はてなキーワード: 煙草とは
下請けが協力会社と呼ばれて久しいけど、
直接業務で関わることはないので業務上役に立っているのかどうかはわからないが、
マナーというか振る舞いが目に余る。
エレベーターはいつも煙草吸いに行く協力会社の連中でいっぱい。お客様を連れた自分が来ても、問答無用で目の前でエレベーターの扉を閉めやがる。
予約もしていないのに会議室を占拠する。平身低頭で「予約しているんですが・・・」と伝えても「なんだよ」って態度で謝ることもしない。
便所(大便器)は協力会社の連中の息抜きの場なのか、いつ行っても閉まっておりピコピコと携帯を押す音が。トイレーダーか。
「お客様」のオフィスで我が物顔のように振舞うのってどうなんだろう。
何かがおかしい。やっぱり「下請け」って呼んだほうがいいよ。絶対なにか勘違いしている。
おまえらだよ、IンチキBジネスマン!
TRACK8(INSTRUMENTAL)
トゥルルル、ガチャ。
「はい、もしもし。----ですけど」
「あたし、分かる?」
「うん。どうしたの?突然に」
「別にどうもしてないんだけど、忙しい?」
「いーや。何もしてないよ。暇だったけど」
「…あのね、さっきテレビで怖いドラマ見ちゃってそしたら電話して言いたくなっちゃった」
「どんなの?」
↓
「別にそんだけ。用はないんだ、じゃぁね」
ガチャ。
TRACK9
待ち合わせ。と、いう行為は非常に楽しいことであると同時にとてつもない苦行でもある。その日は僕は極小Tシャツにデッドストックのブーツカットジーンズ、エナメルのビルケンのサンダルという出で立ちでひたすら彼女を待っていた。風のない日でおまけに正午、じりじりと僕を責めたてるものが太陽でなかったら一体なんだろう。焦燥、字面からしてもう、焦がれている。遅れること20分彼女はやってきた。いつもパンツルックの彼女がスカートを履いている。吉兆と緊張。
昼食はでたらめに飛び込んだ店でとった。その割にはまぁ、美味しかったので、良い気分で店を出て電車に乗って移動する。ガタンゴトン。語っとこう、肩の力抜こう、と聞こえる。従い、彼女と語る。
彼女の話は長いので省略。
「へー。そうなんだ」
とりあえずのところそんな風にあいずちを打っておけば問題ない。一応、カタルシス。
「いつもはね、汚れちゃうからパンツなんだけど。足太いからあんまし履きたくないんだけどさ、今日はね。あたし、デートのときしかスカート履かないんだよ。どう?」
「いいね」
色々いい。色も良いし、もっと履いたらいい。
様々な店がひっきりなしという感で立ち並ぶ雑多な、滅多に歩かない、街の通りを見て歩く。それはもう本当に様々で、古着屋、雑貨屋などをはじめに目に入った順に立ち寄った。僕も彼女も何も買わないし、何か目あての物があったわけではないのだが非常に楽な気分になれた。肩の力が抜けたという感じか、顔を合わせるのが3度目とは思えないほど僕達はリラックスし、それ以上に親近感が2人の周りの空間を包み込んでいた。呑み込んでいた。淀みが飛んでいた。
夕方になると幾分風が、心地良く吹き始め、人々の頭髪を、柔らかく揺らす。僕の崩れた頭髪も、あっちも、こっちも。いつもおろしっぱなしの髪をバレッタで巻いて揚げた隣の彼女をも。もう。
「はぁー。疲れたね」
「うん、生き返った」
喚き、歩き疲れた僕達はファーストフードの店に入りその体に飲み物をひとしきり流し込んで、そう交す。まるで仕事後のサラリーマンが居酒屋でやってるみたいにだ。彼女の話を聞いていた。彼女はとてもおしゃべりな子で、そうそう黙り込むことはなかった。ハンバーガーを食べていた僕の口の周りはもはや壊滅的状況といった装いで、その被害情況は両手、トレイにまで及んだ。僕はハンバーガーだのがうまく食べられたためしがない。だったら食べるのよすのが良いんだけど。
「もう。汚いなぁ、あたしが食べちゃおうかな」
と言って大きく口を開けてかじりつくふりをする。ライオンみたい。
やっとのことで食べ終えた僕は、
「そういや、何か用事があるんじゃなかったっけか。何時に何処?もうすぐでしょ?」
と尋ねた。外れない。
「そうなんだよねー。あーあ、どうしよう」
「すっぽかすのはまずいでしょ」
「うん…」
力なくそう答えてからいつも元気な彼女は次の瞬間しゅんとなって
「…もっと一緒に居たいな」
ぽつり。
ここは駅付近、駅構内へ向かう人出て来る人どちらの人も皆せわしなく歩いている。足音だけが彼等の存在証明、そして僕等も、その存在を立証すべくお互いに優しく注意深く手を振る。彼女はもうすっかり笑ってそのたてがみの様な頭髪をゆさゆさと差し込む陽光で金色に光らせて今もう一度手を振った。もう1度揺すった。
僕達は一体どうなるんだろう。願望だけが宙に浮いて。振り向いて。
真夏のライオンキング。
TRACK10
僕と彼との一旦。
暑い暑い気が触れる寸前の夜、俗にいう熱帯夜。基本的には気が滅入ってヤダ。でも、ちょっと素敵じゃない?
「いらないね。酒を飲むときは何もいらないんだ。しいていえばピスタチオくらいあれば申し分ない」
「そうだった。じゃ、ピスタチオも」
ウェイターにそう告げると快くカウンターに入っていった。無音で「いい」って言った。えらく少ないオーダーに嫌な顔をする店というのは結構世の中にはたくさんあるものだ。そんな中にあって稀少といってもいい店。だからよく行くお店。
「最近さ、どうしてんのさ」
「別に。どうもしないさ」
「でも呼び出したからには何かあったんでしょ。少なくとも」
「ただの世話話だよ」
世話話というのは世間話のことだ。
少し遡ろう。ちょっと盗聴っぽく。
「はい?」
電話に出た僕の耳に聞こえてくるのは紛れもない彼の声だ。
「あのさ、ちょっと出れない?」
「いいけどオールとか無理だぜ。君と違って明日も学校があるんだから」
「あるのは知ってるさ。毎日ある。さらに言うなら君が行かないことも知ってる」
「わぁったよ」
「場所は分かってるだろ。何時に来れる?」
「8時」と、僕。
「ということは9時だな」
彼の失礼な言葉で電話を終わらせ部屋に戻り飲みかけのコーラを飲んでしまうとそのあとでゆっくりとマールボロを吸う。ゆっくりと支度をした。
「ごめん、遅れた」
時計は8時45分を指している。
「いいや時間通りだよ」
こういうことを分かっている存在だ。ぞんざいか?
「また夏が終わるよ。1人者の夏が」彼。
「そうかい。嘆くことでもないと思うけどね」と、僕。
「まーね、君は顔がいいからね」
といつも言う口癖を言って5杯目のカクテルを飲み干す。とはいっても彼の飲んでいるのは全てショートカクテルの強いものばかりだ。僕だったらもうストップなのに彼はまだ飲むつもりらしい。積もることでもあるらしい。
「オーダーいいすか?チャーリーチャップリンとスレッジ・ハンマー」
「ああ、俺、結構キいてきたよ」
「でも飲めるだろ?」
「俺何か食おうかな。あ、これ頼んで。ナスとミートのオープンオムレツ、これ食いたい」
「オーケー」
僕は吸いかけの煙草を灰皿で揉み消し、新しい煙草に火を付ける。僕も彼もはっきりいってチェーン・スモーキングに近いのだ。そして料理を食べる。僕達は当初の予定通り身のない話を山ほどした。見ない未来の話や、なにか、そういう意味では今日のノルマはクリアしている、現実的にも比喩的にもお腹一杯だ。だけどどんなに話し合っても分からないことだらけだったし、どんなに飲んでも食べても飢えも渇きも消えなかった。僕はそろそろ答えを欲している。そして、バックグラウンドはレゲェミュージック。ワン・ラブ。笑う。
「どうだい?」
「どうだろう?」
夜はまだまだ終わらない。
僕たちはまだまだ笑い終えない。
TRACK11(INSTRUMENTAL)
僕は今まで数多くのものを憎んだけれど、このときのベスト1は美術予備校の講師だ。僕は天秤にかけられ、結果彼女に拒まれた。それだけだ。だけど秤に乗せられる気持ちなんて秤に乗ったことがある人間にしか分からない。僕は偉大なる日々から日常へと帰っていく。
あるいは僕が憎んだのはこの僕自身だったかもしれない。もう忘れた。
TRACK12
僕ともうちょっとマシなものとの会話。
『ほら、言わんこっちゃない』
「何が?」
僕は怒っている。
『分かったろ?』
「だから何が?」
『僕が話したいのはそんな君じゃないんだけどな』
「いいよ、あきらめついたから」
『そう?』
「拒絶したい奴はすればいいさ。僕はそれほど何もかもに関心があるわけじゃないんだから」
『ただの負け惜しみにしか聞こえないけど。未練たっぷり。直視出来ない、まともに見れん』
「それも1つの見解でしかない」
『まだ他人がうらやましい?忘れた?あの日、君は道標を見つけたんじゃなかった?なら進めよ。君が今嘆いているのは大前提の事実だぜ、うかれて足元すくわれただけだろ。だいたい何をうかれてんだよ。君は何も知らなかった、それだけだろ。大きな勘違い』
「裏切られた気持ちを知らないからだ」
『なら言ってやる。求めればあたえられるっていうのはナメてんだよ。子供か?何でも向こうからやって来るのを待ってんのか?耳かっぽじれ。求めよ!渇望せよ!そして進め。これが本当だ。この先はない。与えられん』
「…」
『泣いたってだめだよ』
「どうしたらいい?」
『大丈夫、きっとうまくいくさ』
その夜、誰も見てないのを確認してから泣いた。
TRACK13(INSTRUMENTAL)
そらで言える電話番号を押して彼女に電話をかける。時の流れと一緒にプレッシャーも流動しているのだ。なぜならもう合格発表の時期だからだ。
「どうだった?」
僕と彼女では専攻が違うのでこの聞き方はおかしい。まるで一緒に受けたみたいだ。
「そっか、俺の方もだめだったよ。今度のはいつ発表?何処?そんときにまたかけるよ。じゃぁね」
別に彼女の恋人でなくともできることはたくさんある。あるいはただ未練がましいだけかも知れない。それはそれでかまわないのだ、僕に重要なことは正しいベクトルであること。これだ。
××美大の発表の日、僕はすぐには電話をかけることができず少々ごたついてしまい結局かけることができたのはその何日か後になってしまった。胸を早く打ちながら、受話器があがるところを想像したが電話に出たのは彼女ではなかった。
後にも先にもこれほど途方に暮れたのはこれっきりである。
TRACK14
時の流れはきっと冷たいんじゃないかと思う。非情という意味ではなくて体感温度として、ちょっとした心象表現だ。下らないことを言ってみたかっただけ。そして、今だ僕の体もその流れの中にある。聞き流して。
いや、溶かして。
ハイ・シエラの谷でとれた水の冷たさで僕の右手はもはや麻痺し、何も描けない。はっきり言って逃げ出したかったけれど一体僕は何処へ逃げたらいいんだ?そんなわけで僕は日常の中で小さな現実逃避を繰り返しては、ぶりかえしては、熱病に執拗に、連れ戻されていた。
僕には浪人という立場があり、やるべきことがきちんとあったがその答えをまるで別の方向で弾きだそうとするみたいに足掻いた。足掻いて、足掻いて、その跡で凍傷で焼けた赤い手を見て、そして、そのことからまた逃げるように他のことで代償行為としたのだ。言ってみればこの時にひょんなことで出会った娘と何度も、映画を見るための2時間限りのデートを繰り返したのだってその一環でしかなかったかも知れない。
良く晴れた平日の昼間に近場の公園で文庫本を読みながら、溜め息をついた。いまだ、僕の右手はかじかんだままである。
あがけばあがくほどより深い溝にはまってゆく、それが僕に限った話かどうかは知らないけれど。アリジゴクっていうのがあるけどとても悲惨なネーミングだ。もう、本当に。誰がつけたか興味ないけれど、そんな名前をつける奴こそが深い溝の底で未曾有の苦しみを味わうがいい。
僕は予備校にまた通い出した。大好きなマイナーなクソ映画もあらかた漁りつくし、しまいには見るものなくてフェリーニまで見た。夜な夜な飲み歩き、好きでもない酒を知らない人間と飲むのももううんざりした。近所の公園なんて僕の縄張りみたいなもんだ。やるべきことをやる時期、そう判断したのだ。ゆらゆら、ゆらゆら、クラゲのように気楽に海水と愛の巣をつくる話は破談した。求愛する相手も無くし、色んな居場所を追われたけれどラッキーなことに僕にはまだやらなければいけないことが残っていた。僕はついてる。
相変わらず判で押した様に定時に行くことは無理だったけどそれでも少しは救われた。
ピリピリという擬音が聞こえてきそうなほど押し差し迫った空気の中、僕は浪人2度目の受験を迎える。そんな中に在っても僕はふっきれないまままるでコンクリートのプールで泳ぐ気分だった。
具合が悪くなるくらい考え事をして僕は生まれ変わる夢ばかり見た。1度だけ大学生に生まれ変わる夢を見た。勿論、笑い話だぜ。
TRACK15(INSTRUMENTAL)
いよいよ試験の日程も押し差し迫るといった最後の前日、友達がお守りをくれた。実際に彼が身につけ、数々の合格をむしりとったラッキーお守りだからといって僕にくれたのだ。
そして、僕は合格した。拍子抜けした。
TRACK16
僕は大学生になり、あくせくと大学生をまっとうし、わだかまりとアクセスしたけれどそれが何だっていうのだろう?僕は考えられないほど学校に通い恋をすることもなかった、何事もなかった、暇がなかったわけでもないし余裕がなかったわけでもない。浪人中に比べればさほどの欝没も感じない。歳をとったせいか、はたまたそんな時代なのか知んないけどな。
ただ僕は絵を描いていた。派手に遊ぶこともなく前から付き合いのある友人と付き合い、本を読み、そして絵を。辛かったことを忘れないように、嬉しかったことをかみしめるように、恥ずかしい自分を戒めるように、何よりも自分自身の僕という存在の力を知りたくて。
そして、まだ、在りたかった僕になりたくて。
TRACK17
蟻はただ働き、そしてそういう自らを肯定した。そのおかげでかつての僕を知る人などは変貌ぶりに驚嘆の声など挙げてみたり、またある人は近づき難しと距離をおいた。何も考えない、蟻は死など恐れない。死への行進、日付だけが更新。そんなの怖くなかった。ただ、そのシステムが変わるのが恐ろしかった。何かが変わるのが恐ろしかった。でも、案の定何かが変わる。
僕はある女の子と出会った。それは特別にマーキングしておかなければとても目立たないような特徴のない毎日に降ってきた、だから僕はその娘が特別だとは少しも思わなかったのだ。
電話が鳴る。その内容はとても事務的に終始しつつ意図の分からないものだった。予想外の人物、ただの1度以前に引き合わされただけの人物が電話の主とはいえ、特徴のない平穏な毎日の中にある僕はこの出来事の持つある種の特殊性に気付かずにいたのだ。
そして2度目の電話も鳴る。
「もしもし 覚えてますか?」
消え入りそうな声。
「ええ、覚えてますよ」
遥か、遥か遠くから語りかける言葉。
そう。堯倖に等しい毎日はとても当たり前の顔をして始まったのだ。キングダム。
実際に会った彼女の中の王国は、かつて様々な人の中に垣間見たような理解の範疇を超えるような代物ではなかったし、逆もまたしかりだったのではないだろうか。
なんとなく信じられないのは、今こんなふうに生きていること。ただその喜びは宙に浮かんで輪郭もはっきりとすぐ鼻先にあるみたいなのだけれど、蜃気楼みたいに決して届くことはないのかもしれない。物事は現実的であればあるほどそのリアリティを失っていく。誠実であろうと思えば思うほどそれが叶わないようにだ。
世はなべて。僕は儚む。
そして、一筋の光明。
TRACK18(INSTRUMENTAL)
最初に体を重ねてから数ケ月経ったある日、僕達は共同作業を終えた。それは本当に思い掛けないぐらい突然にやってきた。僕はこの時やっと誰しもが容易に掴み取ったであろうリアルを手中に収めたのだ。
彼女は笑った。
僕も笑った。
何かが起こりそうな予感がする時は必ず何かが起こる。僕の得た貴重な経験則のひとつだ。
TRACK19
人は忘れる生き物だから、人は忘れる生き物だから、人は忘れる生き物だから。
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男は言った。
「信じているか?絶対の、完全無欠の、無制限の、無条件の」
TRACK20
夕方4時頃目が覚めた。
頬をつたう涙の正体は一向に分からなかったが、多分コンタクトを外さずに寝たせいだろうと解釈した。大学は夏休みに入っていて特にすることがないのだが埒のあかないことにいつまでもかかずらっていることはあまり好みではないからだ。さてどうしようと考えて外食しにいく事にした。
身支度をして部屋のドアを閉める。
僕は随分と長い間喋り続けた後のような疲労感と、倦怠感、凄絶とも言えるかつてない空腹に襲われていた。そしてあまりに腹が空いて相当笑えてもいた。炎天下の下、こんな体を引きながら繁華街まで出るのはどう考えても億劫だった。駅に行くまでには定食屋だってあったし、それこそラーメン屋や各種飲食店の類は数え上げたら切りがないほど存在したのだけれど、何故か僕の足は駅に辿り着き、そして疲弊しきった体はというと、駅のホームに立ち、新宿行の電車を待とうとしていたのだ。辟易とした。
平気?いや、平気じゃない。今何故か僕の体は睡眠から覚めたばかりだというのに随分と疲弊していて、風邪をひいたのか何か分からないけれど異常な倦怠感があったのだ。喫煙所でバカスカ煙草を吸いながら、僕は癇癪を起こしそうだった。どんな解釈も無用だった、もう、電車がホームに入ったからだ。どうも僕は乗る気らしいし。
新宿の街で食べたものはといえば、それが果たして自分の住む近所で食べたこととそうも結果が変わるとも思えないようなメニューを選択してしまったし、それでなくとも、まともに考えればわざわざ新宿に電車に乗って飯を食いに来る意味は何なのかと、自分に問うていた。腹が朽ちるとそれも馬鹿馬鹿しくて良い方向に笑えてくる。満腹になった今でいえば、そんなわけの分からない自分が、少し気に入ってきつつもあったのだ。
大学が夏休みに入ってからというもの、怠惰な生活に、対話なき生活に、僕はすっかり馴れてしかも親しんでしまっていた。基本的に自炊で食事を賄う僕としては外出することもなかなかなくなっていた。まぁ、念願叶うといってはおおげさだが、いい機会でもあった。
ファッション・ビルの1番上から順に眺める。店舗に入る服屋を物色する。僕は必要に迫られない、狭められない、そんな買い物が好きだった。もう、若い者ではない僕には最先端の流行は必要ではない。購い者でもない。
ひとしきり人ごみを満喫し、ポケットから煙草を取り出して、目的もなく歩く。人の流れにうまく乗り、集団の中手に、苦なく波に乗り、咥えた煙草に火をつけた。映画の巨大な看板を目にして、胸に何か去来する。僕には何も、分からない。
信号の青い点灯を待たずに、跨がずに、すぐ手前の白線を踏む。人の織り成す濁流が交差して、甲翳して、ふたつの流れの交わるところで僕は前方から歩いてくる若い女性の姿が目に止まる。歳の頃も同じぐらいで、髪が肩よりも短く、白い開襟のシャツを着ていた女だった。堪らない程多くの人間といっぺんに交錯するようにすれ違う。目を覆うようにして翳した手の甲の影から、急に涙が込み上げて、歩きながら振り返ると個と解けた濁流は散り散りになっていずこへと消えた。
僕は吸いかけの煙草をもう1度大きく吸ってから、迷うことをやめた。
激しい喉の乾きで突然目が覚める。枕もとの煙草とライターをまぶたも開けずに手に取りカサカサに乾きあれ果てた、割れ果てた、唇にくわえ火を付ける、ここまで3秒だ。
ふた息ほど肺に送り込み喉の乾きが最高調を迎えてから立ち上がり、冷蔵庫の中のうんと冷えたコカ・コーラの缶を開け、流し込むように飲む。
ようやく意識がはっきりと戻ってから今が朝か夜かを確認する。僕は起きた時はここまでしないと喋ることも考えることもままならない。起き抜けの煙草と飲み物、ここまでが見物。この2つで僕はやっと僕という存在になる。察するに今は夕方、だいたい4時といったところか。部屋の中を見回してもいつもと変わった様子は見られない。脱ぎ散らかされた服、いつもどうりだ。汚くて狭い部屋。その通りだ。僕の部屋を末期症状と呼んだのは誰だっけか、そろそろ掃除のしどきかもしれないな。
とりとめのないことをそこまで考えたところで、僕は自分が泣いていたことに気づいた。いや、正確にいうとさっきまで泣いていたのだ。足元に転がった鏡に顔を写し、見ると目の下に涙が乾いた跡がある。それは、とても妙なことだった。なぜなら泣かなきゃならない理由がない、思い当たらない、仮に嫌な夢や怖い夢。憶えないよね?見ていたとしてもそれは妙なことに分類される。僕は眠れば必ずといっていいほど夢を見、またそれをことごとく覚えているという割合特異な人間なのだ。特別何もなくても、何はなくとも、何かの拍子に涙がこぼれることがあるのだろうか。窓の外では子供の声がする。今、何時?汝、そういえば僕は寝る前、何をしていたんだっけ。
僕は、なんで泣いていたんだろう。僕は何してたんだろう。ねぇ。
TRACK2
何年前?5年前。
僕は浪人生だった。とある大手の美術の予備校に通っていて、それなりに志を抱いてもいた。一体、僕の志って何だろう?愛称は「ダル夫」、同時にそういう悩みを抱え始める年でもあったのだが、最初、風向きはすっかり僕にあるような気がし、そして何かが僕の思うとうりに、旗幟、動きはじめるそんな気がしてもいたのだ。単純に浮かれていたといってもいいのかもな。
その年、僕が夏の捕獲に成功したのは5月ごろだった。
「何してるの?」
「昼寝しようと思って」
「あ、そうなの」
あたりさわりのない会話の中でもとびきりあたりさわりのない、言葉を交した。裃から下。僕は臆病な割にはずうずうしい人間なので、誰もいない屋上のベンチの彼女の隣に座った。これから寝ようとしてる時に、よくしらない男に隣に座られることがどのくらい嫌なことかなんて気に、考えたこともないし、考えてもよく分からないし。なので考えないけどどういう訳か彼女は眠った。
時計は2時を回り僕の居る建物の廻りでは人がせわしなくぐるぐると回る、その証拠にたくさんの音を巻散らていた。カサカサと葉擦れの音。聞こえ出すと。彼女の少し茶色い髪もさわさわとなびきだすのです。とたん、工事現場の騒音も人びとの喧騒も、不思議と遠のき、何も、聞こえなくなってしまった。僕はなんとなく彼女の髪を撫でた。訳もないけれど。
僕は何も確かなことは分からなかったけれど、ショートカットの彼女の髪の暖かさと連動。この世界に、やがて、ほどなく、やってくる季節のことをそっと教えてくれた。
僕は鉛筆をカッターナイフで削る。これは僕にとってとても落ち着く行為なのだ。何故か。別に僕が文明の利器を忌み嫌い、しつこくアナログにこだわっているというわけでもなく、純粋に絵を描くためには、そのためには、字を書くときに比べ長い芯を必要とするだけの話だ。
どういうわけか、というわけで。僕は鉛筆をカッターナイフで削っていた。全部で30本くらいは削ったんじゃないだろうか。この時は時間潰しのつもりで筆入れの中の鉛筆という鉛筆を削ってしまおうと思っていたので、だので、むやみに使うあてのない鉛筆を中心に削っていた。
僕の座っていた場所、もう人の通ることのなくなったアトリエの前の廊下。普通はこの時間はアトリエの中で一生懸命になっているものなのだが僕はそこにいた。ふとした拍子にドアが開き、見覚えのある髪の色が目に飛び込んで。時、綻んで。
「描かないの?」
その髪を知っている。
驚いたことに、僕は隣に座る彼女の名前さえ知らない。驚愕に値。なのにこうしてもう随分と話をしている。
彼女も自分の鉛筆を削っているが、並んでこんなことをしているのは、なかなかどうして変なものだ。僕はもう指が痛い。意味あんのか、だいだい。
「カッテぇなこれ」
「貸して、こういうのは…ほら」
と、その髪。
「うまいね」
鉛筆の木の部分を大きく削り取り芯を露出させた。彼女にそう言うと少し得意そうだった。6Hの鉛筆ともなると、異様に固く、尖らすのにも苦労するのだ。
「ねぇ、ご飯食べないの?」
「うん。俺はあんまり減ってないからいいや。食べたら?」
「…わたしもいいや。お昼ご飯とかっていつも食べないから」
「そう」なんて言っていいか分からなかったからそう答えた。
僕も彼女も結局絵なんて描きやしなかった。なんだか知んないが、かったるくなってしまったのだろう。
その何日か後。僕達は1度だけデートした。
TRACK3
J子さんの髪の色には変化、少し変わった。どのへんが?あそこのへんが。あ、そこらへんか。
彼女は僕よりも歳がひとつ上で。その上でそのせいも有るのか無いのかそれは分からないけれど、ときおりお姉さんぽい態度をとろうとした。しかしながら、彼女は僕と同じ年度に卒業している。留年したからだ。入院したからだ。とにもかくにも、彼女は何となく僕に世話を焼いてくれてるようだった。
彼女の作ってきてくれたお弁当を一緒にたべながら、僕は彼女に好意を感じたが、それははっきりした形をとる様なものではなかったし、言わなければいけないのであろう一言が僕にはどうしても言えなかったのだ。あるいは彼女はただ親切だっただけなのかもしれないのだし。シット。
何月だったか忘れたがとりあえずは冬のとても寒い日だ。ラッシュアワー時よりはいくらかは空いた、電車から降りてきた僕はそう急がずに改札をくぐり、彼女の姿を探す。姿を捕捉。細かい位置まで指定しなかったのに、彼女はきちんと分かりやすい場所にたった今定刻どうりに立っていたわけだ。
「ごめんね。待たせちゃった?」
「ううん。そんなに待ってないよ、さっき来たから」
「来たね」
「来たよ」
僕はそう答えて微妙な顔つきをした。
なぜ僕達がこの朝などに待ち合わせをしたのか。といういきさつはこうだ。前後するが戻る。
この頃僕の足は予備校から大分遠のいていて、ほっといてたまに行く程度になっていたのだが、たまたまクラスの奴(ボケ)が僕のことを学校に連れて来いと彼女にちょこっとほのめかした。軽い冗談ぐらいにしか僕は考えいなかったのだが、帰りがけ彼女はこう言った。
「何時にする?」
僕は驚く。
「早目に着くようにしよっか、そしたらいい席取れるし。わたし達来るのとても遅いでしょ。だから、変な場所でばっか描いてるから、やる気にならないんだよ。8時じゃ早いか、8時15分は?早すぎる?」
早過ぎるし、展開早過ぎるし。早く過ぎるシーン。
「がんばるよ」
彼女の乗る電車はもうすぐホームに入ってくる。それを知らせるアナウンス。
アーッ、アーッ。…イエスッ、プラットフォーム、ナンバシックス、まもなく打診。
「ちゃんと来るんだよ。いい」
アーッ、アーッ。ンンッ。…イエスッ、プラットフォーム、ナンバシックス、まもなく打診。答えはアイ、シー。
ネクスト・デイ、という呈。
2日目の待ち合わせも同じ時間・場所で行われた。まるで口の中にドライアイスでも入ってるかのように白い息がもわもわと凝固せず出る。当たり前のような話、僕はそんなもの食べたくない。けど、でも。あたりの人という人の口からも同じように白い煙が出ても、誰ももうドライアイスなんか食い飽きたとは言わないので、僕も不平不満を口からは出さなかった。出したのはまさに白い煙だった。
腰の絞られた濃いグレーのピーコートのポケットに手をつっこみ、眠い頭と当惑する気持ちをこさえ、彼女を迎え、姿を残さねぇ。そんな背が高くないというよりは小柄と言ったら正しいくらいなのに、彼女はロング丈のコートが意外に似合った。
と彼女と翳す手。
「そりゃね」
と僕。
言葉少なにそう歩き出す。
「こうやってお互い待ち合わせればきちんと行けそうだね。こういう風にしてればわたしも行くしかないしね」
「俺だって早く起きないわけにはいかないもんなぁ。7時くらいに起きてんだよ俺」
「えらいじゃん」
初めからそうだったけど僕達は相変わらず言葉少なだった。けれど、淡々としているというわけではないのだけど、大はしゃぎするふうでもない。笑いはしても、腹を抱えてゲラゲラと笑うなんてことはなかったようなという記憶で。19才になったばかりの僕と20歳の少女、差異があると、「サイ」が変わるの。そう彼女は20才になっているにも関わらずその印象は少女のままだった。その2人がこんなにも、まるでうっすらと積もった雪の上を静かに歩くように言葉を交すことは、僕にある風景を描かせた。
描く、書くと。
その風景とはこうだ。
(ムーボン、ムーブ、オン。見えるか、聞こえるか。始まるぞ、濃そうな妄想のシーン。)
陽の光がとても弱々しく感じられる。風が強いせいか肌寒い、ここは何処だろう?
見慣れた風景と感じるのはきっと有るものがすべて決まりきっているせいなのだろう。僕はここが何処か分かった。学校、おそらく高校だ。びゅうびゅうと風が空想の怪物の呼吸みたいに聞こえるので僕は心細くなりフェンスにしがみつく。その僕の指を固く食い込ませた金網の向こうに彼女が見える。小さくしか見えないが僕の知っている彼女は僕だけが学校と分かり得るぐらいの小ささで建つ建物と僕の中間に立っている。なぜか僕も彼女も制服を着ている。バサバサと髪が巻き上げられ服の皺がとたんに生命を持ったように暴れる、風が僕達の世界の全て、有体から思念体、一切合財何もかもを飲み込もうとしているみたいだった。
「 」
僕は胸が潰れそうになって必死に彼女の名を呼んだけど全てかき消されてしまい、届かない。すると、髪を服を草を巻き上げる耳を裂く風の音、一切の音という音を彼女が遠ざからせてくれた。
あたりにはもう心配する事なんて何もないのだ。
けど、けれど、何で彼女はまだ思いがけず不幸に命中してしまったような悲しい顔をしているのだろう。
(ちょっと調子が悪いのか、そうか。なら、鬱蒼など晴らそうか。そのスイッチを押せ、行くぜ。)
リブート。
その後。
僕は何度か彼女の悩み事のような話に付き合ったことがある。そのたびに快方にむかったように思われた彼女も、それはしばらくするとまたがくんと調子を落とす。こういうふうに言うと冷たいかも知れないけど、そういうのはどうにもこうにも本人次第だ。何とかしたいが、したいが、悲しいけどどうしようもなく本人次第だ。SPみたいに、彼女にへばりついて、いつ降ってくるか分からない災いの流星群から守ってやることもできないし、だいたい、彼女が望むかどうかも不明じゃ現実的じゃないじゃない。
というわけで僕はただ見ていた。
その日も彼女は複雑な表情。僕はと言えば相変わらずも怪訝な顔。それらには触れられずに帰りの道を僕は彼女と歩いた。
「ご飯食べていく?真直ぐ帰る?」
「お腹も減ったんだけどそれよかコーラが異常に飲みてぇよ。どっかに自販機ないかな?」
下がる血糖値、命の危機。
「ここら辺ないね」
仕方がないので彼女の知っている店へ向かった。彼女の指差す先は目的の店の電飾で、その店はばっちりコーラが飲めたのだ。
「行く?」2本目のマールボロに火をつけながら僕は尋ねる。
食事を済ませた僕達は向かい、駅構内へ降りていく地階からは長い。長いエスカレーターに乗っていると改めて僕は彼女の横顔が視界に。そしてきっと僕には何もできないだろうなと思ったのだ。何故そんなことをこんなときに思わなければいけないのかさっぱりだが、僕はその顔を愛いと感じた。ウイ。
またホームへ電車が入って来た。けたたましいブレーキ音とまるで抜けた魂、知性の感じられない雑踏のミックスジュース、もう嫌気がさす、ミキサーから出す、一息で飲みほしてしまいたい、彼女の声が途切れる前に。耳を澄ましたが池袋駅でははっきりと聞こえない。もし今が初夏だったら。その奇跡の力ならば。
「 」
「え?」
僕は憂う。
何であの時みたいに必要なものだけ、必要な声だけ、それだけを抽出してくれないんだ。僕には必要な世界があって、そんなこと勿論はなから分かってる、多分そんなに重要なことは言ってないんだろう?僕はそんなこと勿論分かっているけれど、彼女の表情はそうは見えないし、多分そうじゃない。なんだか胸が詰まりそうだ、僕の傍、彼女の顔が無理やり笑ったみたいに見えた。胸が潰れそうだ。
「バイバイ」
電車が行ってしまったあとには言葉を遮るものは邪魔も何もない。だけどきっと遅かったんだとは思う。彼女は誰かに救いを求めたかったのだろうし、あのいやらしいノイズがかき消したのは、彼女のなんとなく悲しげな顔に含まれた聞かなきゃいけない一言だったかも知れないのに。そしたら途切れないのに。
「ふぅ…」
僕はため息をひとつついてみた。人とすれ違う。
あくまでも推測だ、多分僕の考えすぎなんだろう。
でも、僕に何かができたんだろうか。何だろうか。見当つかない、それは分からない。
ねぇ、笑ってよ。
止めてぇよ。
TRACK4
「なぁ、花火大会行かねぇ?俺の友達の女の子も来るんだけどさ」
昼ご飯時で人の多い通路に,5・6人もかたまり地べたに腰を下ろし、カップラーメンOR出来合いの弁当、貧相な食事を僕らは済ました。それぞれ煙草を吸ったりジュースを飲んだりと全身からやる気を排出していた。
「あ、俺行きてぇ。女の子来るんでしょ。何人来んの?」
「多分3人くらいは来るんじゃねぇの。行かない?」その場の全員に振るのは主催。良い返事下さい、と同意求め。
「行く行く」
「女かぁ女かぁ」
「俺は無理だな、無理無理」
めいめい自分なりの反応を示し、僕はデニム地のベルボトムのパンツで灰に汚れた手を拭きながら尋ねた。
「そんでその花火はいつよ?」
それは皆が知りたい重要な事だ。
「今日」
結局一緒に行ったのは僕だけだったとか。
僕が挨拶をすると2人の女の子も同じ要領で続けた。1人はショートカット、割合奇麗な娘。もう1人はロングのパーマの表情の豊かな娘。有体に言えばそういう子。僕はニコニコ。
「良かったね、ちょうど人数あって」
僕がそう言うと彼はあまり同意はしなかった。聞いた話によると田舎に恋人がいるとのことだ。そうは言っても毎日モチーフとにらめっこしていて大分クサッていたところなのだ、遠くの恋人は恋人じゃない。4人は電車で目的地へ向かった。話をしながら。
目的地がもう目の前という頃まで近づくと、僕とロングの娘はすっかり仲良くなった。いざそうなると最初に感じたファースト・インプレッションも変わり、「ケバイ」も「チャーミング」に変わろうというものだ。僕はそういうところが調子良いようだ。
「次の駅で降りるよ」彼の指示で僕達は降りた。
僕にとっては見知らぬ街で、駅から出たとたんに潮の香りで、満ちるような海辺の街に降り立つとダウン。僕はロングの仲良くなった彼女と並んで、先導する友達の後をついていった。途中、道で擦れ違うのは真っ黒に日焼けしたサーファー風の男女ばかりで、
「サーファーしかいないのか?もしかして」
と、誰に言うともなしに言うと、
「なんか、あたし達だけ格好が違うよね、みんなショートパンツにビーサンとかなのに」
「俺なんかめちゃくちゃ浮いてるんじゃない。Tシャツ小せぇしパンツの裾開いてるし」
「そしたら、あたしも浮いてる。だって格好似てるじゃない」
そんなことを話しているうちに波の音のするところまで来てしまった。多分、僕は相当うかれていたんだろうと思う。だって波の音がする。潮の香りもする。僕のような人間にとって、海という所は、そう簡単にほいほい来れる場所ではないので、しかもそれが、もう目の前とあっては高揚せずにいられるものか。浜辺に降りるには多少なりとも道なき道を行かねばならぬもので、僕達も慣例に従い膝丈くらいの草を踏み倒して進んだ。16ホールの編み上げブーツは砂利だろうと草だろうと蹴散らして行ける。爪先にスチール入りの頼れるタフガイは彼女の履いていたサボ状のサンダルとは違い、あちらはどう見てもタウン用なのでそれが理由かどうかは知らないのだけれど、結果、我々一行の中で彼女は遅れぎみだった。
「ほら」
差し出す手、手出して、握り返して、そのまま固く封印。
僕の手を握る彼女の手の平は汗でじっとりにじんでいた。
花火なんてない。いらない。
クラスメイトの彼は相当がっくりきたらしくご機嫌斜めでショートの娘の相手すら放棄している。その娘にも悪いんだけど、本当に悪いんだけど、僕とロングの彼女は楽しんでいた。途中で買ってきたビールを開けひとしきり、
「ちょっと海の方いってみない?」
と彼女は言った。
僕達は軽く走りだす。別に急ぐこともないのだけど何故か足早に。渚は玉砂利を転がした様な音だけをたて、波が僕の足の下にあるものを掴もうかと、否かといった感じで近ずいたり遠のいたりする。
「わ」
ふいに勢いのある波が靴のソールを濡らす。
「靴脱いで足だけ入っちゃおうかな」
「いいね、そうしようか」
紐を解いてブーツをほうり投げ、サンダルを脱ぎ捨てるとジーンズの裾を捲り上げて。ちょっと悪いことをするみたいな顔をちらと僕に見せて。確信犯の顔、隠し得ぬと、一歩、また一歩と沖の方角へ歩を寄せると、いともあっさりと捲った裾が波に晒され、「ひゃぁ」と背中を撫でられた様な声を彼女は発した。うかれた僕達にピークがやってきて水をかけたりする行為をとらせ、あろうことか渚を走らせた。ここで擬音、もしくは無音、体だけはムーブ・オン。手をしっかりと繋いで。はぐれないように。
そのとき、彼女の悲鳴が聞こえた。知らないうちに波がさっきよりも満ちて僕達の靴が波にさらわれかけた。僕は悪の魔王からお姫さまを救出する、まるでブロンドの王子。白馬にまたがり魔の手ののびる靴たちをひどく格好良く助け出すのだ。彼女は、幸せに暮らしましたとさめでたしめでたし、といった顔をして笑った。 一番最後に僕も何も特別なことはないようなフリをして、そして笑った。
二人は幸せに暮らしましたとさ、めでたし、めでたし。
TRACK5
話はそう簡単じゃない。人生は長く複雑である。というのがまさに一般論だぜ。
僕は中央線に乗っている。僕の用事はパーマをかけたロングのあの娘に海で借りたハンカチを返しに行くと言う至極下らないものだが。だがもちろん、世の若者が往々にしてそうであるかは僕の知ったところではないんだけど、僕の用事がそれだけであるはずがない、僕は彼女に会わなくてはいけない。いや、会うべきだ。
待ち合わせ場所のファーストフード店で、コーラを飲みながら過ごすこと数分。彼女はやってきた。奇麗な茶色のタートルネック、サマーニットにジーンズという出で立ちに画材道具の入ったトートバッグを抱えて。気持ちの良い笑顔と一緒に駆け寄ってくる。本当ならばハンカチなんてここで渡せば用事はそこでフィニッシュなのだが、あいにくと僕はおみやげを持参していたのでそういうわけにもいかないのだ。おみやげの名称は下心っていうんだけど。そこら中で見かけんだろ?
彼女、FMの部屋は一般的なワンルームから比べると少し広めで、あまり物がないせいか当時僕が住んでいた部屋とどっこいぐらいの、な、はずなのにもっと広く感じた。備え付けのキッチンの小さな開け放した窓からは小気味良いまな板を叩く野菜を切る音が空へと帰り、その間、僕はただ彼女の後ろ姿を眺めていた。
手慣れているとは言い難いものがあった。が、毎日自炊しているというのもままんざら嘘ではなさそうではあった。借りたハンカチを返すだけで手料理が食べられるなんて僕は全然知らなかったけれど、割とメジャーな潮流に乗った、そんな不問律らしいとの噂は聞いた。女の子からは何はなくとも、必ずハンカチを借りることを是非おすすめしたい。
出てきた料理は手の混んだ代物ではなかったがそれだけになかなか感動的でもあった。味よりもむしろこの事実、リアリティが僕を満腹にさせる。その後、僕たちはマットレスの様な寝床でごろごろと転がり、何を話すでもなくうだうだ雑談していただけなのだが、僕が帰るためにはそろそろ私鉄の電車の時間が近ずいてきていた。ここで。僕はけっこうな勇気とカロリーを消費しなくてはならない。
「あ、もしかしたらうちの方へ行く私鉄がもう間に合わないかもしんない。やばいな、多分今からじゃ終わっちゃうかも」
本当にもう正気の沙汰ではない、この白々しさといったら。真っ白だよ。
「どうしよう」
こんな風に反応を伺うのももう最悪だ。
「…いいよ。泊まっていっても」
まさに、まさに。嘘をつくのは大変な作業である。でも無理も道理も通った。押しの一手、おっしゃる意味が分かりません。
TRACK6
僕と僕との会話。
『気分はどうだい?』
「ああ、すこぶる良いね。まるで風が僕に吹いているみたいだね、別に強がりじゃないよ。だって、そうだろう?もはや何の憂いもない」
『そう?』
「そうだよ。見ててみなよ、きっとうまくいくから。そういつまでも同じことは繰り返されないさ、アンラッキーだなんて言わせないね、君にもだよ」
『別に運は悪くないよ』
「立ち位置の問題なんだよ。僕はここなら平気さ。大丈夫。ノープロブレムだね」
『そうなの?』
「そうさ。僕も捨てたもんじゃないだろ?」
『どうだろう?』
暗転、という呈。
TRACK7
同じ布団の中、僕も彼女も眠れていない。大分個人的な話へと突入し、立ち入った空気が男と女を意識させる。いや、意識せずにはいられない。話の途中で彼女はごく自然に寝返りをうち、肩を下にして僕の方を向いた体制をとった。その鮮やかさに感心する。明鏡止水、拳法の極意。きっと僕の寝返りはとてつもなくみっともないんだろうから。
向かい合った体制の均衡がふいに破られ無我夢中できつく抱き合う、が、彼女は僕の足を自分の股にきちんとはさんだ形に。一枚上手だ。僕は自分のイニシアティブの存在をないがしろにするわけにはいかないのであえて言わせてもらうが、僕達は破ってはいけない沈黙を破るように同時にキスをした。同じ心音、同じタイミングってことだ。正確なところは僕が気づいたときにはすでに彼女の舌は僕の喉内に潜りこもうという意気込みであったがとりあえずそういうことだ。そこから彼女の前の彼氏の話が始まる。
長いので省略。
「うん」
曖昧に、何も言うまい。このスタンスはとても便利だ、いつも僕を助けてくれるのだ。言うべきことなんか在りはしないんだから。たかだか、僕らの歳などでは。
「あたし、けっこううまいよ」
「前の彼氏より大きい、してあげよっか?」
と舌舐めずり。
返事はあとまわしにして僕はマウントポジションを取り返す、そして彼女のくりんくりんとうねるライオンのたてがみみたいな髪の毛を見つめていた。彼女はしっかりと現実を見つめている、だけど僕に見つめられるのはその髪ぐらいのものだ。ひどくうつろなまま彼女の服に手をかけひとつひとつボタンを外しにかかり、ワン、トゥー、スリーで3つまではずしたところで彼女がブラジャーをつけてないという当然のことが分かったが、かまわず全部はずした。ワン、トゥー、スリーで出るのは鳩ばかりとは限った話じゃなく、ハッとする。乳房だったからね。
でも僕はぜんぜんダメだった。
うん、とも、ううん、とも言えなくなってしまった僕に腕をまわし、そんな僕をよそに、
「なんか、あたし、したくなっちゃった」
「あたし、したいよ。しない?」
もはや疑いようもなくなってしまった。セックス。
「よそうよ」
10秒経過、残り20秒。10秒。5秒。持ち時間は無常にも、少なくなる。こんなときには異常に早くだ。
オーケーと気軽に言えたらどんなにか楽だったか知れない。軽く堕落へ踏み込む覚悟もできていたはずだ、なのに、僕はダメだった。ぜんぜんダメだった。一体何の為だった?
胸の内、頭を抱え。イエス、ノー、オー、ノー。いや、不能なんだよ。
頭オカシクね。
自分がたばこの煙が嫌なだけだろ。
たとえ数千種類の有害物質や、発がん性物質が含まれていたとしてもそれが、1回??数十回程度の被曝でなんらかの症状が出るのでなければ
一緒にできないだろ。
煙草というのは長期的なリスクであって、しかも受動喫煙を被曝した人間の定性的なデータはあるものの定量的なデータは無いんだよ。
特に吸いたい気持ちが起こらない。
10日目くらいから、すれ違う人の煙草の匂いが気になるようになった。そして、自分の服でも煙草の匂いが残っているものは気になるようになった。でもやはり「気になる」程度で、臭いとまでは思わない。
デスクでずっと仕事をする日は、今まで大抵2-3時間おきに煙草を吸いに行っていたので、その習慣なのか2-3時間おきに集中力が切れる。切れると手持ち無沙汰なので煙草を吸いに行きたくなるが、特に吸いたいとも思わなくなっている今になって吸うのはもったいないので、代わりに机の整理をしてみたら落ち着いた。煙草を吸う以外の、職場での気分転換を考えてもいいのかもしれないな。
体からニコチンが消えるのに3日間かかり、脳からニコチンを求める習慣がなくなるのには14日間かかるという。それを信じるなら、明日から脳が変わるってことか。そんなわけないけど、そう考えると面白い。麻薬によって脳が変化するなら、当然やめることでも脳が変化するってことなのかな。変化っつうか戻るっつうか。
友達に誘われた時にそのメンバーのABCDが煙草すわない人だったとしてもEが煙草を吸う人だと
行く気が起きない。ので断ってしまう。ABCDとの誰かと二人とかならホイホイ行く。
遠目から見てスタイル良くて美人そうにみえても、近くに来ると肌は荒れてるしどす黒いし頬はこけてるし。
三十路以降の喫煙女はかなり終わってる。腹を切って*ぬべきである。
煙草すってる割には美容とか化粧とかに力入れてるのも多いけど、
煙草やめればいいのに。
で、喫煙女って病んでるのが多い。
喫煙女とは関わらないほうが身のため。
暦の上ではひとつの節目。ほら、と指折り数えるように季節は過ぎ行く。夏と秋の間には確かにのっぺりと横たわるものがあり、それが僕らの気づかない進度で歩を進めた。徐々に徐々に森羅万象、そこかしこにその歩みの影を落としていった。僕らは気づかなかった。何故なら海はまだ青く、膝までつかった水温が迫りくるものが到来する時が遥か遠く先であることを語った。
際限なく無限増殖する細胞のような入道雲は今にも落ちてきそうな程低く、僕らの町と空との間には気持ちの優しい屈強な巨人がその四肢でもって落ちてくるものを支えていたに違いない。それほど空の不透明度は低く、ときおり聞こえる巨人の唸り声や大地を擦って踵からつま先へと重心を移動するときの運びまで僕には雑音なくクリアに染みた。巨人が身を呈して守るこの町には軍事基地があり、そのお膝元では軍人の天下となっている。昔からの住人である人々には笑顔を顔に張りつける以外には生きぬく術がなかった。長い長い歴史の中で培われた護身術のひとつである。
今しがた西の方から飛行機が飛び立った。
「あ、また飛行機」
僕は銛を片手に堤防の岩肌が突き出した場所に腰掛けた少女の方を見て、呟くように言った。強い日差しの下でもなお黒い印象的に短い髪を風が撫でた。分け目なく乱れた前髪を手で払うようにしてから、彼女はその褐色に焼けた肌を惜しげもなく露出させたキャミソールに点々とついた水飛沫のあとを人差し指で追った。波礁のかけらが今また振りかかる。
「珍しいね。何かあったのかな?ここんとこ見なかったのにね」
有無は膝丈のジーンズをロールアップしたパンツから出した足をぶらぶらとさせ、パンツのポケットからメンソールの煙草の箱を出して包みのセロファンを開けて言った。
「有無。タバコやめろって」と僕は即座に咎める。
「またぁ。ほんと親みたいなこと言うね、コムは。いいじゃない別に。何がどうなるものでもなし」
フリップトップの箱を開けて、銀紙を取り去る。ぎゅうぎゅうに詰った20本のうち1本を抜き取り、首から提げたヘンプのライター入れから百円ライターを出して火をつけて有無は笑った。
「コムじゃねぇよ。虚無。間違えんな」
僕は口を尖らせて言った。
「知ってる?籠みたいなの被った人が時代劇とかに出てくるじゃない、アレ『虚無僧』って言うんだよ。あんたと一緒。おかたいのよ、あんた僧侶だから」
有無はけらけらと笑っていた。僕は口がたたないのでいつもこうやって最後には有無にオチをつけられてしまう。僕は僧侶ではないのだけど、有無の言うように「おかたい」のかも知れない。確かにうまいことを言うかも知れないがそれでも駄目なものは駄目だと思う。僕はそれ以上は取り合わず、水の中を覗くレンズで水中の魚の動きを追った。前かがみになり静かに刺激しないように獲物の動きを観察した。ふくらはぎの半分ほどの深さしかないこんな浅瀬でも魚はいるのだ。僕は彼らに悟られぬよう体を空気中の成分と同化させねばならない、水上で構えた銛の影だって彼らには察知出来るからだ。自分を狙う者の殺気を読めぬようではとてもじゃないけど自然界では生きてゆけない。僕はそういったことを父から習った。僕の銛が水中に落とされる。
「オオッシャ!」
僕は思わず拳を天に突き出し、歓声をあげた。銛の先には体をよじる反復運動を繰り返す魚がまだ息を絶えずにいた。その大きさは「大物」とは言いがたいが、とりあえずは僕がしとめた。僕は有無の顔を見る。
「すごいじゃない。上達したのね」
彼女は少し感心したような表情で、フィルターの近くまで吸った煙草を指に挟んだまま言った。短く切った髪を耳にかけて露出した耳には銀色のピアスが太陽の陽光を眩しく反射させた。
「その煙草、ポイ捨てすんなよ」
僕は目を細めて、ぴしゃりと言った。
家の玄関の引き戸を音を立てて開け、僕は「ただいま」と言っていつものように帰宅した。玄関先に婆ちゃんが駆けてきて、
「あらあら、おかえり」と迎えてくれた。
僕は獲れた魚が入ったびくを見せ、反応を伺う。婆ちゃんはやはり父には適わない、と言う。だけれど、僕だってそのうち父のように立派に成れるに違いあるまいと思うのだ。晩御飯の食卓にあがった自分の魚を想像して僕はにまりとした。
「虚無、町に行って叔父さんのところに見せてくれば」
婆ちゃんの提案に僕は「そりゃ名案だ」と同意して僕は自転車の籠に魚の入ったびくを載せて跨った。ゆっくりとこぎ出し、加速して町へ向かう坂道を駆け下りてゆく。頬にあたる風が普段の熱風とはうって変わって心地良いものになっていた。僕は心を躍らせて、叔父の賞賛の言葉と大きな手のひらが頭の上にのせられるのを想像してまたもにやりとした顔つきで自転車をこいだ。僕の着ていた白いTシャツはもう脇のあたりが大きな染みになる程汗を吸収し、ショートパンツは海の匂いが香った。汗でも海水でもいずれにせよ塩くさいのだが、僕の着るものがどれも余所行きではなくとも僕はそんなことは気にとめない。僕は頓着しない。
町の中心部にある叔父さんの経営する釣具店へ向けて、僕はひたすら自転車をこいだ。
栄えた大きな通りは夕ともなれば軍人で溢れる。彼らはそこで日々鬱憤を晴らすように酒を飲み、ときには暴力を振るう。そんな空気の中を僕は進んだ。
規模は小さいが売春や買春が行われる繁華街の一角で見慣れぬ光景を発見した。大概、一目でそれと分かる言ってみれば時代錯誤な「売春婦」風の女の人の立ち姿が見うけられるのだが、そのとき僕が見たのは僕と同世代か少し年上ぐらいのあきらかに条例違反であろう年代の女の子の姿である。僕は目を疑ったが真相など確かめる気もなかった。
叔父の釣具店の扉を押すと、「波浪」と客に声を掛ける調子で叔父が言い、
「おう、虚無か。どうした?」
と僕と気づいた叔父は言い直した。
「魚獲れるようになったよ」と僕は答える。やはり期待に違わず叔父は誉めてくれた。
「すごいじゃねぇか。たいしたもんだよ、誰にも教わらずなぁ。銛じゃぁオレも教えられないし。どうだ?この際、針と糸に宗旨変えしねぇか?そしたらオレがみっちり鍛えてやるぞ」
叔父はいつもそう言う。どうにも僕を釣り中間にしたいらしい。
「それじゃぁ、食べられないじゃないの」
と言って共に笑った。
叔母さんの出してくれたオレンジジュースとお菓子を食べながら、叔父さんと話した。
「そういえば、諭くんどうしてるの?オレ昔良く遊んで貰ったよね、銛も上手かった」
「あいつぁ、ダメだ」
急に叔父の顔が険しくなり、僕は余計なことを尋ねた気分になった。叔父は続ける。
「もう、虚無も大人だ。話してもいいだろう。いいか、虚無。おまえはしっかりしてるしそれに頭も良い。おまえだから話すんだぞ」
「うん」と僕は異様な雰囲気に半ば飲まれながら頷いた。
「諭。あいつはなぁ、チンピラだ。軍人の腰ぎんちゃくに成り下がって、ろくでもないことばかりしとる。麻薬の売人とかと組んでおるらしい。最近は地元の子らを軍人に紹介する橋渡しのようなことをやっていると聞いた。要はな、売春の斡旋だ。分かるか?あいつだきゃぁ、クズだ」
「ねぇ、叔父さん。じゃぁもしかして『桜番地』にいた僕と同じぐらいの年の子って…」
僕は恐る恐る尋ねる。
「あぁ、そうだ。昔は『桜番地』はきちんとした風俗街だったけど、今じゃぁ何だ、援助交際っていうのか?すっかり芯まで腐りきっちまったよ、この町も」
叔父が煙草に火をつけたところで叔母が話に入る。
「お父さん、やめなさいな。虚無ちゃんにこんな話。この子はまだ中学生なんだから。そうだ!虚無ちゃん、ご飯食べてく?」
「何を言ってる。虚無はな、そこらのガキとは出来が違うぞ。そこらへんちゃぁんと分かっとる。な?虚無」
僕は収拾をつけられなくなったので、「家で食べる」と言って店を出た。しかし、僕はさっき聞いた叔父の話で頭が一杯だった。僕がこんなにも動揺するのは集団の中に恐らく有無らしき姿を発見してしまったからに他ならない。まさかとは思う。ただ、どうしたらいいかは分からない。
僕は家路に着いた。
いつも魚を狙う場所があって、そこは観光客がくるようなところではなく地形も厳しく地元の子でもおおよそ僕ぐらいしか来ないプライベートな場所であった。今が夏休みだろうとそうでなかろうと、僕はそこで海につかった。 とろけそうな陽気の中有無はけだるそうに切り立った岩の上に立ち、僕を見下ろしている。彼女は紺色のキャミソールを着ていて肩にかかった部分から黒い下着のストラップがはみ出ているのが見えた。僕も彼女の立つところまで岩をよじ登る。爪や指先、そういった箇所が痛んだ。有無はやはり面倒臭そうに煙草を吸っていた。
「今年は客足悪いんだってさ」
彼女は自分の家が営む民宿の話をする。僕の家も観光客相手の商売を多少なりともしているので、そこらへんの話は良く耳にする。今年に限らず年々客足が減ってきているらしい。僕の住む町はそういったことに依った収入が不可欠な町なのだ。切り立った岩のすぐ下の水の中では僕が父から譲り受けた銛が天に向かって真っ直ぐに生えている。それは水没している部分がゆらゆらと正体不明に揺れて、眩しい光りを水面に放った。
「喉乾かない?買ってこようか?」
僕は振り返って有無の顔を見て言った。
「ん」
自分の財布を放り、咥え煙草のまま返事とも言えない返事で答えた。煙草を離した唇から白く風に棚引く煙を吹いて「奢る。あたし炭酸ね」と付け加えた。
ガードレールなどない取りあえず舗装された道路を歩き、生活雑貨から何から売っている商店の前の自動販売機の前に立ち有無の二つ折りの財布を開いてお金を取り出そうとする。銀行のカードや何かの会員証やらが差してあるスペースに異物感を感じて僕はそれを取り出した。僕は思わず絶句して立ち尽くす。コンドーム。男性用避妊具である。丁寧に連なったふたつのそれを慌てて元の場所にしまい、小銭が入るポケット部分から手早く出したお金でジュースを2本買った。有無のいる場所へ戻る最中、ずっと考えていたのだけど僕は僕の妄想を頭から払いのけることが出来はしなかった。
缶を彼女に手渡すとき、偶然とは言いかねるが彼女の服と下着の中に眠るふたつの丘陵のゆるやかなカーブが見えて僕は激しく興奮してしまう。多分原因はさっき財布の中で見た、「性的な行為を行うときの確信」みたいなもので僕のその妄想を確かに現実の場所へ引きづりだすのだ。有無がいくら前かがみの体勢をしていたとしたってそれを覗くのは偶然でなく僕が見たかったからに相違ない。
夏は終わりにさしかかっているようで終わりは一向に見えやしない。まだまだ雲はその力を誇示するかのごとく胸を張って広がりを見せる。空は低く。巨人はさわやかな笑みを浮かべ。
僕は思い切って尋ねた。
「なぁ、おまえ、やったの?」
僕はこれ以上具体的には言えなかった。空気は全ての空間と繋がっていると僕は思っていたのだけど、それは違った。人と人を繋ぐ関係性の濃密によって区切られていたのだ。そして、僕は空気がこれ程硬く固まるものだなんて知らなかった。伝う汗さえも流れ落ちない程度時間が流れた。
「見たんだ?」
と言って有無は目を閉じて立ちあがった。そしてゆっくりとこちらを向き、太陽に背を向け逆光の中褐色の肌が通常よりもそのトーンを落とすのを僕は見た。明度も彩度もが一段落ちる。そして瞼を開いて微笑んで言った。
「そうだよ。セックスしたよ」
僕ははっきりと滑舌良く発音したその単語と服と下着の中から覗いたふくらみを脳裏に描いて、まるで猿のように際限なく永久機関のように終わりなくオナニーした。マスターベーション、自慰行為と言い代えても良い。そう、十年一日のごとく来る日も来る日も布団の中でそればかりしていた。最低の男であった。他にするべきことも見つかりはしなかった。想像が加速してブレーキが利かず、有無は僕の想定した架空の世界の架空の部屋で日を追うごとに一枚ずつ脱いでゆき、日を追うごとに僕のどんな無理な要求にも応えるようになった。そしてある日の夕方一切立ち寄らなくなった海へ行き、計り知れなく大きい太陽ですらすっぽりと難なく包んでゆく水平線を見て自分が一体何者かを己に問うた。
朝起きると適当な袋の中に水着やタオルそういったものを積め込んで、海へ出かけた。銛は持たず、ただ体ひとつで海を泳ぐ。海水中の塩分が浮力を生み僕の体をまるで拒絶するかのように押し上げ水面に浮かせた。僕が潜ることを嫌がっているようでもあった。体中に蔓延した不健康な老廃物を全て排出する腹づもりで、体の奥深く何処かで息を潜める病巣の中核を探し当てねばならない。そうでもしないと僕は存在異議を失うのだ。夜毎陰茎をしごくだけの「もの」であって堪るものか。自分だけが知る海岸線でなく、公衆遊泳場に来ていた。時期もピークではないので割と地元の若者が多いようである。そういった経緯で日がな泳いだ。
僕はこれ以前にだって自慰行為をしていた。考えていた。ずっと。何故僕はこうまでみっともなくならなければいけなかったのか。何故僕はかさぶたを掻き毟るように。何故。何故。そういったことを呟きながら水中から回答の眠った宝箱を探す、見渡す。遊泳中のカップルの片割れで目的も持たずにふらふらと漂い泳ぐ女が平泳ぎの恰好で股の間の小さな布で隠された部分を晒すのを長い間ずっと潜り続けて凝視していた自分を発見したとき、僕は同時に答えをも発見した。なんのことはない。これが僕だったんだ。塩水で目を擦った。
僕は大人になるまでこの自分自身の下半身的問題を平和的に解決出来ない。要するに女を買えない、ということだ。しかしながら僕は望みもしたが勿論憎みもした。有無が買われるという現実を、この両目ではっきりと見ておかなければならなかった。より深く自分を呪う為に。
町へ降りると、金曜だけあって人は多い。都会の盛り場と比べたら本当にちっぽけなものだ。色町『桜番地』へ近づくにつれ、ぎょろぎょろとした目つきであたりを見まわす。ここの色町は変わっている。それらしい店を全部一角に集めただけで、表の通りから丸見えの場所で平然とさも普通のことのように売り・買いが成される。同時に良くある繁華街でもあるから、例えば僕や同級生やなんかが居ても特に誰も咎めない。
僕は諭くんを見つけた。面影が残っていたのですぐに分かった。その後について歩くのは有無と同級生の友達であった。僕の予想は出来れば外れて欲しかった。全員知った顔で、それもクラスの中でも特に大人びていて顔だちが美しく整った者ばかりだった。そして有無は群を抜いている。
僕は叔父さんの家にお使いに行く名目で町に来ていた、そして恐らく彼女らも似たような嘘を並べて来たことであろう。預かってきたトマトを握りつぶした。
何てこった。あいつらか。
僕は自転車の籠の中のトマトを軍人の足元に投げつけた。そして僕自身、我を失い何事か夢中で叫んだ。自分ですら果たして何を言っているのか分からない。僕は右手の中指を立て、
「間座墓!」
と叫んだ。軍人は首だけで振り返り、それから僕の方へ歩みを寄せる。僕よりも40センチは身長が高い彼の眼光は既に「子供のしたこと」を笑って許すような雰囲気ではなかった。軍人はその上等な皮のブーツで僕のももの付け根をポケットに手を突っ込んだままで蹴った。大人の力の衝撃がその箇所から電流のように地面に抜け、さながらアースの役割でも果たしたかのように僕の左足は焼け焦げて落ちた。立っていられなくなり、地面に倒れ込むとすぐ目の前に皮製の靴のつま先がある。目をつぶる暇もなく鼻から大量の血が流れ出して、息が出来なくなった。口の中が熱くて、鼻水と血が混ざってマーブル模様を織り成しその不自然な美しいコントラストを眺めた。涙で視界が利かなくなると、今度はわき腹に針で刺されるような衝撃が訪れた。正体不明の嗚咽を漏らす僕を助けようなどという者は現れるはずもなく、結局は僕が何者であるかを問われるだけだった。彼の顔は笑っていた。
「坂!…国家!」
僕は片足を押さえ膝を付いた姿勢まで体を起こし再び中指を立てた。彼はそれまで顔の表情は笑った形を作って努めていたがその瞬間には完全に笑顔もおちゃらけた態度もなくなった。ポケットから出した拳で僕を思いきり殴りつけた。僕は誰だ?彼は最早軍人として僕を殴らない。そして笑わない。ならば、立ちあがろうとする僕は一体何者だ?今さっきまで軍人であった男は問う。オレは誰だと。オレは一生陰部を擦り続ける醜い生き物か?そんな男か?退いて生きるか?
僕はふいに笑いがこみ上げた。
「オレは海の男だ」
僕は声に出して言った。
彼は飽きたという身振りで友人らしき軍人を連れて、帰っていった。だらりとぶら下がった動かない腕はファイティング・ポーズのつもりだった。
叔父さんの家で目が覚めた。叔父さんは安堵した表情で
「あぁ、良かった。このまま目を開けないんじゃないかと思ったよ。しかし、すげぇ顔だなぁ」
と僕に話し掛ける。叔父さんの説明によると僕は気を失い、そして軍人が帰っていった後で見ていた人達がここまで運んでくれたということらしい。有無がどうなったか知りたかったけれど、そんなことは勿論訊けはしなかった。叔母さんが出してくれたお粥を食べようとして口の中に入れたらすごい衝撃が走って、僕は思わず宙に浮く。
叔父さんも叔母さんも笑って言った。
「虚無の親父さん、未曾有さんもケンカはしたけどさすがに奴らにケンカふっかけるなんざ聞いたことねぇや」
「そうよ。もうちょっと相手を考えなさい。殺されてたかも知れないのよ」
やはり叔母さんは泣き、僕はあとで家族にみっちりと怒られた。
だけれど、僕は自分が何者かを取り戻した。
以前にも増して僕は亡き父のように立派な漁師になろうと強く思う。鋭く切り立った岩壁を背に、汐が引いて膝丈程もなくなった外界から隔絶された知られぬ海で僕は銛を片手に空を見上げた。いつまでも空は夏の様相を呈していて水面に落ちた人影で僕は背後の岩の上に有無がいることを察知する。
「そこだ!」
僕は小指の爪ほどの大きさの小石を放ちながらそう言った。
「久しぶりじゃない」と小石のことには触れずに進める。思わず冗談めかした自分が恥ずかしくなるほど冷静に。
「そうだな」
僕も冷静に。
「虚無、少し変わった?」
「そうかな」
「何してんの?」
「銛の練習。オレはやっぱり漁師になるよ」
「そう」
そんな会話を交わした。有無はメンソールの煙草に火をつけて煙を吐き出すと同時に顔を上げた。僕は相変わらず銛で水の中の地面を形をなぞるように落ちつきなく突ついていた。彼女は指に煙草を挟んだまま、切り立った岩のわずかな取っ掛かりを慎重に滑るように降りた。僕の隣に腰を下ろし尻をつけて砂浜に座る。僕も砂の上に座るが水着が濡れていた為に濡れた砂が尻の形にくっきりとついた。あまりスムーズに言葉が出ない。
「有無は?何になるの?」
僕は沈黙の堰を切るように話し掛ける。
「分からない。あんたのお嫁さんにでもして貰おうかな」
僕が驚いた顔をしていると「冗談よ」と言った。
二人で動きのない海を見ていた。海鳥が遠くの島へ飛んでゆく。すると、有無は立ちあがり
「気持ち良さそうね。あたしも入ろ」
とそのままの姿で駆けて波を掻き分けてその身を浸した。僕があっけにとられ制止する暇もないまま彼女はずぶぬれの恰好で海からあがってきた。
「やっぱ服着たままだと辛いね」
僕の目は彼女の透けた服から浮き出た秘密しか入らず、完全に思考は停止し例えば気の利いたセリフのひとつも出てこないままとめどなく湧いてくる唾で急激に乾いていく喉を潤していた。髪をかきあげる仕草をした後、有無は
「虚無はセックスしたいの?」
と訊いた。
僕は「オレはセックスしたいよ」と答えた。
僕は煮え切らない情欲を抱えて悶々としたままの紳士に分かれを告げた。僕は快楽を貪る者だが、決してそれのみには存在しない。彼女に抱いた幻想や彼女に抱いたいかがわしい妄想、己に都合の良い空想、そういったものを1箇所にまとめて全部破棄した。それから僕は有無と交わった。
鋭く切り立った岩影で、外界から情報がシャット・アウトされた知られぬ砂の上で、落ちかけた太陽に焼かれ背中を水飛沫に濡らし僕は一際大きな声を出して果てた。
僕も有無も裸だった。彼女のお腹の上にはまだ生々しく行為の証が記されたままである。濡れた有無の服は薄いタンクトップですらまだ乾かず先ほどと全く変わらない。時間の経過も感じられない。脱ぎ散らかされた衣類の位置もそのままだ。
「気持ち良かった?」
と一番最後に有無は乾いた服をそそくさと着ながら訊いた。
自転車で海岸線を走っていると、東の方角へ飛行機が飛んでいった。僕が数えただけでももうさっきから一体何台の飛行機が飛び立っただろうか。気体がもの凄い速さで小さくなっていくのを見届けてから、再び自転車に跨りエデンに似た外界から隔絶された場所へ向かう。遠目に有無の姿を発見して片手でハンドルを握りながら大きく手を振った。彼女も体全体を使って信号を僕に返す。
「あ、また飛行機」
有無は上空を見上げて言う。
「オレも見たよ。来るときだけですごい数の飛行機見たなぁ」
「あたしも。何かあるのかなぁ。演習とか?」
僕は「さぁ、どうだろうね」と言い終わらないうちに、すぐ隣に座る有無の乳房を背面越しに触ろうとした。彼女は僕の手をまるで蝿や蚊をはたくような感じで叩いた。僕が彼女に会うのが待ち遠しかったのはいわずもがななのだけど。有無は
「あの時だけだよ。そんなねぇ、都合良くホイホイやらせるわけないでしょうが」
と手厳しく言った。僕はしつこく懇願したが、彼女が要求を飲むことは無かった。岩場に立てかけた銛が太陽の光りを反射して光線を生み出す。僕や有無に浴びせ掛けられた兆しの元を探し、空を見上げた。往き付く先は夏を完全に体現しその大きな両手で包み込むような入道雲。空を支える巨人はやはりその笑みを絶やさずやがて秋が来るまで微笑み続けるのだろう。
「まったく、言わなくちゃ分からないの?」
有無は胸の高さの水面に左手を入れて、水の中で僕の手を握り引き寄せた。帆を張った舟のように水面に浮かんだ僕の体もその小さな力で彼女の体にぶつかる形で引き寄せられる。お互いに向き合い体の前面を押しつけるように抱き合った。彼女は僕の股間を水中で触る。空は高く広大で、僕たちは身を寄せ合い抗わずそこに含まれた。東の空からまた飛行機が飛んで来て、僕たちの上空を過ぎ去るのを見ていた。
僕たちは飛行機の来た方角の空を見る。空では入道雲とは違う、けれど、ひときわ大きな球体のような雲が風船が膨らむ様を連想させた。心なしか荘厳で見ているものを魅了する何処かで見たことのある形の雲だった。ずっと、ずっと遠くまで、僕は僕の父も祖父もが愛したこの海の果てまで思いを飛ばす。
「わぁ、見て。綺麗」
と有無は水中から出した手をかざし、遥か遠くの海で立ち昇る雲を指差した。
勝手にアンケートにするマンの俺が参上。ちなみに東京都下在住。
エスカレーター → △空いてればラッキー、空けてなくてもまあ今日は運が悪かったなくらい。てめえこらどけよマナーだろとかは思わない。
電車の電話 → △普通の声量なら別にいいんじゃないの。声を発するのがダメなら複数で乗ってしゃべるのもダメじゃん。ときどき超うるさいやつがいるけどそういうのはNG。
優先座席 → ○優先であって専用ではない。該当者が来たら譲ればよい。
煙草 → ×なんでそいつのタバコの煙を俺が我慢しなきゃならんのだ。俺が定期的にカミソリ振り回さないとイライラする性癖で、人がいるとこでも振り回すけど、たまたま近くにいて皮膚を切り裂いて流血しちゃうかもしれないけどそれくらい我慢してね、なんて通らないだろ。それと同じ。
エスカレーター → ○○○というか追い抜きを誘うような片側空けは危険なので止めるべし。というのは(子連れ以外で)横二人並んで立ったり、追い抜いたりするようには設計されてない。意外と危険な乗り物だから静かに立っていろ、と作り手側も言っている。
電車の電話 → ×移動中の時間を思慮に使いたいという人は多いと思う。で、電車の音とかは環境ノイズだから脳でフィルターするのは楽なんだが、人声はかなり難しい。
優先座席 → ○ただし譲るべき人が現れたら譲るべし。むしろ譲らない馬鹿から座席を守るという一面はある。
煙草 → ×××呼吸器がクリティカルに弱い人にとっては暴力。周りが煙草吸われても大丈夫な人ばかりならそりゃ問題ないんだが…
俺、○と×がまったく逆だ。
エスカレーター → ×よほど誰もいない時以外、片側空けるべきだと思う。まあ誰もいなければ自然に空くけど。
電車の電話 → ×かけるべきじゃないと思う。俺自身は気にならないのに、何でだろ。
優先座席 → ×正直、座っている奴の気が知れない。
煙草 → ○まあいいんじゃないの?煙草くらい。禁煙スペースでなければ。俺は吸わないけど。
ここまで逆になるってこともあるから、マナー圧力が強いというか、東京は色んな価値観持ってる人いるから、それぞれに気を遣うと結果的にマナー圧力が強くなる、って感じなのかも。こういう○×って、多少は譲れるってタイプと絶対に譲れないタイプと両方いるから、後者を考えるとやむをえないのかな。適当でいいんじゃないかとも思うけどね。
最初の山は完全に越えた感じか。次の山に入ったんだろうけれど、この2番目の山はダラダラ続くんだよなあ。でも最初の山より全然楽。
夜に少し煙草が吸いたくなったが、この寒い中外に出て行きたくもないな、と普通の判断で吸わなかった。
部屋の中が煙草くさくなるのが嫌で、いつもベランダで吸うんだが、先々週だったか雪の日。くそ寒い中、部屋着に裸足で震えながらそれでも煙草を吸いに外に出てた。気が狂ってますよ。修行かよと。そういう意味では今日、寒いから吸うために外に出るのもダルいな、と普通の判断が出来たのはニコチンから離脱した感じで満足。
夜中に何度も目が覚める。珍しく寝付きも悪い。喫煙はそもそも副交感神経のバランスを崩すそうで、禁煙すると崩れてたバランスが戻るために一時的に睡眠障害になることがあるそうだ。
追記:
喫煙習慣者にとり昼間の喫煙行為は精神的なリラクゼーションをもたらし、副交感神経系活動量も亢進している。しかし、喫煙しない夜間及び1日単位で観察すると、累積副交感神経系活動量は低下する傾向にある。
副交感神経系機能からみた喫煙が生体に及ぼす影響についての検討(pdf)
http://www.shiga-med.ac.jp/education/ejournal/kango_vol_3/033-041.pdf
昼間に煙草のおかげでリラックスしてるのは何となく感じてたが、一方で夜はリラックス度が低かったとは……と軽く驚いた。それと、喫煙は抵抗力を下げて寿命も縮めるって結果が出てた。まあこれはよく言われてるといえばそうだけどね。
ニコチンが完全に体内から消えるのは3日かかるというので、今日が体内ニコチンレスの最初の日。
吸わずにはいられないはずのタイミングで、煙草のことを忘れてさえいることもある。特に会社で打ち合わせが何本か続いているときに、ニコチン切れの苦痛から解放されるのはありがたい。
つうか、「苦痛」とかバカかっつの。そもそも煙草をやめてろって。
夜は、一昨年同じプロジェクトだった連中と飲みに行く。他のやつらが全員吸わなかったのでそれほど禁煙状態に抵抗がなかったが、壁際に美味そうに吸うヘビースモーカーの女がいて、視界に入れないように気をつけていた。
モチベーションが途切れなければ、このまま半年やめていることは可能みたいだ。
半年禁煙、半年喫煙、のリズムで4年くらい暮らしていて、今年は9日から「半年禁煙」の方の周期に入ったはずが、微妙に失敗。あらためて16日に再開して、今日で3日目。
(12日に、「明日もし煙草吸ったら、ここに5000字の日記をアップ」と書いたせいか、その「明日」である13日には吸わずに済んだ。しかし14日に吸ってしまい、15日にも吸ってしまい、16日に改心した次第)。
3日目。ということで、今日はかなり楽。煙草の存在を思い出すことはあってもほとんど吸いたくはならない。ニコチンは3日で体内から消えるはずなので、そろそろ体の依存は消えるかな。一方で、精神の依存は自分の経験上半月くらいは消えないから、そっちはもう少し付き合わないといけない。
吸っちまおうかな?とも数え切れないくらい思うんだが、別に誰に命令されているのでもなく勝手に半年禁煙すると決めたわけなので、吸うくらいなら最初から禁煙するなんて決めなきゃいいのに。かっこつけやがって(←?)。ばーか。と思うと、何となく気持ちが続く。いつものことだ。
さて、ここにくさやのにおいがする「くさいカッター」があったとする。においがすると言っても、刃を出した時だけしかにおいは広がらない。けど、刃を出したら部屋の中にそのにおいは充満する感じ。刃をしまえばそれ以降はにおいは広がらないが、それまで出していたにおいはある程度残る。
この「くさいカッター」を持った人が喫茶店に入ってきたとする。この人はおもむろにその「くさいカッター」を取り出したと思ったら、刃を出した。そのカッターを暫く5分ぐらい手に持ったり、机に置いたりして後、刃を収めてそのカッターをしまった。
また有る時は、道を歩いていたら、その「くさいカッター」の刃を出して歩いている人が向こうから歩いてきた。広い道なので普通にすれ違って、特に何事も無かった。すれ違ったあとには、かすかにくさやのにおいがするだろう。
さて、この「くさいカッターを持った人」のことを「くさいカッターを持たない人」はどう感じるだろうか?
これは、煙草のある側面のみを取り出して書いてみた。その点とは「においを周囲に撒き散らす」、「先端に触れたら怪我をする」という点のみ。それ以外は全く考えていない。
においに関しては、嗅ぎたくない人にとっては、煙草のにおいだろうがくさやのにおいだろうが、「嗅ぎたくないときに、におってくる」という点は同じ。「先端に触れたら怪我をする」も、滅多に無いことだろうが、持ってる人の手元が狂ったら怪我をするという点は同じ。
別にここまではこれで何が言いたい訳じゃないくて、なんとなく思っただけなんだ。
たまに「喫煙する権利」を主張する人間がいるが、これは屋内においてはおかしいと思う。何故なら、こんなのを認めたら上記の「くさいカッター」を使う権利も認めないといけないし、他に線香やお香を焚く権利も認めないとおかしいことになる。ある程度いろいろな人が集める空間では通常、社会的に「他人に迷惑をかける行為はしない」という事で通っている。だから別に、においだけでなく音や見た目というのも「他人に迷惑をかけない」がデフォルトである。それを考えると「喫煙する権利」なんてのは元々は無く、あくまで「デフォルトは禁煙」でその空間の所有者なりが「けど煙草は吸っても良い」という流れになると考えるのが自然である。他にも「デフォルトは禁○○」だけど所有者なりなんなりが「○○しても良い」と認めているとなるんだと思う。
だから「喫煙する権利」なんて主張する人は、こういう「ここでは煙草を吸っても良い」が見えてないと感じるんだな。確かに、喫煙できる所ってかなり多くて喫煙が社会的に大きく認められてるかもしれないけど、それでもあくまで(吸っても良いと)認められているだけ、当たり前に感じるのって嫌なんだな。
半年禁煙、半年喫煙、のリズムで4年くらい暮らしていて、今年は土曜日から「半年禁煙」の方の周期に入ったんだが、今日突然煙草が吸いたくなって1本吸ってしまう。色々言い訳できることはあるが、誰に約束しているわけでもないので、言い訳する相手がいない。あえて言えば自分だけで、自分にはすでに言い訳したので完了。
意志が弱くて笑っちゃうな、ってそうでもなくて、意志だけで禁煙を続けられるくらいなら、今までだって成功していない。必要なのは事実を知ることと勘違いすることだけ。でしょ?
そして、
これだけで禁煙できる。本当に?本当だよ。念のために、「明日もし煙草吸ったら、ここに5000字の日記をアップ」とか縛り加えてみたり。5000字の日記は相当目障りだよね。もし吸っちゃったらごめん。
半年禁煙、半年喫煙、のリズムで4年くらい暮らしていて、今年は土曜日から「半年禁煙」の方の周期に入った。
いつも禁煙して1週間くらいは胃痛と頭痛がひどいんだけれど、今回はまったくそれがない。ない代わりに眠気がひどい。昨日の正午くらいに昼寝しようと横になっただけなのに、起きたら今(朝の7時)で、時間の感覚が分からなくなった。
喫煙には覚醒作用があるはずで、禁煙して眠くなるのは当然なんだろうけれど、あまりにもという気が。ちなみに、今までの禁煙では眠気はここまでではなくて、逆に中途覚醒が頻繁にあった。
今回はいつもと事情が違うなあ。あと、いつもと何より違うのは、どういうわけかまったく煙草を吸いたくならない。この半年、あんなに吸っていたのは何だったんだろう。こんなことならやめればいいじゃないか。とも言える。