2020年6月30日に「新たなモニタリングの方向性」が公表され,数値基準を設けないこととされた。
都の新型コロナウイルス感染症対策サイト(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp])は現在、新たなモニタリングの早期実施に向けて準備中
であり,モニタリング指標のグラフ等は旧指標のままであるが,「モニタリング指標」欄からは「目安」が削除されている。
太字部分は都職員の中に優秀な頭脳の持ち主がいることを伺わせる。
(2)新規陽性者数における接触歴等不明率と(3)週単位の陽性者増加比は,(1)新規陽性者数が少ないときは1人の増減が与える影響が大きいため,クラスター感染を一網打尽にしたとき等に(3)が急増するなど,適切に機能しない場合がある。したがって,(1)≦10のときは参考値にとどめるというのは正しい。
しかし,そうした配慮は,数値を機械的に当てはめると過剰反応になることに備えた対策であり,一定の基準がある場合にのみ効果を有する。
今回,モニタリング指標に数値基準や目安値を設けないこととしたのだから,モニタリング指標の全ては参考値にとどまっており,したがって(1)≦10であろうが(1)>10であろうが常に参考値なのだから,「(1)が10人以下となった場合は、(2)及び(3)は参考値とする」というのは無意味な区別である。
おそらく,優秀な頭脳の持ち主の意見が十分に反映されない組織なのだろう。
(2)(3)についていえば,そもそも旧指標の目安があまり適切ではなかった。
(2)接触歴等不明率が一定であっても総数が100倍になればインパクトは100倍なのだから,(2)単独では意味のある判断はできない。
(3)週単位の陽性者増加比は旧目安では2以上で自粛の目安としていたが,1.5倍であっても2週間続けば2.25倍,4週間続けば5.0625倍である。1週間で2倍なら問題で2週間で2倍なら問題ない,という根拠は無い。指数関数である以上,発散するか否かの分水嶺は「1」であり,警戒すべきか否かの基準は1の他にない。東京アラートは,当日の(3)が1を超えたか否かで都庁と橋をライトアップする,その日ごとの判断にする方が良かったと思う。(ただし,緊急事態宣言解除後,(3)<1だったのは6/11と6/13の2日だけである。)
この点,新指標では③新規陽性者における接触歴等不明者の(1)数と(2)増加比をモニタリングするとしている。
単純な新規陽性者数の数と増加比ではなく感染経路不明者の数と増加比に絞ったのは,クラスター感染を一網打尽にしたときのノイズを除去するためであろう。有益な改善である。
また,旧指標(2)接触歴等不明率はモニタリング対象から外した。潜在・市中感染の把握にあたってクラスター感染者をノイズとして除去するという目的は上記③(1)(2)で達成され,旧(2)には独自の意味は無いから,これも妥当な修正である。
新しいモニタリング指標は旧指標に比べさらに洗練されており,優秀な頭脳の持ち主がいることを伺わせる。それだけに,数値目標を設けないなど,指標の意義を没却せしめる大方針が置かれていることは残念である。