「少年よ、なぜこんなところで一人、泣いているのだ。助けは必要か?」
「な、泣いてないよ」
「ふぅん、強がる程度の気概はあるか。結構、血行、雨天決行!」
大げさで意味不明な言い回しで、初対面の子供相手にズカズカと土足で入ってくるイラつく奴だ。
しかも見た目もカッコよくない。
顔に取り付けられた仮面は明らかに紙で出来ていて、声をくぐもらせている。
見た目は手作り感に溢れ安っぽく、飾ってはいるけど飾りきれていない感じ。
体格は俺より大きいけれど、一般的な大人ほどではなかったと思う。
ただ、そのゴッコ遊びの延長みたいな風貌が、俺の警戒心をゆるめたのかもしれない。
俺は人見知りのはずなのに、すぐさま彼と話すことができた。
「よくここが分かったね。今まで誰にも気づかれなかったのに」
「私の超能力が一つ、“アノニマ・センス”だ。キミのように孤独でみじめな人間が近くにいると血が騒ぐのだよ」
「言い方」
いま思えば、俺がああやって話すことができたのも、アノニマンの超能力の一つだったんだろう。
俺は少ないボキャブラリーで、アノニマンに精一杯の思いを吐き出した。
「ふぅむ、キミの悩みは一見すると複雑だ。しかし、その実、答えはシンプル」
アノニマンは最初から答えを用意していたかのように、俺に言い放った。
「キミはその場所を居心地が悪いと思っている。そこに自分の居場所がないのだから当然だが」
もちろん、俺の抱えている問題はそれだけじゃない。
だけど今の状況だけでいえば、解決すべきはそこだったのは確かだ。
「解決方法は主に二つ。一つ目は居場所を“自分で作る”こと。だが、これはキミにはオススメできない」
「なんで?」
「キミの場合、そうして作った居場所は“ココ”みたいになるだろう。一人で閉じこもるためだけの、孤独な避難場所だ。それは最後の砦としてとっておくべきものではあるが、勝つためには進軍しなければならない」
会って間もないのに、既に色々と見透かされているようだった。
「慣れるって……それは分かるけど、どうやればいいか分からないよ」
「なあに、そのために私がいるのだ」
「道は示そう、そこを通るためにどうするかはキミ次第だ」
俺はその手を恐る恐る、弱い力で握った。
「よろしい! 今、キミは自分の意志で、私の手を握ったのだ。その気持ちを忘れるなかれ!」
するとアノニマンは俺の手を強く握り返した。
そう言ってアノニマンはマントを翻し、声だけを置き去りにしてどこかへ消えてしまった。
「忘れるな、アノニマンはキミが必要としなくても駆けつける!」
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完結……?