2015-10-20

ヘヴィーオブジェクトの長台詞はなぜダメなのか

ラノベ原作アニメとしてはキャバリスクの被りっぷりが話題になっているけども、鎌池和馬原作ヘヴィーオブジェクト』の酷さも相当なものであると思う。

ヘヴィーオブジェクトアニメを見た、まともな人間はこう思うはずである

喋りすぎだ、と。

この点に関しては、同原作者による禁書目録主人公上条さんの長台詞説教を参照して「鎌池だから仕方ない」という意見が少なからずあるようだ。

しかし俺は、上条さん説教は「味」として楽しむことが出来るのに対して、ヘヴィーオブジェクトの長台詞は単に冗長なものしか思えない。

本稿は、上条さんの長い説教は「アリ」なのに、ヘヴィーオブジェクトの長台詞は「ナシ」なのはなぜかということを考察するものである

ちなみに俺は禁書目録は数年前に十数巻あたりまで読んで、ヘヴィーオブジェクトアニメ3話まで観てから原作1巻の該当部分を読んだだけなので、思い出補正とかが作用している可能性は大いにある。

ヘヴィーオブジェクトアニメ3話までで最も問題になるのは、2話の「お姫様救難信号出してるのに長々喋りすぎ問題」と、3話の「敵基地に潜入してるのに大声で喋りすぎ問題である

まずは2話から見ていこう。アニメは大体こんな感じだった。

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イヴィア「だったらお前は、あのオブジェクトと戦えんのかよ! あの化物にたった一人で立ち向かって、お姫様を助けだすとかそんなのできたら最高だよ!! でも実際にどうにかできんのか! えぇ!? 人間なんか、レーダーに補足された瞬間に塵になっちまう。もう俺らに出来ることなんかねぇんだよ」

 徒歩の速度で逃げるハマー兵士カット

クウェンサー「あのお姫様は、そんな化物と戦ってくれてたんじゃないのか? 大の男がこれだけ集まっても震え上がるような、照準合わされただけでショック死しちまうような、そんな化物から俺達を守るために、たった一人で戦ってくれてたんだろうが!! 貸せ!! 貸せ!! そのライフル!!」

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この部分は原作だとこうだった。

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「だったら、テメェはあのオブジェクトと戦えんのかよ!?」

 真正から叫び返され、クウェンサーの言葉は止まった。

 ヘイヴィアの表情には、恐怖とともに屈辱があった。

綺麗事だったら誰でも言える!! あの馬鹿デカオブジェクトにたった一人で立ち向かってお姫様を助け出すとか、そんなの出来たら最高だよ!! でも、実際問題どうにかできんのか!! あんなもん、レーダーで補足された瞬間に生身の体なんか塵も残さず吹き飛ばされちまうじゃねえか!!」

 ボロボロになったヘイヴィアに両肩を掴まれ、クウェンサーは思った。

(……ちくしょう

 じわじわと胸を締め付けるのは、人間として当然あるべき感情

 どうしようもない、恐怖だった。

(怖いに決まっている。誰がなんて言ったって、どれだけ希望的な観測を並べたところで、度胸なんか湧くかよ。オブジェクトなんて化物だ。あんなもん相手に真正から立ち向かうなんて間違ってる。少しでも近くにいたくない。ヘイヴィアの言う通りだ。どんなに綺麗事を並べたところで、この気持ち悪さがそうそう簡単に消える訳ないだろ……)

 だが、クウェンサーの足は退却するためには動かなかった。

 彼はその場に立ち、真正から改めてヘイヴィアの顔を見る。

「……あのお姫様は、そんな化け物と戦ってくれていたんじゃないのか?」

「ッ」

「大の男がこれだけ集まっても震え上がるような、ちょっと照準を合わせられただけでショック死してしまうような化物から!! 俺たちを守ってくれるために、たった一人でオブジェクトに乗って戦ってくれてたんだろうが!!」

 そう。

 たとえオブジェクトなんて馬鹿げた兵器に乗っていたって、怖いに決まっている。あんな化物と立ち向かうのに、恐怖を感じない訳がない。

 あの少女は、出撃の直前にこう言っていた。

 勝てるかどうかは分からない、と。

 特に真剣調子ではなかったから、深い意味などないのだと思っていた。だが違う。もしもあれが何気ない表面にまで噴出してしまうほどの、大きな不安を抱えていたせいだったとしたら。とにかく誰にでもいいから言葉を放って、少しでも不安を払拭したいだけだったとしたら。

 クウェンサーは思う。

 自分はここでどう動くべきだ。

「……貸せ」

 クウェンサーは、間近にいるヘイヴィアに手を差し出した。

 怪訝な顔をするヘイヴィアにもう一度、

「貸せ!! そのライフル!!」

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長い。長すぎであるアニメ原作台詞助詞レベルまで削っていたということがわかる。

しかし、俺は原作を読む最中アニメほどには「喋ってないでさっさと行動しろ」と感じなかった。

それは恐らくセリフに輪をかけて地の文と括弧書きの心内文が長いためである

地の文と心内文に関しては、どれほど長くても読者は東京大学物語のごとく(その間0.1秒)などと都合よく解釈することができる。特にここで描かれるような緊迫した場面では尚更である

そのプロセスを経て文字数に対する時間感覚が混乱した状態であれば、長台詞を発語するための時間無視することができるような気がしてくるのである

この小説マジックを用いたシーンをそのまま映像にすれば「何くっちゃべってんだ」と思われるのは当然であり、これは脚本監督の落ち度である

では、作者に落ち度はないのか。

そんなことはない。以下はアニメ3話で「敵基地に侵入しているのに大声で喋りすぎ」と言われた部分の原作における描写である

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タイムオーバーだぜヒーローッ!! 三〇秒でここから出ないと袋の鼠だ!!」

「一分待て!!」

「何をゴソゴソやってんだよ! 爆破できねえのは分かったろ!?」

「あと四十五秒だ!!」

 多くの足音が近づいてくるのを、ヘイヴィアは耳にした。恐らくクウェンサーは、目の前で取り上げられそうな希望にすがろうとして、冷静な判断能力を失っている。もう殴りつけてでもここから脱出しようかと考えたその時、ようやくクウェンサーがヘイヴィアのところまで戻ってきた。

「行こう。まだ間に合うか!?」

「どっかの馬鹿道草食ってたせいでスリリングなことになってるよ!! こっちだ!!」

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アニメだとここは全力で叫んでいる。だが、少なくとも声優は悪くない。語尾に「ッ!!」が付けられていたならばそれは叫び台詞であると考えるのは当然である

ただ、この部分を読んだだけなら、ニコニココメントが言うように「※実際は小声で話しています」というフォローが辛うじて出来ないでもない気がする。それを掬い取れなかったアニメスタッフが悪いのだ、と。

しか原作はそんな幻想もぶち壊してくれる。原作では、小声の台詞とそれ以外はきちんと区別して表記されているのである

以下は原作では35ページ、アニメでは1話にあった、和服上官に呼びつけられた時の二人の会話の原作における記述である

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「(……どうするんだよヘイヴィア! だからやめようって俺は言ったんだ!! これならレーションどころか三日間雪の塊だけ頬張ってた方がまだマシだったんじゃないか!!)」

「(……うるせぇな畜生!! くそ、ほんとに一八歳かこの女。今時の洗浄に生身の兵隊必要ねえとは思ってたけどよ、あいつに限って言えば握り拳でオブジェクトと戦えるんじゃねえのか!?)」

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この台詞アニメでもきちんと囁き声で演じられている。他にアニメ3話の敵基地捕縛されたシーンでも「(……俺が飛び出したら伏せろ。そっちに除雪用のトラクターあるだろ)」などと書かれている。

要するに、原作に従えば主人公たちは敵基地で相手の足音が聞こえる位置にいても実際にお互い叫びあっていたのであり、アニメスタッフはそれを忠実に映像化しただけなのである

では、ヘヴィーオブジェクトにおける長台詞は、上条さんの「説教」と比べて何がダメだったのか。

俺はその原因を「鎌池の長台詞癖と、主人公をペアで行動させることの食い合わせの悪さ」に求めたいと思う。

上条さん基本的に一人で行動するので、その長台詞説教の相手は、自分がまさに直面している相手≒敵(ステイル、御坂アクセラレータ等)であった。

無論その場合も、「うるせえ話長えよ(グサ」となる可能性はあるのだが、その可能性はむしろ「殺される可能性と引き換えにでも相手を全力で説得しようとする上条さん馬鹿だけどカッケー!」という評価に繋がっている。

しか主人公をペアで行動させると、その長台詞説教が敵ではなく相棒に向かってしまうために「馬鹿だけどカッケー!」ではなく単に「こいつ馬鹿じゃね?」というシーンが出来上がってしまうのではなかろうか。

禁書目録と毛色を変えたかったのは分かるけど、主人公をペアで行動させたければ、鎌池の説教体質も変えなければならなかったのではないかと思う。

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