2022-02-12

ひろこちゃんのこと

子供時代の頃は断片的な記憶しかないのだけれど、ひろこちゃんと遊んだあの日の事は何故かしっかりと記憶している。

ひろこちゃんとは小3の時に同じクラスになり知り合った。昭和59年80年代の独特な空気感があった。

ひろこちゃんはストレートショートヘアでいつもどこかがぴょこんと寝癖で髪がはねていて、アレルギー皮膚炎なのか、目の周りや膝の裏がポツポツと赤かった。

掃除時間雑巾がけをするひろこちゃんの下着が見えた事があった。

茶色く変色していてびっくりした。いつもフッと尿臭がすることがあった。

ひろこちゃんはひとえの、フニャッとした顔立ちでふわふわとした性格だった、どこかいつも泣きそうな表情をしていた。性格が暗いというのではなく…どこかいつも「困ったなぁ」という感じの雰囲気だった。

ある日ひろこちゃんと放課後遊ぶことになった。ひろこちゃんが私を自宅に招いてくれるという。ただしお母さんの了解がいるらしい。お母さんの働く美容室に一緒に向かった。お母さんの姿は細部まで覚えている。

当時ダイアナブームだったせいか美容師のお母さんはダイアナ妃と同じ、キレイに両サイドをブローした洗練されたヘアスタイルをしていた。真珠の一粒ピアスベージュニット、チェックの細身のパンツスタイル

長身パンプス自分母親との違い、地味なひろこちゃんとのギャップ。お母さんはお客さんの髪をブローしている。ドライヤーの音でひろこちゃんとの会話は分からないが自宅で遊ぶ事を了解してくれたらしい。

ひろこちゃんの家は古い長屋のようなところだった。木製の引き戸ガラガラ開ける。

初めに目についたのは暗い廊下の両脇に溜まった埃だった。

ひろこちゃんの部屋に入る。砂壁の小さな部屋。ベッドに腰掛けると布団が湿気でじっとりと重かった。

ひろこちゃんは当時流行っていたファンシーしおりを一枚くれた。

「海の王 シャチ みんな楽しそう」

シャチの群れを眺める女の子のしおり。

何故か台所に移動する。途中、模様ガラス引き戸の向こうから男性のグォーグォーというイビキが聞こえる。豆電球の灯り。お父さんは夜勤で昼間は寝ているらしい。

突き当たりにお兄ちゃんの部屋、というかスペースがある。物が溢れて窓を塞いでいる。当時の少年が夢中だったプラモデルがひしめいている。

暗い、日の差さな台所食堂から引き戸が全開になっているお風呂場が丸見えになっている。風呂場が長い間使われていないことが何となくわかる。タイルが干からびていてどこから舞い込んだのかカラカラ落ち葉が洗い場に落ちていた…

マンモス小学校だったのでひろこちゃんとはそれきり、同じクラスになることはなかった。6年生で私は転校した。

子供の頃はひろこちゃんの、けして明るいわけでない境遇を何とも思わなかった。

ただ、そうなんだ、と。それだけだった。

何故かあの陰鬱とも言える家庭の環境は逆に私の心を捉えた。

からこそ細部まで記憶しているのだろう。

ひろこちゃんはどんな人生を歩んだのか?

美しいお母さんは?

あの日は何月何日だったのか、あの日私とひろこちゃんはどんな夕飯を食べたのか?

ひろこちゃんは私の事を覚えているだろうか?

80年代のあの、独特な空気感も相まって強烈なノスタルジーとなっている子供時代

タイムスリップできるなら、当時を俯瞰で見てみたい。

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