だけど、そういう呼び方はどうも馴染まない。
彼女は、僕らが小学生の頃から知り合っていたと主張していたが、その頃の僕は彼女をあくまでも集団の一部として捉えていた。
そういうわけで、僕が初めて彼女のことを個として認識したのは高校一年生の時だった。
彼女とは、ある授業がきっかけで近しい関係となった。その授業は、どこの学校にでもあるような、他の人と相談しながら進行する授業。
そうは言っても、彼女と積極的に話し合うことで親交を深めたというわけではない。まずもって、彼女はカモクなのだ。
僕と彼女のコミュニケーションは、会話というよりは問答に近かった。それでも、授業を通して彼女に一歩近づける、それだけで彼女の魅力を知るには十分だった。
後に続く彼女との関係の基礎はこの時期に形成された。一年間にわたる彼女とのささやかな交わりを経て、僕は彼女のことを意識するようになった。
しかしながら、その後1年にわたって、彼女との関係は進展しなかった。
高校2年生という期間は、他の生徒にとってもそうであるように、高校生活の中でもとりわけ忙しい時期だ。
授業のような特別な機会が与えられなければ、彼女を顧みることさえ忘れてしまうほどに。
高校3年になって再び出会った彼女は、少しばかり気難しくなっていた。それは、1年間彼女に見向きもしなかった僕に対するささやかな反抗であるようにも感じられた。
僕らは1年に渡るブランクを埋め合わせるために、2人で過ごせる時間と場所を求めていたが、快適な居場所は多くはなかった。
学校には僕らの関係を冷やかすような人間はいなかったが、それでもやはり居心地が悪かった。また、駅前の喫茶店などといった場所では、僕らのような客が長居すること自体が歓迎されていなかったし、僕としても周りの目があると純然たる彼女との時間に集中できなかった。
そういった理由から、必然的に彼女との時間は僕の部屋で過ごすことが多くなった。親も僕が彼女を引き連れて自室に籠っていることを容認していたし、ともすれば応援していたように思う。僕らの関係は親にとっても都合のいいものだった。
彼女と長い時間をかけて向き合うと、段々と彼女の心の内が見えてきた。
例えば、彼女はムキになると素っ気ない態度を取るようになった。今になって考えると、彼女のそういった部分にも理解を示すべきだったのだが、当時の僕はそれができるほど賢くはなかった。
彼女の新たな魅力にも気づかされた。それは、彼女のユウキだった。僕が見向きもしなかった間に彼女が手に入れた新たな武器。それは僕にとって、彼女の全てのように感じられたし、それはまさしくCそのものだった。高校生という多感な時期に彼女と毎日のように向き合うことができたのも、彼女のそういった部分が僕の心を引き付けて離さなかったからだ。
高校3年の冬に、僕らは一度だけ同衾したことがあった。あの時は単純な好奇心から彼女をベッドに連れ込んだのだが、どうにもやる気が出なかったのでそのまま寝てしまった。僕らにとっては、机を挟んで向き合う方が遥かに適していたのだ。そういう観点から言えば、僕らの関係はどこまでもプラトニックだった。
それからほどなくして、僕らは高校を卒業して、そして同じ大学に通うことになった。
長い春休みが明けて久しぶりに彼女に会いに行くと、彼女はすっかり変わり果てていた。
知り尽くしているとさえ思っていた彼女はすっかり豹変してしまった。
大学に入ってからは、彼女の真意を読み解くことが途端に難しくなった。
彼女のことをより深く知るにつれて、以前にも増して彼女のことが分からなくなった。
僕は、高校時代のように彼女と真摯に向き合うことができなくなってしまった。
彼女と長い人生を共に歩んでいたら、自分がどうなっていたのか知る由もない。
彼女に関する記憶も日々薄れていくのだが、今日のような記念日には彼女のことを思い出す。
受験でお世話になった化学を恋人に見立てて恋愛話をでっちあげようと考えたけど、青春というものを一切知らないので上手くいきませんでした。