2018-09-19

[] #62-4「アノニマン」

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そして翌日。

まずアノニマンは、俺にその“道”がどういったものかを教えてくれた。

アノニマンの教訓その1、“居場所とは社会の縮図”である! その中で自分の居場所を見つけるためには、とどのつまり社会の一員になること。仲間になればいい!」

「どうすれば仲間になれるの?」

「少しは自分で考えろ!……と言いたいところだが、この段階で勿体つけても時間無駄なので答えてあげよう。せっかちな私に感謝したまえ」

「……ありがとう

「いいぞ、その調子だ。アノニマンの教訓その2、“感謝とは言動で示したとき、初めて感謝となる”のだ」

「その教訓、いま考えてない?」

アノニマンは偉そうで、強引だった。

だけど、あの頃の俺にとってはそれ位が丁度良かったのかもしれない。

彼の講釈を俺はいつも真面目に聞いていた。

「何度も言おう、私はせっかちだ。だから理屈はクドくとも、答えはシンプルにいく。キミは“一目置かれる”存在になれ!」

「それって……どういうこと?」

「例えばキミと同じ学童のウサク。彼はある日、学校の朝礼にて校長カツラを剥ぎ取った」

その場には俺もいたのでよく覚えている。

かにあれは衝撃だった。

「ウサクは後にこう語った。『ありのままの姿を隠すことは、否定することに繋がる。学園の長がそんなことでは教育以上よくない』……と。この主張の是非はともかく、それで彼が一目置かれる存在になったことは間違いない」

「ということは、俺も校長カツラを取ればいいってこと?」

「キミは応用力がなさすぎるな。今のはあくまで一例。他人のやり方を形だけ真似ても、ただ悪目立ちするだけだ」

「じゃあ、何のために今の例えを出したの?」

「ほんとキミは疑問系ばかりだな……あの話から学ぶべきこと、それは“個性を認めてもらう”ってことだ」

個性……。

アノニマンの言うことは理解できたけど、どうすればいいかはまだ分からない。

だって自分個性なんて、ちゃんと考えたことがなかったからだ。

「俺の……」

「みなまで言うな。自分個性が何なのか分からないのだろう。だが、それは大したことじゃない」

だけどアノニマンはそれを察した上で、その不安を一蹴してくれた。

アノニマンの教訓その3、“個性とは自称するものではない”。『自分はこういう人間から』と吹聴する人間はロクでもないからな」

アノニマンも似たようなことやってるような気がしたけど、そこはツッコまないようにした。

「だったら、どうするの? 自分個性が分からないのに、認めてもらうことって出来るの?」

「先ほどしたウサクの話を思い出してみろ」

かにそうだ。

彼は個性自称たから認められたわけじゃない。

「他の人のことも思い浮かべてみろ。そしたら自ずと見えてくるはず」

他の人……。

その時に俺が真っ先に思い出したのは、今日兄貴のことだった。

「俺の兄貴なんだけど…コマ回しをやってた。難しそうな技が出来て、周りも驚いていた。本人も得意気で……」

「……そうか。どうやら“道”が見えてきたようだな」

「何か頑張れることを見つける……ってのはどう?」

俺がそう言うと、アノニマンは俺の背中を力強く叩いた。

「よかろう! では、次のステップだ!」

アノニマンの仮面しから、調子の良い声が聞こえる。

俺が自分で答えることができて、たぶん喜んでいたんだと思う。

話がそこまで進展したってわけでもないし、ましてや俺の問題なのに。

それでも自分のことのように喜んでいる様子を見て、俺はこの人に頼って良かったと思った。

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