そして翌日。
まずアノニマンは、俺にその“道”がどういったものかを教えてくれた。
「アノニマンの教訓その1、“居場所とは社会の縮図”である! その中で自分の居場所を見つけるためには、とどのつまり社会の一員になること。仲間になればいい!」
「どうすれば仲間になれるの?」
「少しは自分で考えろ!……と言いたいところだが、この段階で勿体つけても時間の無駄なので答えてあげよう。せっかちな私に感謝したまえ」
「……ありがとう」
「いいぞ、その調子だ。アノニマンの教訓その2、“感謝とは言動で示したとき、初めて感謝となる”のだ」
「その教訓、いま考えてない?」
アノニマンは偉そうで、強引だった。
だけど、あの頃の俺にとってはそれ位が丁度良かったのかもしれない。
「何度も言おう、私はせっかちだ。だから理屈はクドくとも、答えはシンプルにいく。キミは“一目置かれる”存在になれ!」
「それって……どういうこと?」
「例えばキミと同じ学童のウサク。彼はある日、学校の朝礼にて校長のカツラを剥ぎ取った」
その場には俺もいたのでよく覚えている。
確かにあれは衝撃だった。
「ウサクは後にこう語った。『ありのままの姿を隠すことは、否定することに繋がる。学園の長がそんなことでは教育以上よくない』……と。この主張の是非はともかく、それで彼が一目置かれる存在になったことは間違いない」
「キミは応用力がなさすぎるな。今のはあくまで一例。他人のやり方を形だけ真似ても、ただ悪目立ちするだけだ」
「じゃあ、何のために今の例えを出したの?」
「ほんとキミは疑問系ばかりだな……あの話から学ぶべきこと、それは“個性を認めてもらう”ってことだ」
個性……。
アノニマンの言うことは理解できたけど、どうすればいいかはまだ分からない。
だって自分の個性なんて、ちゃんと考えたことがなかったからだ。
「俺の……」
「みなまで言うな。自分の個性が何なのか分からないのだろう。だが、それは大したことじゃない」
だけどアノニマンはそれを察した上で、その不安を一蹴してくれた。
「アノニマンの教訓その3、“個性とは自称するものではない”。『自分はこういう人間だから』と吹聴する人間はロクでもないからな」
アノニマンも似たようなことやってるような気がしたけど、そこはツッコまないようにした。
「だったら、どうするの? 自分の個性が分からないのに、認めてもらうことって出来るの?」
「先ほどしたウサクの話を思い出してみろ」
確かにそうだ。
「他の人のことも思い浮かべてみろ。そしたら自ずと見えてくるはず」
他の人……。
その時に俺が真っ先に思い出したのは、今日の兄貴のことだった。
「俺の兄貴なんだけど……コマ回しをやってた。難しそうな技が出来て、周りも驚いていた。本人も得意気で……」
「……そうか。どうやら“道”が見えてきたようだな」
「何か頑張れることを見つける……ってのはどう?」
「よかろう! では、次のステップだ!」
俺が自分で答えることができて、たぶん喜んでいたんだと思う。
話がそこまで進展したってわけでもないし、ましてや俺の問題なのに。
それでも自分のことのように喜んでいる様子を見て、俺はこの人に頼って良かったと思った。
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