2022-11-23

これから猫を看取る

先生が「あとはお家で一緒にいてあげるのがいいのではないかと思います。」と言った。かねてから治療についての選択彼女が一番苦しくないものを、しか最後となったら家でゆっくり過ごさせたい、と伝えていたから。もうこれ以上治療はしない。

彼女は三年前、「中国肺炎を患う謎の風土病流行っている」くらいの気分のニュースがちらほら出てきた頃我が家にやってきた。しばらくして始まったステイホームリモートワークのお陰で三年間のほとんど、本当にほぼすべてに近い時間ふたりきりで過ごした。極端な甘え方をする猫だった。椅子の下を通る度にいちいち肩からしっぽまでがこちらの足にスーッと触れるように歩いた。トイレ風呂も洗い物も歯磨きもとりあえずついてきてチョコンと座ってこちらを見入っていた。コンビニから帰る度にレジ袋を嗅ぎに来る旺盛な好奇心とは裏腹にヤマトが来てもUberが来ても玄関から一番遠い物陰に隠れる人見知りでもあった。

コロナによって仕事は波乱に満ちた日々だったけれど、生活空間は驚くほど平坦な毎日だった。早朝の大運動会を付き合わされたあと二度寝してから仕事を始めると、彼女は飛び乗ってきてお昼まで膝の上から離れなかった。ギュウッと抱きしめうなじマッサージしてやると目を細めた。ノソノソと膝から降りてしばらく窓の外を眺め、午後は日向で仰向けにのんびり過ごし、こちらの晩御飯を嗅ぎにきてはカリカリお茶碗に戻り、夜はベッドに潜り込んできた。姿が見えなくてもくしゃみをするとニャオミャーオと合いの手が返ってくる。休日は昼間からちびちびビールを飲み一緒にNETFLIXを観た。彼女存在が時空間を歪め時間の流れをゆったりとさせた。この部屋ではそんな毎日の繰り返しが起伏もなくずっと続く、それ以外の未来リアリティを感じなかった。いつか別れが訪れることはわかっていたけれど、10年は先の話だと頭から切り離していた。

様子がおかしいことに気づいてからはあっという間だった。治療の度一旦元気になるものの数日と続かない。希望の持てない病状であることが即ち彼女との時間に限りがあることを徐々に、今更のように突きつけてきた。退院のたびに一緒に過ごす時間の愛おしさは、平坦だったあの頃にもあふれていたことに今更気づかされた。何もかもが今更だ。

残りの時間いくらかでも楽に過ごせるような処方をもらって帰宅し、だらりとコの字で横になっている。まだ近づけばこちらをじっと見返しているし、名前を呼べばしっぽの先を少しだけ振り上げて返事をする。うなじクリクリしても押し返してくる元気はもうない。

天寿と言うには短すぎたけれどこればかりは彼女の天寿であるのだから致し方ない。特別出演友情出演のように短かったけれど、この人生に登場してくれて心からありがとう。本当に特別なシーンの平坦な連続だった。

あと数日。長くてもせいぜい一週間。精一杯ありがとうと念じて静かに撫で続けよう。

これから猫を看取る。

  • 二人に幸せを

  • 猫は害獣! ご臨終おめでとうございます!!

    • 猫に嫉妬するな お前が死んだときもちゃんと祝ってやるから

      • 猫と人間を同等にするとか猫好きはアホしかおらんのやなぁ

        • まぁ、オマエがどんな人生を歩んでいるか知らんし、オマエの家庭菜園を野良猫に台無しにされても、オマエよりはネコチャンのほうが遥かに優れていると思ってるので。 (尊敬する上...

          • ヒェーーーーーッwwwwwwww こわーーーーーッwwwwwwww

          • ネコチャンだっておwwwww はいはいネコチャンはかわいいでちゅね~wwwwwヨチヨチwwwww

  • うちの母親、大の猫好きで猫が天国に旅立った後の落ち込み用は見ていられなかった。 愛情深い増田に飼われてこの猫は幸せだったと思う。

  • お互いにこれ以上ないくらい幸せだったよな。 おめでとう。 二人の旅はここで終わり。また会う日まで。

  • https://anond.hatelabo.jp/20221123155759 家で看取ると決め帰宅させた夜はカタールワールドカップ日本代表初戦だった。サッカー中継と天気予報と「ダーウィンが来た!」が好きでいつも食い入る...

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