友人の勤める会社では、さすがに仕事中はないけれど、歓迎会では男女とも普通に経験人数や好きな体位の話題で盛り上がり、忘年会のビンゴではTENGAが景品になっても皆笑って楽しんでいるそうだ。そいつも社の内外で楽しく遊んでいるらしい。ちなみに業績は最近7期連続で伸びており、その業界では地域屈指の高成長企業だ。
まあ俺はそこまで品のない会社は正直ドン引きだし勤めたいとも思わない。だいたい下手に遊んだら変な病気でももらいそうだ。何で怖くないのだろう。
それはさておき。
弊社の文化は友人の会社とはほぼ真逆。そもそも職場恋愛がバレると「何しに会社へ来ているのか」と上司に詰められるし、結婚まで行ったとしても「人生の選択を手近な所で間に合わせる軽薄な奴」とみなされ男女とも居づらくなるので、400人規模の会社であるにもかかわらず数年に一組程度しか誕生しない。ちなみにこんな会社でも不倫やセクハラは年に数件露見し、当事者はほぼ依願退職、上役も減給処分となる。この点だけ取れば女性には働きやすいと思われるが、上記の社風から産休育休も「あなたの子育ては我が社の成長に関係ないですよね」ということで非常に取りづらい現状があるため、結果として結婚や出産を半ば諦めた女性ばかりが社に長く在籍し、それなりの立場に昇進していく。
学生時代の俺は、結婚は20代のうちに、それも職場結婚しか考えておらず、入社してからこれらの事実に気づき戦慄したが後の祭り。それでも同じ課に配属された後輩にそれとなく近づこうとしたら、ある日コンプライアンス室から呼び出されやんわりと釘を刺されて本当に嫌な気分になった。通報したのが彼女だったのか別の誰かだったのか、詮索する気も失せるほどダメージをくらった。
幸いすぐに撤収したためか、その後の昇進に支障が出ることもなく、同期の中では比較的早く管理職に。この時点で30代半ばに差しかかっており、いよいよ結婚して父親にならないとと焦りまくるが、会社は全く当てにならない。結局大学の同窓会の偉い人のつてで、卒業して3年ほどの女性を紹介していただき、そこから何だかんだと2年半ほどの紆余曲折を経てようやく結婚できた。そこから子どもができるまでもいろいろあり、要は俺の精子に問題があっての不妊治療。それが判明したときは人生で一番辛かった。妻に土下座して泣いた夜のことは、一生忘れない。
気力と体力、そして財力もゴリゴリ削られる長丁場の治療。何度目かの挑戦でどうにか授けていただけた。
一人っ子同士の夫婦で、本当は二人ほしかったが、それは贅沢だと思い直して、一人を大切に育てることにした。悔いはない。
ところで実は、俺は最初に書いた品のない会社の内定ももらっていた。友人と一緒にそこに入っていたら、どんな人生になっていただろうか。先日久しぶりにそいつと酒を飲み、そんなことを考えた暑い夏の夜だった。