2018-09-21

[] #62-6「アノニマン」

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うろたえた俺は、あわてて彼を引き止めようとした。

「そ、そうだ、明日も見に来てよ。アノニマンがいないと不安で失敗しちゃうかも……」

だけど、そういった無意義な行為は彼が最も嫌うことだ。

アノニマンの教訓その15! 『頼れるときは頼れ、ただし甘えるな』!」

いつも芝居がかっていた声の調子が崩れるほどに、アノニマンは俺を怒鳴りつけた。

「キミはいつまでも、そうやって誰かに甘えて生きるつもりか? 母親がいなければ父親父親がいなければ兄か? 次は私か? そうしないと君は何もやらないのか? できないのか!?

だけど、その声に怒りのような感情はない。

『私はキミの親ではない』と言いながら、まるで親が子供に言って聞かせるように俺を叱りつけたんだ。

「キミには自分で考える頭と、自分で動かせる身体がある。そうしてキミは“ソレ”を選んだ。ならば私がいようがいまいが、やるべきことは変わらないはずだ」

「……うん、今まで、ありがとう

そう返すしかなかった。

もっと駄々をこねて引き止めることもできたかもしれない。

だけど、彼はいずれにしろ去っていくだろう。

なにより、そこまでして彼を困らせたくなかった。

さらばだ、少年よ。他にも、どこかで泣いている子供がきっといる。助けを求めていなくても助けなければ!」

アノニマンは、いつものようにマントを翻しつつ俺の前から去っていった。

そう、アノニマンは助けを求めていなくても、助ける必要があると感じれば手を差し伸べる。

逆に言えば、助けを求めていても、その必要はないと思ったら助けないんだ。

アノニマンがそう判断したのなら、俺はそれに応えるないといけない。


…………

そうして翌日。

俺がみんなの前で“成果”を見せる時だ。

「とりあえず広場に来いって言われたから来たけど、何が始まるんだ」

「知らねーよ。弟が『見せたいものがある』っていうからさ」

みんなが俺を見ていた。

今まで味わったことがないようなプレッシャーが押し寄せ、体が上手く動かない。

なにせ自分意志で人を集め、改まってこんなことをするのは始めてだったからだ。

どういう結果になるにしろ、その功罪は全て俺に降りかかる。

「おい、早くしろよ」

兄貴が急かしてくる。

みんなを呼んでくるよう頼んだから集めてくれたのに、俺は何もしないのだから当たり前だ。

何もしない人間を見ていられるほど、みんなは辛抱強くない。

別の日にしよう、という考えが何度もよぎった。

その度に俺はそれを振りほどく。

この日やらなかったら、一生できない気がしたからだ。

アノニマンの教訓その7、『やり続けた者の挫折こそ、挫折と呼べる』。

俺はまだ挫折の「ざ」の字すら見ていないし、やめる理由がない。

意を決し、俺はカバンの中から“ソレ”を取り出した。

「あれは……カンポックリ!」

「なにそれ?」

「えーと、つまり缶に紐を通して作ったゲタみたいなモンだよ」

「ふーん、それで何をするつもりなんだ、あいつ……」

俺は缶に足を乗せると、手で紐を真上に思いっきり引っ張る。

そうすると、自分気持ちも引き締まったような気がした。

「よし、いくぞ!」

俺はカンポックリで走り出した。

「うおっ、はやっ!?

それはまさに“走っている”と表現していいほどの速さだった。

「すごいな、しかも桃缶とかじゃなく、小さい缶コーヒーであそこまで……」

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