2018-09-18

[] #62-3「アノニマン」

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少年よ、なぜこんなところで一人、泣いているのだ。助けは必要か?」

「な、泣いてないよ」

「ふぅん、強がる程度の気概はあるか。結構、血行、雨天決行!」

アノニマンの第一印象は、お世辞にも良いとは言えなかった。

大げさで意味不明言い回しで、初対面の子相手にズカズカと土足で入ってくるイラつく奴だ。

しかも見た目もカッコよくない。

身体全体を覆うマントは薄い布切れ。

顔に取り付けられた仮面は明らかに紙で出来ていて、声をくぐもらせている。

見た目は手作り感に溢れ安っぽく、飾ってはいるけど飾りきれていない感じ。

体格は俺より大きいけれど、一般的大人ほどではなかったと思う。

なんというか、子供ヒーローごっこみたいだった。

ただ、そのゴッコ遊びの延長みたいな風貌が、俺の警戒心をゆるめたのかもしれない。

俺は人見知りのはずなのに、すぐさま彼と話すことができた。

「よくここが分かったね。今まで誰にも気づかれなかったのに」

「私の超能力が一つ、“アノニマセンス”だ。キミのように孤独でみじめな人間が近くにいると血が騒ぐのだよ」

「言い方」


いま思えば、俺がああやって話すことができたのも、アノニマンの超能力の一つだったんだろう。

俺は少ないボキャブラリーで、アノニマンに精一杯の思いを吐き出した。

「ふぅむ、キミの悩みは一見すると複雑だ。しかし、その実、答えはシンプル

アノニマンは最初から答えを用意していたかのように、俺に言い放った。

「キミはその場所を居心地が悪いと思っている。そこに自分の居場所がないのだから当然だが」

もちろん、俺の抱えている問題はそれだけじゃない。

だけど今の状況だけでいえば、解決すべきはそこだったのは確かだ。

解決方法は主に二つ。一つ目は居場所を“自分で作る”こと。だが、これはキミにはオススメできない」

「なんで?」

「キミの場合、そうして作った居場所は“ココ”みたいになるだろう。一人で閉じこもるためだけの、孤独避難場所だ。それは最後の砦としてとっておくべきものではあるが、勝つためには進軍しなければならない」

これもアノニマンの超能力の一つなのだろうか。

会って間もないのに、既に色々と見透かされているようだった。

「じゃあ、もう一つの方法は?」

「“順応する”、つまりその場所に慣れることだ」

「慣れるって……それは分かるけど、どうやればいいかからないよ」

「なあに、そのために私がいるのだ」

そう言ってアノニマンは、俺に向けて手を差し出した。

「道は示そう、そこを通るためにどうするかはキミ次第だ」

俺はその手を恐る恐る、弱い力で握った。

「よろしい! 今、キミは自分意志で、私の手を握ったのだ。その気持ちを忘れるなかれ!」

するとアノニマンは俺の手を強く握り返した。

「さて、今日はこれにて御免。また明日ここで会おう!」

そう言ってアノニマンはマントを翻し、声だけを置き去りにしてどこかへ消えてしまった。

「忘れるな、アノニマンはキミが必要としなくても駆けつける!」

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