昔、デパ地下のショップでアルバイトをしていた。まだ新設したての店舗だったため、主に大学生が在籍する店舗だった。
そこで私は佐々木さん(仮名)というひとつ年下の大学生とよく話すようになる。私が「一人暮らしだから家に帰ってもご飯がない、今月はかなりピンチだ、しばらく小麦粉と水で生き延びなければならない…」なんて冗談を言うと、「何か私の家から食料を持ってきましょうか?」と間に受けたり(もちろん貰っていない)、かと思えばお互い苦手な従業員の悪口をこっそりと言い合ったり。
佐々木さんとは好きなユーチューバーが同じで、その話をしたこともあった。少々下品な企画も多いグループだったため、穏やかな佐々木さんが好んでいるというのは意外だった。佐々木さんは遅番の時間に帰ると、夕飯が用意されていない日もあるだとか、また帰宅する時間は既に家族が寝ているからドライヤーが使えないため髪を乾かさずに寝ているなんて話も聞いた。
佐々木さんの家はもしかしたら複雑な家庭環境なのかも知れないと思った。
彼女は少し天然で穏やかで心優しい、けれど偶には毒づいたり、お家が少し厳しかったり、そんな普通の女の子だった。
話は変わる。私は地方の片田舎から上京した生粋の田舎者である。今でこそ進路は大学進学者が半数を占めるが、高卒・中卒での就職や10代での結婚・妊娠なんてものはザラなどこにでもある地方の寂れた小さな町の生まれだ。
そんな田舎者の私が百貨店に配属されたことが、時にプレッシャーとなった。当たり前に提示される高ランクのクレジットカード。ルイ・ヴィトンやシャネルなんてブランド品は掃いて捨てるほど目にするどころか、バーキンなんかも週に何度も見かけるような店だった。眩しいライトを見ると脳にガツンと響いて目眩がするように、百貨店は常に居心地が悪かった。
佐々木さんへそんな悩みを告げると、
と返してくれた。ああ、佐々木さんも同じように居心地が悪いんだろうなあ。と思った。
佐々木さんが不在のある日、アルバイトの大学生が「佐々木さんが本当に羨ましいです」と言った。唐突だったので何かと聞くと、
「だって○○大学(某お嬢様大学)ですよ?部活も吹奏楽部で、バイオリンをしてるんですって。お父様も会社の社長をされていて、お姉様も△△(某有名銀行)で働いてるんですよ!」
私はきっと引き攣った顔をしていたと思う。
「(増田さんは)ここのお客さん(や私)とは生きる世界が違いますからね」
お嬢様の社会勉強の教材になるのが、あなたというNPCの役割だったんだな
相手に通じてこそ、冗談と言えるんだよ 私が「一人暮らしだから家に帰ってもご飯がない、今月はかなりピンチだ、しばらく小麦粉と水で生き延びなければならない…」なんて冗談 普...
吹奏楽部に、急にコントラバスが採用されたことはあったけど バイオリンは無かったよ 無いんじゃない普通
吹奏楽部と聞いた気がしていたのですが、もしかしたら聞き間違いかもしれません。つまり私は吹奏楽部にバイオリンが存在しないということも知らない人間だということです。佐々木...