全てから心を閉ざしている主人公に急に明るい女の子が語りかけてくる、という受け身男の願望を垂れ流したような序盤から、喫茶や焼肉屋など「食」に関係する場所をめぐりつつ比喩をばらまいてゆく。この美女が勝手に迫ってくるという自慰はさくらが彼を旅行に誘うというご都合な展開を見せる。更に彼女は風呂上がりにお酒を持ち出して、それぞれの理解を深めたりもする。いったいこのキャバクラの同伴を何時間見せつけられたら良いのだろう、という気分になってくる。問題はこの女が男を誘えば付いて来るに違いないという確信で動いているフシがあること。これはあざとい。元彼に殴られた際も彼女は彼をかばうくらい過保護に振る舞う。もうこうなると彼女の心を癒やすためというより、非常な犠牲を払って男に奉仕しているようにしか見えない。観劇中何度となく「視聴者なめてんのか」「こんな女いねーよ」という台詞が発作的に飛び出してしまう。そもそも恋愛と死というありふれすぎたメロドラマをどう料理するか腕が問われるはずなのに、なんのひねりもなく死の病にかかった彼女に「切ない」というストレートな感情が吐露されてゆくのが可笑しい。病気の彼女という自慰要素を使って心を開かせて、あまつさえ自分を変えてもらおうなどと、何者にも劣る噴飯ものの発想と言わざるを得ない。1:11:20付近に「こんなに愛されてるんだ」と彼女はいうが、この場所など誘い受けの極地という他ない。あそこまで誘われて引っかからない男なんているのだろうか。つまりこれは膵臓を病んだ女が男を一本釣りする話でしかないのだ。しかもこの女、作者の腕の無さから突然刺されて殺されてしまう。
素晴らしいスタッフと作画の安定感、ありえないくらいご都合主義の下らない原作というミスマッチが生み出した不思議な作品。ポップコーンを食べつつ、もののついでにだべりながら文句を言い合って見るスタイルが極めてお勧めである。少なくともそうした視聴方法ならば時間を損したとまでは思うまい。むしろ作者の筆を折らせたいというアグレッシブな思いにまで発展するのだから、ここは一つ視聴者のメンタルに影響を与えたという意味でも「素晴らしい」というべきではないだろうか。
録画映像に対し「観劇中」と呼ぶところに言語センスが光る。27点。