訪れる。彼女の後ろのレジにチャラチャラした男子高校生が入るようになった。昨日はそいつ商品をいい加減に並べているのを見た。彼女と楽しそうに話しているのも見た。様子を見てやろうとそいつレジに並んでみる。愛想笑いもできないのか、クソやろうが。こっちの気持ちを読んだのか小銭の渡し方がひどくぞんざいでバラバラと小銭がちらばる。クソやろうは、あーすんませんと言っただけでレジから出てこようともしない。

カチンと来たおれがそいつをにらもうとするとあの彼女が小銭を拾って俺に渡してくれる。すこし困った顔をしてでも笑顔で「大変もうしわけございません」

いた。天使はいた。東京天使がいる。東横線沿線天使がいる。


そしてまた君は通い続ける。そして気がつく。彼女が化粧をするようになった。かわいさが一段と増した。ピアスをあけた。似合ってる。ネイルもしている。まだ早いな、でもかわいいから許す。やわらかそうな色のリップで君に微笑む。うわっ、とろける。と、彼女視線が君を通り越していることに気づく。その視線の先にいるのはあのクソやろうだ。あのクソやろういつの間に! 君のほうが先に彼女出会っていたのに!



土曜日冷蔵庫ビールが空になった君は昼から東急ストアに向かう。道すがら、高校制服姿の彼女ラフなブレザー姿のクソやろうと自転車を二人乗りしているところとすれ違う。完全に終わった。恋の終わり。始まってもいないけれども、君の恋は終わる。レジ打ち女子高生のEOL。エンド・オブ・ライフ



休みがあけまたクソみたいな月曜日が始まる。クソみたいな依頼が来て、クソみたいな上司に頭を下げ、クソみたいなスペックPCにクソみたいなコードを打ち込む。クソみたいな動作しかしないクソみたいなシステムがうんともすんともいわなくなりモニタブラックアウトする。真っ黒なモニタにはクソみたいな顔をした男の顔が映っている。

クソみたいな君の顔が映っている。




君は奇声を発して同僚をビックリさせる。上司憐れみの顔で君を見て今日はもう帰れと言う。素直に荷物をまとめた君は家路につき、駅ナカ東急ストアを避けて駅から遠く離れたダイエーに向かう。イライラしたまま店内をうろつく。慣れない並びの商品棚をめぐり大量のつまみビールを6缶カゴにいれ乱暴にレジに置く。きゃっ。

レジ担当がびっくりしている。女の声だ。

そして彼女を見て君は目を疑う。

女神がいる。

碑文谷ダイエーにいままさに女神がいる。

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