高台に立っているマンションであるため眺望も開放感にあふれている。都内に住んでいたころは、窓の外は隣の家の壁だったから眺望もクソもなかったけど、今は空の広さや丘に広がる民家の並びを眺めては、在宅勤務で疲れた脳みそも少しリフレッシュができる。
日当たりが良い部屋で寝室に光が差込み朝も自然に、かつ、すっきりした目覚めだ。日が当たるのでリビングも暖かく、この季節でも暖房いらず。
メンタルも安定している。
これでいて都内より家賃が安い。ついでにいえば近くに激安スーパーがあって、食材も安く手に入る。キッチンが広くなったので料理も楽しいし、奮発して買った大きな冷蔵庫のおかげでたくさんストックができる。最高だ。
私は18歳から上京し、10年以上東京で暮らしてきた。はじめて訪れた東京には何でもあった。
個人経営のこじゃれた飲食店、そこに集まる常連さん。20歳になったときに初めて酒を飲むときはお祝いをしてくれた人たち。
30分も電車にのればあらゆる街に訪れて買い物できるし、暇ならフラッと単館系映画館に訪れて気分でよくわからない映画を見てよく分からなかったなとぼんやりした感想を持ち時間を潰す。たまには美術館なんかに足を運んで教養を高めたような気分を味わう。
すべてが自分の心を震わすもので、これが都会の生活なのだと鼻息を荒くし、二度とドンキとイオンしかないような地方に住むものかと、思っていた。
そうしてコロナが訪れた。
狭く暗い家でただ在宅勤務をこなす日々。
人と会わないこと自体は意外と平気だったが(むしろ心地よかった)、用事があって出かけるとどこに行っても人、人、人。
そりゃコロナも感染拡大するよなどと思いつつ、次は自分の番かもね、とうっすらとした危機感との隣り合わせの生活を送る。
単館系映画館もなんとなく行きにくくなって、ネットフリックスなんかを見てたりして。
美術館も行かなくなって、なんとなくルーブル美術館とかのオンライン見学を見たりして。
個人経営の飲食店もテイクアウトや、ECで手に入るようになって。
気づいたのは、東京でしか享受できないと思っていた娯楽は東京以外でも容易に手に入る娯楽だったこと。
もちろんオフラインでの体験はオンラインでの体験では味わえない素晴らしさがあるが、
東京にこだわる理由もなくなったな、と思ったのがこの夏でした。
賃貸の更新のタイミングもちょうどよく、秋には引っ越しをしていた。
住まいを移ってからは、のんびりした空気が心地よく、冒頭に記載したとおり、いままでは味わえなかった素晴らしい生活を噛み締めている。