「さて、次のステップはその“頑張れること”を何にするかだ。もちろん好きなものの方が良い。アノニマンの教訓ではないが、『好きこそ物の上手なれ』という名セリフがあるからな」
「それは施設内にないだろう。あそこにある中で、可能なものを選ぶがよい」
そうは言っても、今まで手をつけてこなかったものだ。
興味が湧かないし、やってどうこうできるイメージも湧かなかった。
そこでアノニマンはまたも道を示してくれた。
「ならば、まずは施設内にある遊具を一通り嗜むのだ。そして、その中から“得意なこと”を見つけだせ」
「“得意なこと”……?」
「アノニマンの教訓その4、『得意と努力は家族ではない。しかし隣人ではある』。得意なものほど熱中しやすく、頑張ることは苦になりにくいのだ」
こうして俺は無作為に、色んな遊びに手を出してみた。
最初は気乗りしなかったけど、どれも遊んでみると意外な魅力を感じるものが多い。
アノニマンがいないときも、いつも何かで遊ぶことが増えたんだ。
そんな俺の様子を見て、学童の皆もよく話しかけてくるようになった。
「うん……でも大皿にすら乗せられない」
「ああ、それは持ち方と構えが……」
徐々にだけど、俺も自分の意見を言えるようになり、マトモなコミュニケーションをとれるようになっていく。
その時は気づいてなかったけど、俺は既に自分なりの居場所を手に入れつつあった。
得意なことも頑張れることもまだ分からなかったけど、多分それも考えた上でアノニマンは俺に色々やらせたんだと思う。
そうして一週間後。
俺はその日もアノニマンに成果を報告していた。
「……というわけで、どれもそこそこ出来るようになったけど、やっぱり俺は“コレ”にしようと思う」
「なるほど。“ソレ”は学童内でちゃんとやっている子もいないからな。個性を見せるという点でも良いチョイスだ」
アノニマンも最初の頃のような説教じみたことを言うことが減って、その代わりに俺を褒めてくれることが増えた。
「それに“コレ”で遊んでいる姿は、皆にはまだ見せたことがないんだ。今日はしっかり仕上げて、明日ビックリさせてやる」
俺はその時、かなり充実感があった。
「ふむ……では、もう私の助けも必要なさそうだな」
いや、忘れているフリをして、考えないようにしていたのかも。
アノニマンが何のために道を示したのかを。
「そんな……」
「『道は示す』と言った。そして『通るかはキミ次第』とも言ったはずだ。通れる道が見えているのに、移動まで私にやらせるつもりか?」
分かってはいたんだ。
俺がその道を通れるようになった時点で、アノニマンの仕事は終わる。
それがこの時だった。
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