新海監督作品の特徴として「見ている間は感情が揺さぶられる」「見終わった後は虚無感のような何とも言えない感覚につつまれる」というのがあると思っています。ただ、それを感じとれるのは主人公に自分をシンクロできるか否かというのが重要な点で、それゆえ「人を選ぶ作品」と言われてしまいます。新海監督作品の楽しみ方は、第三者として物語を傍観するのではなくて、当事者になって物語を体感することだと思うし、それができる作品を作れるのが新海監督の一番スゴイところだと思います。これまでの作品はシンクロの間口が狭かったので一部の人の高評価にとどまっていましたが、君の名は。はシンクロの間口を広げる要因がいくつもあったので多くの人から高評価を受けたのだと思います。その要因を書いてみたいと思います。
先ず、瀧・三葉のダブル主人公で、現代の高校生→大学生→社会人と成長することが大きいですね。ロボットや化物も出てきません。男女ともにシンクロできるし年齢層がグンと広がります。
次に個別にみていくと、
男性が瀧にシンクロできる要因は、瀧のキャラクターが薄いことと三葉がカワイイという点でしょうか。「父子家庭でバイトをして友達がいる」ことは分かりますが細かい描写が省かれています。また「顔・体つきに特徴がなく性格も正義感が強い」ぐらいしか描写がないです。そんな自分を投影しやすいキャラクターなので「方言を話す田舎っ子の三葉」が出たシーンで「カワイイ!」と思えた人は、もうここでほぼシンクロが完了してしまうわけです。男性は見た目に弱いですから。「カワイイ!」と思えら細かいことを考えず感情だけ追っていれば良いわけす。逆にここでシンクロできないと、その後説明不足が続くので最後まで入り込めずに、また細かいことが気になったりして終わってしまいます。
一方で女性には、三葉にシンクロできるようなシチュエーションが用意されています。「田舎が退屈」「厳しい父親がきらい」「東京に行きたい」。女性ならばある程度同意できる環境ではないでしょうか。そこに「イケメンに生まれ変わりたい」という三葉の言葉。で、「正義感がちょっとあってオシャレなカフェで働いている瀧」を出せば「スキ!」となってほぼシンクロ完了です。女性はシチュエーションに弱いですから(たぶん)
「二人が恋愛関係になる描写がない」というコメントをよく見ますが、細い描写は最初にシンクロできた人にはとってはむしろ余計なものと言っても良いかもしれません。シンクロのフェーズが終わったら、あとは美しい背景と歌を使ったPV的な見せ方で一気に物語を流してしまえば良いわけです。
さらに今回の特徴として、
・「会いたい」だけじゃなくて「助けたい」という強い感情がある
・明確なハッピーエンド
という点が加わってよりシンクロが高まることになっています。また「入れ替わり」があるので性別関係なく瀧・三葉にシンクロの余地があることもポイントかと思います。
シンクロさせて体感させることで心の深くに何かを残す。あらためて新海監督ってスゴイなぁと思いました。残念ながシンクロ出来なかった方は次の作品を待ちましょう。