メールにしても、匿名掲示板のメッセージにしても、量が問題になるならば、それを偽装する方法はいくらでもある。バルクメーラーで2億通くらい送りつければ、日本の人口を超えているけど確実に多数意見を作れるわけであるし、自動書き込みツールもある。これらはツールモンキーレベルの児戯であるし、そういった現実を知らずに、それらの裏付けの無い発言を世論であるとカウントするのは、間抜けな事である。
ネットを世論操作の道具として使いたければ、まず、ネット上に論壇を形成する事から始めなければならない。論壇があって、そこで行われている議論の趨勢が、結果的に世論となる。メディアが独占されていた時代には、論壇は出版社や新聞社が商売の為に作っていたが、メディアの独占がなくなり、それらの商業主義論壇がやっていた事が、単なる銭儲けの為でしかなく、世のため人の為になっていない事が暴露されてしまい、商業論壇は存在しなくなった。
論壇がない状態で世論は、情報公開、反マスゴミ、ワンフレーズポリティクスという方向に進んできた。情報公開によって有権者が判断するというのは、情報公開によって、霞が関文学の詳細な実例や利権構造といった、既得権益層の存在とそれを温存する仕組みを明らかにした。それは、過去の諸制度に対する批判を掘り起こす結果につながり、反マスゴミ、ワンフレーズポリティクスへと進んでいき、ついに、無能な政治家は支持しないという風潮から、政権交代という結果になったが、政権交代の結果は、それ以前よりもさらに無能で恥知らずな愚物がのさばるという、どうしようもない結果となってしまった。
政治家を育てるには、育てるに値する信用が無ければならない。政治家の側が、育てて貰えるだけの価値を証明しなければならない。日頃の政治活動の可視化という、一番具体的な方法があるのに、それをやらず、また、地域密着の結果として、地域の利権代表であって国家の代表にはなりえないという宿痾を解決する多選規制という手法もあるのに、それをやれていない。
衆参が捻れている状態では、首相の任期は一年で、予算を通す度にコロコロ変わるのは当然となるし、選挙民に信用されない限り、一期限りで落選させるという事になる。利権代表でしかないのであれば、多選されたければ、利権をばら撒く地域を広げていくしかなく、その為の財源として赤字国債や増税といった手法をとるのであれば、税として取られる分や将来の負担を補えるだけのばら撒きが無ければ支持は集められないし、ばら撒きの量に差があれば、不平等だからという事で、自分達により多くばら撒いてくれる人を担ぎ上げるという話になる。それだけの手厚いばら撒きをやれる財源など、どこにもないので、結果的に、一期限りで落選させるという代議士の使い方にならざるを得ないのである。
電力会社の幹部にしても、政治家にしても、質の劣化は酷いものである。
質が劣化しているのは、質を向上させる仕組みがない為であるし、向上する必然性が無い為でもある。電力会社も政治家も、世界的視野から見れば、地域独占事業となる。独占に甘んじ、競争を怠ると、人材の質はどこまでも劣化していく。この体質を改める事こそが改革なのだが、人材の質を高める仕組みを作ると、オールドパージに繋がりかねないということで、反対する者が出てくる。
公共の利益よりも私益を優先する時点で、地域独占である政治や独占が認められている企業の従業員としては落第である。個人の利益を優先するならば、私企業で活動するべきなのだが、それすらも判断できないほどに質が低下しているのである。
個人の質の低下は単なる質の低下であり、低劣な人材を排除していけば済む事だが、質の低下を是正できないのは、社会の質の低下である。まさしく国難なのだが、それに気がついていないか、気がついていても、自分自身がそのものなので、気がつかないふりをしているというのが、多数派になっているのであった。
無能な多数派よりは、捏造メールの多数派の方が、害は少ない。無能な多数派は、原発をメルトダウンさせてしまったり、歳入よりも多額の赤字国債を発行する法案を通そうとしたりする。これは実害である。