飲食店に勤務し正社員であるものの、仕事の出来はおせじにもよくなく、パートやバイトにも見下されていた
バイトリーダーに「オタクさんネコ(配膳ロボット)より生産性低くないっすかw」などと煽られても
笑うのか泣くのかわからないような笑顔で「それ以上、いけない」などと言うだけ
その顔を見て、その声を聞いたものは、誰しもいっときあるいじらしさに打たれてしまうものだが、その心持ちをいつまでも持ち続けるものははなはだ少い
ある日、オタクは長時間の勤務を終え、コンビニのイートインで半額弁当を食べていた
「あー、五つ子との6Pなんていいなー、俺も飽きるまで女体と絡みあいたいなー」
こんなふとした呟きを聞いていたのは、先程飲食店にいたギャルだった。
と声を掛けられた。見れば今時見たこともないような黒いギャルだった。まだこのスタイル生き残っていたのか。
「じゃあこれからウチのとこ来ない?これからパーティーがあるぽよ?」
突然の展開にうん、ともいいえ、とも何も言えなくなったオタク君をよそに、黒ギャルはさっさとスマホにメッセージを入れて話を進めてしまった
気がつくとコンビニの前にズンドコズンドコズンドコズンドコ重低音を鳴らしたワゴンが止まっていた
ワゴンの中には既に5人もの男女が乗っていた。みんな黒い。いや、車の中は青色LEDで輝いていて青しか見えなかったのだが、心の眼で見て黒い。
「ウェーーイwwww」助手席のパリピ兄ちゃんが挨拶してきた「オタク君明日休みーー?www今夜はオールだから予定空けといてよーwww」
兄ちゃんも含め、ワゴンの人間は全員距離の詰め方が速い。オタクは既に空気に飲まれていた
「いや、自分飲食なんで水木休みなんです。ところでこれからどこに行くんですか?」
「浜松だねーーー。3時くらいには着くんじゃねーーwwwwところで、オタク君女体に飽きたことないんだってーーーwww」
「アッハイ」
「今日のパーティーはすごいよーーーwww120人くらいいるかなーーーwwwオタク君体力持つーーー????www」
「あれー、でもさっき6Pしたいって言ってたぽよ?」
「あっ……あっ……、それ以上いけない」
「「「『それ以上いけない』ーー本当に言ったーーwwww」」」
ワゴンの連中は一層盛り上がった。その盛り上がりに反比例し、オタクの心はますます沈んでいった。
それは矛盾した心情だった。
どうもこう容易に「女体に飽きる」事が、事実となって現れては、せっかく今まで何年となく辛抱して待っていたのが、いかにも無駄な骨折のように見えてしまう。
できる事なら突然何かの故障が起こって、一旦乱交パーティーができなくなってから、またその故障がなくなって今度はそれにありつけるというような、そんな手続きに万事を運ばせたい。
こんな考えがぐるぐる回っているうちに、車は浜松に着いていた。
パーティー会場には本当に120人くらいの男女がいた。みなバスローブ姿で臨戦態勢だ。
オタク君もワゴンのメンバーにうながされ、同じようなバスローブに着替えた。もはや逃げることはできない。
だが意外にも会場はなごやかに談笑する者たちだけで、チルい音楽があたりを満たしている。
案外、ここに馴染めるのではないか。オタク君は安堵した。しかしその安堵も暫くの間までだった。
「いたわりゾーンはここまで!これからはアゲアゲタイムぽよーーー!!」
「ウェーーイwwww!!」
「ウェーーイwwww!!」
「鼠蹊部の影はま○このにおいーーー!!!」
突然バスローブを脱ぎそこら中構わずヤりまくる男女の姿にオタク君はすっかり圧倒された。
「どーしたのオタク君、ノリ悪いよーーwwww」パリピ兄ちゃんに促されても少しも勃たない。遠慮のない所を言えば、もう女体には一瞬とも交わりたくない。
「いや、結構です……もう十分……」
「は?遠慮すんなし」
そう言われてもどうにもならない。「いや、自分はお茶当番してます……」オタク君はヤカンを持って、ただ会場をうろうろするだけだった。
オタク君は乱交パーティーを途中退出した。檜皮葺の軒には、丁度、朝日がさしている。
彼は、この上乱交に参加せずにすむという安心と共に、満面の汗が次第に、鼻の先から、乾いてゆくのを感じた。
ただ何かムカつくので通報しといた。
浜名湖じゃねえかよ。なんで浜松って書いてたんだ俺。ブコメのツッコミが無駄になるの悲しいからそのまま残す