次に俺は片方だけ足を上げ、クルリと回ってみせる。
「な、なんて機敏な!? まるで自分の足のように動いているぞ!」
『鍛錬は心を包み込む』
アノニマンの教訓その6の通りだった。
「弟くんに、あんな特技があっただなんて……」
「いや、練習したんだろうさ……俺たちの知らないところで」
そうして一通り動きを見せていく頃には、俺はすっかり調子を取り戻していた。
今なら大技もできるという確信を持てるほどに。
「よし、次だ!」
俺は目の前にある階段を勢いよく駆け上る。
その勢いを殺さず、次は駆け降りてみせる。
「マジかよ!? 技術だけじゃなくて、勇気がなきゃあんなの出来ないぞ」
「これで最後だ!」
最後の一段、俺は大きく跳んだ。
そしてバランスを崩さず、綺麗に着地する。
当然、ここまでの間、俺の足はカンポックリから一度も離れていない。
完全に一体化していた。
「うおおお!」
「すごいな! いつの間にあんなことが出来るようになったんだ」
みんなが俺のもとに駆け寄ってくる。
カンポックリで感心してくれるか不安だったけど、杞憂だったようだ。
アノニマンの教訓その10、『スゴイことに貴賎はない』ってことなんだろう。
間違いなく俺はここにいる。
「それが今のマスダを形作ったルーツってわけね」
「あれ? でも今はカンポックリやってなくない?」
「そりゃあ学童に行かなくなってからは、わざわざそれをやる理由がなくなったからな。でも、あの時の経験が無駄になったわけじゃない」
俺はそれからも、様々な場所で自分を表現することが自然に出来るようになった。
何かに熱中して、上達する喜びも知ったんだ。
「へえ~、イイ話だねえ」
「いや、それそんなにイイ話じゃねえって」
同じ部屋にいた兄貴が水指すことを言ってくる。
兄貴はこの話を何度も聞かされていたので、ウンザリしていたんだろう。
「野暮ったいこと言うなよ兄貴」
「え、どういうこと?」
兄貴の言うとおり、アノニマンというのは昔の特撮ヒーローが基となっている。
その映像を見たことがあるけど、見た目、言動といい、確かにそっくりだった。
彼はそれに強く影響されていたってことなんだろう。
それは、しばらく後になって分かったことだけど、別にショックじゃなかった。
「そいつはこのアノニマンを真似ていただけ。ただのゴッコ遊びだったんだよ」
「そんなの関係ないね。俺と手を握ったのは“あのアノニマン”なんだ」
アノニマンの教訓その11、『私が尊敬されるような人間かどうかは関係ない、キミが私を尊敬できるかどうかが大事』。
それへの答えは決して変わらない。
「だったら、せめてその話は周りにはするなよ。お前はともかく、そいつにとっては黒歴史っつう可能性もあるんだからな」
「それっぽい理由を盾にしてケチつけんなよ。俺とアノニマンのことについて何も知らなかったくせに」
「……まあ正体なんて誰にも分からないだろうし、大丈夫……か」
どこかで惨めに 泣く人あれば
横槍気味に やってきて
啓発じみた 教訓で
好き嫌いは 分かれるけれど
自愛の心は 本物だ
アノニマンは 誰でしょう
アノニマンは 誰でしょう
完結……?
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