大学生の頃にインターネットで知り合った人と会いまくっていて、ネットで知り合った人の家に入り浸ってごはん食べさせてもらったりPCゲーム借りて一日中やったり、そんなどうしようもなくてしょーもない日々を過ごしていたことがある。
その時期に出会った同じ大学の同級生がいた。まるで双子の半身のように思える人だった。
同じ大学とはいえ広い大学で、学部が違ったのでインターネット上で初めて知り合った。大学三年生で、Twitterが流行りだした頃だった。相互フォローだった。初めて会った彼は人好きのする顔をしていた。人によってはイケメンと言う。案の定地元に付き合って長い彼女がいた。
ちょうど大学の歓迎祭の時期で、彼が出るというバンド演奏を見に行った。知らなかったけれど、好きな系統のアーティストのコピーバンドだった。ドラムを叩く彼のことを少し好きになった。バンドはドラムが一番格好いいと思う。大物の武器を持ったキャラクターが好きなのと同じ気持ちかもしれない。
だらだらとTwitterでリプライを交わした。だめな大学生だったので時間は無限にあった。タイムラインにはりついて深夜まで過ごしているといつも彼もツイートをしていた。みんなが寝静まって人の少なくなったタイムラインで、彼とリプライをつけずに会話した。夜更かしが好きなんだと彼が言う理由が同じだと良いなと思った。
彼は悪く言えば女々しい、女の子みたいな中身の男だった。インターネット上でもちょいちょい性別を間違われていた。逆にこっちは男に間違われてまくっていた。まるで世界はうまく回っていない。逆だったらよかったね、って言い合った。
だめなところが同じだった。まるで自分のようにどこまでも同じだった。自分に甘くて、そんな自分が嫌いで、だけれどもそれもひっくるめた自分のことが少しだけ好きだった。精神性が似通っているものだから、このころ、互いのことを双子と呼びあった。自分自身を慈しむようだけれど、だめなところも全ていとおしく感じていた。半身のように大切だと思っていた。
夜中に彼の家の近くまで散歩して牛丼屋に行ってふたりで牛丼を食べた。前にバンドで聴いたアーティストのCDを借りるという口実。CDを受け取ってから、夜更けの人気のない大通りの交差点で、車止めに腰掛けてだらだらと喋り続けた。借りた3枚のアルバムの、そこに入っていた曲だけをいまだにずっと聴いている。あまり音楽を聞かない人間だから、そのとき久しぶりに好きなアーティストが増えた。夜ってだけで楽しい。二人でこのまま時を過ごせたなら。そんな曲が入っていて、なんとなく重ね合わせてみたりもした。
それとは別だけれど、特別に、彼のことを思い出す曲がある。あの日彼が叩くドラムで聴いた曲。彼にとっては好きなアーティストの、演奏するくらいだからわりと好きな方の曲なのかもしれない。だけれどもきっと、たぶん、それだけなのだろうと思う。こっちが勝手に彼のことを思い出す曲だと思っているだけで、彼にとってはそうでないことが少しだけ悔しかった。
あのままふたりで甘く腐っていくような時間を過ごしていく選択もできたと思う。もう少しだけ人生に諦めがついていたら、そうしたかもしれない。大学三年生、やれるとしたらあの頃しかなかった。その最後の選択肢を選ばなかった。まだ彼には、地元に残してきた彼女がいた。
数年後、Twitterのアカウントを消してから疎遠になって以来久しぶりに会った彼は地元の彼女とはとっくに別れていて、知らない女の子ともうじき結婚するのだとビールを片手に話していた。それが数ヶ月前の話、だから確か本当にもうすぐ結婚式をするのだと言っていた気がする。
ありがとう、さようなら、おめでとう。いろいろ言いたいけれど綺麗にまとめるのもなんだか違う気がして複雑だったので、こっそりここに置いておく。
彼とつるんでいた時期のことを思い出すとあまりに大学生らしくエモく退廃的な日々で、思い出すほどにこうしてポエムが無限に出てくる。ともあれ、徹夜明けの朝みたいに、ろくでもない日々だった。
有浦柑奈「オー・シャンゼリゼでも歌って街を往くといいですよ! きっと素敵な出会いがあるはず!」