中学1年生のときに一目惚れをして、僕から声をかけ、中高の6年間で付き合ったり別れたりを何度か繰り返した。付き合った、といってもごっこ遊びのようなもので、平日はメールや電話でやりとりして、休日にたまに映画を見に行く程度の付き合い。手も握ったことなければ、もちろんキスなんてしたこともない。
彼女とは大学が別々になり、それがきっかけで疎遠になっていた。
それから4年が過ぎ、大学の卒業式の日、ふと彼女のことを思い出した僕は、思いつきで彼女のメールアドレス宛にメールを送ってみた。4年間でメアドも変わっているだろうと自分に言い訳しながら。
「元気にしてる? 今日は卒業式だったよ。来月から東京で社会人だ」
どうせ返事はこないさ、という僕の予想に反して、彼女からすぐに返事がきた。
「元気にしてるよー」
思わぬ返事に舞い上がった僕は、何度かのやりとりのあと、東京にいく途中で彼女の家に行っても良いかと聞いてみた。彼女からは「いいよ」という返事が返ってきた。
ひとり暮らしをしている女の子の家に泊めてもらう。何かあるわけじゃない、ともだちとして泊まりに行くだけだ、と自分に言い聞かせながらも、僕の中では彼女と何かあるんじゃないかという期待が膨らんでいた。
そして、約束の日の夕方、待ち合わせの駅の改札を出ると、彼女がいた。久しぶりに見る彼女の姿に、高校を卒業した頃の姿が重なる。小さな身体にしっかり結んだポニーテールがよく似合っていた。
ふたりで家の近くの居酒屋に入り、近況を語り合った。ひとり暮らしのこと、学校のこと、恋人のこと。彼氏がいるということだったが、最近はうまくいっていないということを聞いて、期待がまた少し膨らんだ。お酒が進み、酔っ払うにつれて、高校のころや中学のころの話になり、あの頃がなつかしいね、一緒に映画を見に行ったよね、と時間が巻き戻っていくのを感じた。
2時間ほど飲んだあと、居酒屋を出て、彼女の部屋へと向かった。
ワンルームの部屋にはこたつが置いてあった。寒いねと言いながら、こたつに入ってテレビをつけた。テレビではバラエティ番組を放送していた。テレビでは芸人たちがおもしろいことを言って笑いをとっていたが、舞い上がっていた僕の目にはまったくはいってこなかった。
「汗かいちゃったね。お風呂どうする?」と言われ、彼女と交代でシャワーを浴びることにした。僕がシャワーから出ると、先にシャワーを浴びた彼女はこたつから上半身を出して眠っていた。何かあるかもと期待していた僕の気持ちは急にしぼんでしまった。このまま朝になって、なにごともなく帰るのかな、と。
僕もこたつに入り横になった。目をつぶって寝ようとするが、昂ぶっているのかなかなか眠ることができなかった。こたつに入って15分くらい経ったころ、
「眠れないの?」
と、眠っていると思っていた彼女が口を開いた。
「うん」
正直に答える。
「...」
「...」
沈黙が部屋の中に充満していく。
「そっちにいってもいい?」
思い切って聞いてみた。
「...いいよ...」
彼女が答える。
彼女が寝ているこたつの辺に身体を入れて、彼女にくっつくように抱きしめた。小柄な彼女の髪の毛が僕の鼻をくすぐる。女性用シャンプーの魅惑的な香りが僕の脳を麻痺させていく。頭を少しずつずらして、彼女の顔へと近づけた。
中学のとき、高校のとき、求め続けて得ることができなかった彼女のくちびるがそこにあった。
思い切ってくちびるを合わせた。彼女はびくっと身体を震わせた。お互いの身体から緊張が伝わる。緊張をやぶったのは、彼女の方だった。くちびるから舌を出し、絡ませてきた。僕もそれに応えた。お互いの口から吐息が漏れる。ねっとりとしたキスをしながら、手で彼女の身体をまさぐった。ふとももから撫でるようにおしりをさわろうとしたとき、彼女の手が僕の手を制した。
小さい声で「...ダメ...」と言う。
ここまでしているのに? これ以上はだめということ?
パニックになった僕は思わず「なんで?」と口に出してしまった。
「...これ以上すすんだら、ともだちじゃいられなくなるよ?」と彼女は言った。
彼女の言い分としては、セックスするならちゃんと付き合って欲しい、付き合わないのにセックスをするのであればともだちとしての付き合いも今日まで、ということだった。
それならば彼女と付き合ったらいいじゃん、という話だが、実は僕には大事な彼女がいて、その子と別れるつもりはまったくないのだった。ひどい話だと自分でも分かっているのだが、仕方がない。
僕は少し考えるふりをして、ともだちとしての付き合いが終わってもいいから、付き合うとかはなしでセックスしよう、と言った。彼女は少し残念そうな顔を見せたが、仕方ないとあきらめたのか、ふたたび僕と身体を合せた。
服を一枚ずつ脱がせていく。これまで想像のものでしかなかった彼女の身体が、少しずつ顕になっていった。僕も服を脱ぎ、肌と肌を合わせる。彼女の大切な部分に指をはわせると、僕の耳元で一段と大きな吐息が漏れた。彼女の息遣いに僕の興奮は最高潮に達していた。
彼女の身体を下にして、いざ挿入という段になって、彼女が言った。
「...ゴムは?...」
「...持ってきてないや...」
しばらく目と目で見つめ合ったが、ここまでだなと僕の中でなにかの区切りがついて、結局彼女に挿入することはなかった。
彼女はもう一度シャワーを浴びてくると言って風呂場へと消えていった。こたつにひとり残された僕は、風呂場から聞こえるシャワーの音を聞いていた。それはまるで身体のけがれを落とすかのような音だった。シュコシュコシュコと、歯磨きの音も聞こえてきた。さっきまでお互いに求め合い、くちづけ合っていた余韻をさっさと洗い流してしまいたいという音だった。
そのあとは、朝まで別々に眠り、始発の電車に乗るために、早起きして彼女の家を後にした。
東京に向かう電車の中で、昨夜のことを思い出しながら彼女にメールを送っていた。
「一線は越えてないから、僕たちはまだともだちだよね?」
こういうクズが多くの女性とセックスして非対称性を生み出すんだろうなあ。 死ねよ。
超えてるだろ。