ある日、髪の毛を梳かそうとしたら、全く櫛が通らない場所があった。その日はたぶん急いでいたし、私の普段の髪型が髪を結んででかめのヘアクリップで留める、というものだったから、仕方ないと放置したのだと思う。
洗えば大体の絡まりは解けるだろ、と思ったが、その絡まりは全くほどける気配がなかった。
ガムでもつけられたのか、というくらい強固に固まっていた。髪の割と上流部分で。
所詮ただの絡まり、と、普段の髪型から見えないのをいいことに私はそれを放置した。
髪を梳かすときは、その部分で一度櫛を止め、絡まりのしたからまた梳かしなおす、という無駄な行為をしていた。
髪を洗うときはその部分を毎回いじってはみるものの、ほどける気配は皆無だったので無視していた。
ここまで読んで大体想像つくと思うが、自分でも驚くほどズボラで恐ろしい。
きっと自分は明らかに体調が悪くても病名がつくのが怖くて病院に行かないタイプだ。
そして気付いたら半年経っていた。寒い冬を毛玉と共に乗り越えてしまった。上流にいた絡まりも少し下の方に下りてきた気がする。
そもそも美容院にもここ半年以上行っていなかった、という事実に震えた。
元々肩くらいの長さにしていたのだが、この長さが一番髪がはねるし朝めんどうだった。
結べる長さならばはねていようが絡まっていようが多少は隠せる。そんなことを思って放置した毛玉。この毛玉は私の人生そのものだ、と思った。
せっかくここまで(無駄に)伸びている髪だ。胸の下くらいまである。
病気や事故で髪の毛を失ってしまった人のために、髪の毛を提供する(ウィッグとして活用する)活動のことだ。
こんなズボラな人間の髪の毛はいらないかもしれないが、最寄り駅の近くにヘアドネーションに協賛している美容院があるらしい。やってみたい、と思った。
余談だが、以前にもだいぶ美容院をサボったあと、ショートヘアにしてもらったことがある。
美容師さんが散髪後の髪を見て「断髪式みたいだね」と言っていたし、アシスタントの女の子は失恋ですか?と遠回しに聞いてきた。ズボラなだけの自分が恥ずかしかった。
ヘアドネーションは30cm以上の長さがあれば大体可能らしい。
そして完全に乾いた髪をいくつかの毛束に分けて結び、決まった長さで切るそうだ。
すると毛玉はかなり邪魔になる。梳かすのにいちいち引っ掛かるうえ、櫛だけでほどくのは不可能だ。
ぐだぐだ書いたが、とりあえずこんな流れで毛玉を除去した。
まず目の粗い櫛で髪全体を梳かす。そして髪を濡らし、姉の超ダメージ補修ヘアトリートメントを毛玉付近に塗りまくり、10分ほど放置。
そして再び目の粗い櫛で毛玉部分をとかそうとするも、ほどけなかった。
髪の先端に近い方から少しずつ少しずつとかしていく。話は元から毛は先からってね。ほどけなかった。
まだ慌てる時間じゃない。どうしてもほどけない箇所がある。もはや髪の毛なのか。そういった皮膚じゃないのか。
仕方ない、と毛の根本を掴みながら全力で毛玉と戦った。力こそパワーだ。ブチブチと音がして髪が抜ける。そして櫛が折れた。
所詮は100均の櫛よ。我の強靭な毛玉の相手ではない。敵ながらあっぱれだ。
あらかじめ用意しておいたもうひとつの櫛を手に持ち、再び全力で引っ張る。
ブチブチブチブチ、と皮膚ごと持っていかれそうな痛みの後に、毛玉が手元にやって来た。
直径5cmくらいあったと思う。マックロクロスケのハリウッドバージョン(想像)みたいだった。もしくは小さめの祟り神。
なぜか縮れていた。私の後頭部で何が起きていたのだろう。
このことを書いたのは、書けば後に引けなくなって(心理的に)、ヘアドネーションもとい美容院へ行くだろうという思惑があるからだ。
続報を待て。