はてなキーワード: 樹氷とは
吹雪の中息絶えた人間の死体に雪が積もったような、不穏で美しいとは言い難いものだったのだ。
それまで俺の頭の中にあった樹氷のイメージは、葉を落とした樹木に吹き付けられた氷がきらめいて細かな枝のように見えている、というものだった。木の枝がそのまま雪の結晶になったような、繊細な美しさを想像していた。
寒いところは苦手で、ウインタースポーツもやらないので、実際の霧氷も樹氷も見ることなく、この歳まで過ごしてきた。
この間、たまたま同年代の友人に樹氷の話をしたら、そいつも同じように勘違いをしていたと言う。
これは何か(世代的な)理由があるに違いない、という話になって、思い至ったのが、「タコなのよ、タコ」だった。
サントリーの焼酎(名称としてはマイルドウオッカ)「樹氷」だ。
“タコなのよ”で田中裕子のCMを思い出した人はわかるだろうが、タコハイ(ボール)などで一世を風靡した酒である。
俺はこのCMが流れていた頃はまだ子供で、「樹氷」を実際に飲んだ覚えはない。
家にあった気もしないが(父親は安いウイスキーを買ってオールドパーの空瓶に詰め替えて呑んでたなー)、
透明な瓶に青字で「樹氷」、バックには白樺かなんかの木々が白で描かれていた。
霧氷を描いているとは言えないかもしれないが、少なくとも樹氷を描いてはいない。
あのデザインが頭に刷り込まれて、俺たちは樹氷と霧氷を取り違えていたのだ、というのが俺たちの結論だ。
ウィグル人の居住区とイスラムの文化遺産を破壊しつつ辺境「開発」。
景気刺激策のばらまきで少数民族の習俗をついでに破滅させる一石二鳥。
アルタイ山脈はモンゴル、露西亜、カザフスタン、中国を東西に貫く。
その頂点とみられる、ベルーハ山は標高4506メートル、カザフと露西亜の国境を分ける。中国側の「アルタイ市」は、地理的にウルムチの北方およそ600キロ、「阿弥泰」の漢語を当てるが、原住民はもともと漢族ではない。
ちょうどアルタイ市の位置は中国、モンゴル、露西亜、カザフ国境であり、北のロシア側はアルタイ共和国。
アルタイ山脈の雪解け水は中国領内で「ウルンクル河」と呼称される河川がカザフスタン側へ注がれ、ザイサン湖にたまり、そこからカザフ語の「イルティシ河」となって、カザフ北方を東から西へのび、ロシアへ流れ込むと西シベリアのオムスク市あたりまで達し、他の河川に合流する。
山岳地帯だが、水資源には恵まれる。
アルタイ市の北側は北屯鎮をいわれ、河の北岸を新都心「北屯新区」とする計画が決まった。景気刺激策の57兆円プロジェクトに便乗し、三年間で四億元を投資する。
くわえて民間企業への貸し出しを十億元以上と見込むそうな。
2010年にはアルタイに繋がる鉄道、高速道路開通も予定されている。巨大な開発は新都心つくり、新空港整備などに置かれ、アルタイは樹氷でも有名なので、冬の観光客が見込めると「取らぬ狸の皮算用」もやっているが、真の狙いはレアメタル確保である。
そしておそらくは過激派の温床となるのを防ぐために新都心を築くのだ。
すでに新彊ウィグル自治区には14の空港がある。予算の分捕り合戦、あげくに地元デベロッパーの賄賂、手抜き工事。危なっかしい工事が予測される空港を、新彊ウィグル自治区では三つ、新たに増やし、合計17の空港を構築する。イーニン、アクス、ウルムチなどの空港は大規模な改修工事、クチャは移転工事が進んでいる。
新彊ウィグルの西端、カシュガルという砂漠のオアシス都市は世界的にも有名だろう。キルギスと国境を接する街、イスラム教の聖地エディカル・モスクがあることでも知られる。
このカシュガル周辺がM6・8の地震の襲われたのは08年10月5日だった。同地区では1902年にもマグニチュード8・0の大地震があり800名前後の死者がでたという記憶がある。
夏は摂氏30度、真冬は零下十五度という寒暖差がはげしいカシュガルはシルクロードの要衝として古くから栄え、駱駝が闊歩して胡人の隊商が行き交い、むしろ漢族の入植が遅れた。
殆どがイスラム教徒だった。
中国のイスラム教徒にとって、カシュガルのエティカル・モスク参拝は、メッカ巡礼のごとく聖地への憧れ、1422年の建立。正門12メートル、ミナレットは18メートルの高見櫓として左右に立ち、壁面にはイスラム文化の文様が彫り込まれている。
カシュガル市は、このエティカル・モスクを中心にユスフ・ハズ・ジャジャブ(カラハン朝の大侍従)の墓、シルクロード博物館、バザールが拡がって「カシュガル旧市街」を形成した。
近郊にはアバク・ホージャ(新彊イスラム白壇派指導者)の墓、30キロ北東には千年以上前の莫爾仏塔が砂漠のなかに蜃気楼のごとく残る。
このカシュガル旧市街という文化遺産を「地震対策」を名目に建て替え、住民を近郊に「新市街」を建設し、高層アパートに移転させるという無謀なプロジェクトが展開され始めた(ヘラルドトリビューン、5月27日付け)。
すでに900世帯が立ち退き、残り13000世帯も「地震がくるから移転を急ぎなさい」と市当局から煽られて、強制的な引っ越し準備に明け暮れている。
「これはイスラムの文化遺跡破壊ではないか」と前掲ヘラルド紙が批判を繰り出した。
カシュガル市当局は対象住民と何回も話し合いを持ったと言い張るが、住民側は立ち退き日程と保証金を聞かされただけ、プロジェクト全体の費用はとりあえず4億4000万ドル、これに57兆円の景気刺激予算から追加の配分がある、という。
二十日以内に立ち退けば、保証金の他に30ドルの報奨金、一ヶ月以内なら15ドルの報奨金が貰える、と即物的なカネの宣伝を繰り返し、ウィグル人の住居という習俗、文化風習を無視してプロジェクトを急ぐ。
この結果は、さらに漢族支配への敵愾心を増幅させたようだ。
どうやら中央政府は治安対策上、イスラム教徒過激派の集合場所を分散できると踏み、省政府とカシュガル市政府の高官はプロジェクトでカネが転がり込むと踏み、土建屋的発想が文化遺産保存という考え方もついでに破壊した。
北京の文化関係者のあいだにも不評で「愚かな政策」と吐き捨てる者がいるが、国連ユネスコ「世界遺産」登録リストから北京政府は意図的にカシュガルをはずした。「これは政府高官の命令と思える」と文化遺産関係者が憶測しているという。