チンポコの話を書いておくべきだと思った。
突如としてチンポコにニキビみたいなものができた。思春期の中学生にできるみたいなやつが亜空間から誕生した。チンポコの左サイドだ。この位置にニキビができると空力的にまずい。性病か何かだろうと考えもしたが、感染経路がサウナくらいしか思いつかない。不安だ。どうしても不安だ。
これがやはり普通のニキビで、おでこにできたニキビは想いニキビ、チンポコのは重いニキビ、とでも言えたら人生も楽しいのだろうけど、とにかく不安だった。このままボコボコとニキビが増殖していって最後にポンの顔が出てきたらどうしよう、泣きながら潰す羽目になったらどうしよう。夜も眠れなかった。結構寝た。
いきなり性病科の医師はハードルが高いと思った。渋谷辺りの首都高から見える「性病科」とちょっとホラーっぽいフォントの見える病院に行こうと思ったが、そのまま余命宣告とかされたら恥ずかしいし、なにより結構普通なことだったら恥ずかしい。
女の子同士は、「よしこおっぱいおおきいー」「もう!」と更衣室で性的な話に花が咲くかもしれないが、男同士はあまり「隆則、ちんぽこでかい」と揉みあったりはしない。他人のチンポコがどうなってるのかあずかり知らないところがある。
もし、結構日常的にちんぽこにニキビができるとしたら? 僕が知らないだけで当たり前であったとしたら、ただ性病科にちんぽこを見せつけに行っただけの人だ。「あれで自信あるのから見せに来たのかしら」などと婦長に笑われたら目も当てられない。
セミプロに見せたらどうだろうか。そう思った。早い話がピンサロだ。
ピンサロの女の子たちはもしかしたらチュロスよりチンポコを見ているかもしれない。もしこれが深刻な病ならすぐにでも異変に気が付くだろう。そしてサービス中止となり、僕はたたき出されるだろう。ただ、それは撤退ではない。敗走ではない。価値ある前進なのだ。そこで初めて病院に行く決意ができる。
侍はピンサロの前に立った。
固い決意とは裏腹にピンサロの看板はピンク色でぷよぷよしたフォントだった。今日は私服デーらしい。
入店すると待合室みたいな場所に通された。何人か先客がいて、まるで死刑を施行される前の人のようにうなだれて座ったいた。なぜだろうか、覇気がない。
全員が全員、チンポコにニキビができたわけでもなかろうに、なんでピンサロの待合室はあんなにもバツが悪そうなのか。もっと快活にみんなでフットサルをするくらいに勢いでもいいんじゃないか。そう思う僕も、バツが悪そうに、バイク仲間が事故した時の病院待合室みたいな感覚で待った。
きっと誰もがチンポコにニキビみたいなバツの悪さを抱えている。ピンサロに来るとはそういうことだ。誰もがここでは大人しくなるしかない。フットサルなんてとんでもない。
トイレから声がした。同時にドアを蹴破りそうな勢いでオッサンが飛び出してきた。マジックだったらすごくビックリするシーンだ。マジックじゃなくてもびっくりする。
ヘモグロビンの代わりにストロングゼロ(ダブルシークワーサー)が流れていそうなオッサンはウンコが流れないことに御立腹ですごい怒っていた。開け放たれたトイレからは禍々しいオーラが溢れ出していた。
謝るピンサロボーイに、しゅぽしゅぽやるやつ持って駆けつけるピンサロボーイ、一通り暴れたオッサンは「ゲンが悪いから帰るわ」と吐き捨てて帰っていった。お金と割引券を返却してもらってた。
僕はそんな彼を見て、チンポコにニキビなんてなんて小さいことで悩んでいたんだろう、そう思った。ピンサロではなく病院に行くべきである。そう思った。なので僕も帰ることにした。返金はしてもらえなかった。