電力需要をどうするか。
2000年夏のカリフォルニア大停電以後、北米西海岸では、時間当たりの電気料金に変動制が適用される地域が発生した。夜間等の需要の少ない時間帯と、冷房需要のピークとなる時間帯とでは、1KWh当たりの価格が違うという制度である。発電量不足から大停電が発生したことから、発電事業を自由化するとなり、それを実現する為に、その時点の電気の相場が作られ、この相場の価格に、送電業者の取り分を乗せた分が、一般家庭が購入する単価となる。この制度を実現する為に、消費電力計に時計機能と記録機能と現在の電気相場価格を示すインジケーターが組み込まれたSmartMeterが使用されるようになっている。クーラーの電源を入れる前に、今の電気相場がいくらなのかを確認し、コストパフォーマンスを考えるようになる事で、省電力という行動を取るように仕向けている。
しかし、これで省電力をやるのは個人の家庭だけで、商業施設の場合、営業時間内はいくら高値になっていたとしても、つけっぱなしにせざるを得ない。こうなると、営業経費における電気代のコストが読めなくなる。そこで、電気代は上限価格で商品に転嫁し、実際のコストとの差額を利益として確保するという手法へと、変わっていっている。ここで重要なのは、上限価格があるという点である。この上限価格制度は、発電業者が自由化されているアメリカにおいては、大規模需要者に自社の電気を買ってもらう為のサービスとなっていて、一般家庭には適用されない。大規模需要者にプライスキャップをつけた分、一般家庭や小口消費者向けの代金が高くなり、結果的に、一般家庭では節電しているのに高くなった電気代を請求されるとなっている。電気相場がいくら高値に上がっていったとしても、大規模需要者である商工業者は痛くも痒くも無いというのが、この制度の本質なのである。電気相場が高騰すればする分だけ、上限価格契約の価値は高くなり、需要家を囲い込む事が可能になる。
一般家庭の消費電力よりも、商工施設が使う電力の方が、大きいし波が激しい。商工施設が使う電力は昼間の冷房のピークに集中し、一般家庭の消費電力は夜に集中する。需給の波を大きくしているのは、昼間の商工施設の消費電力であり、設備投資という観点からみれば、商工施設の為に真夏の冷房需要の為だけの余剰設備を抱え込んでいるというのが、電力業界の現実なのである。
持続発電に適した原子力発電を民間発電業者が運営するのは、リスクが大きすぎるので、火力発電が主体となる。火力発電業者にとっては、昼間の営業中にのみ大量に使ってくれる商工業者の方が、設備の運営の面において、メリットがある。このために、一日中ほそぼそと電気を使う一般家庭の相手は、メリットが無い。
大口消費者に売電する方が、一口あたりの成約金額が大きくなり、歩合制セールスマンにとっては、美味しい話となる。売電量を大きくする事で、設備投資の回収期間を早め、市場での競争に勝ちやすくなる。もっとも、その先で独占企業となってしまったら、再び規制産業に逆戻りしてしまう。目先の金、出世の為に、間違ったインセンティブを設定してしまうというのは、よくある事であるが、SmartMeterは、理念は立派だけど、それをやるのが生身の人間だという点で、失敗に向かっている。
で、考えつく対策として、時計を進ませるサマータイムを主張する者が現れてきているが、電気の主たる使用先が照明用であったならば、昼間の明かるさを最大限利用しようというサマータイムは有効である。しかし、現状、電気の主たる使用先は昼間のオフィスや売り場の照明であり、工場を動かす産業用電力であり、冷房である。
冷房のピークが来る時間帯には工場を止めて、夜間を主たる生産時間とする、労働時間の逆転という手法もあるが、夜勤を主体とすると、深夜割増賃金・夜勤手当を出さなければならないので、コストが跳ね上がってしまうという欠点がある。時計を早めるサマータイムのような、電気のピークを抑制するどころか、長引かせて電力消費量をふやしてしまう施策よりも、電気を必要とする産業に対しては、深夜割増賃金・夜勤手当についての特例を作る方が、効果的と言えるかもしれない。もっとも、夜勤で帰ってきて、暑い昼間にカーテンを閉めて寝る為にクーラーをガンガンつけるとなれば、電気の需要はかえって増えてしまうであろう。
この日記では、昼間の明るさよりも朝方の涼しさと日没後の涼しさを利用する、時計を遅らせる逆サマータイムを提案している(cf.[2007.6.3])。逆サマータイムの方が、冷房電力需要に対しては効果が期待できる。