翌日、俺はカン先輩に誘われて、移動販売車でアイスを売っていた。
売り時だからだと、すぐに行動に移せるカン先輩のフットワークの軽さには感心する。
それにしても、この移動販売車。
よく見てみると、アイスを冷やし続けるためのバッテリーが繋がれている。
予備らしきものも近くにあった。
車を動かすのだって電気がいる筈だが、どこからこれだけの量を……。
話題が尽きかけていたこともあり、俺はカン先輩にその疑問をぶつけた。
「よくバッテリーがこれだけありましたね」
「んなもん、別のところから貰ってこればええねん」
ああ、なるほど。
確かに他の市ならバッテリーとかも売ってそうだし、充電も可能だろう。
「でも、そこまでの移動にかかる費用とか考えると、割に合わなくないですか?」
「ああ、そこんとこは大丈夫。ほぼタダやから。特定の施設とか、コンセント使えるところあるやろ? そこから貰ってん」
思いの外ヤバい答えが返ってきた。
「カン先輩、それはさすがに盗みになるんじゃあ……」
「じゃあ、ダメじゃないですか」
「えーと……つまりな、道義的にはダメやけど、必要やからやらざるを得ないってことや」
「ワイ目線から見たらそうやけど、もっと視野を広げーや。こうやってアイスを売れば、それを食べる人たちは暑さを凌げるやろ。ワイのおかげで、何人かは熱中症を防げたかもしれへん」
物は言いようって表現があるが、カン先輩はそれを良く乱用する。
「な、なんやねん。マスダだって学校のコンセント使ってケータイの充電とかようするやろ。それと一緒や」
「そんなことしてませんけど。というか、その例えだとやっぱりダメって結論になるんですが……」
だが本人も自分の言ってることが、その場しのぎの誤魔化しだという自覚がある。
といっても、その内の数%は俺たちが食ってしまったと思うが。
「ただいまー……うわっ」
家に帰ると、ムワっとした熱気が襲ってきた。
「ああ、兄貴……今日は暑いって言ってたからな。部屋の中もすごいよな……」
それにつけても、家の中が暑すぎる。
なぜだろう、昨日とは明らかに違う。
「おかえりなさい……」
母の声が返ってくるが、その声は気だるい。
「サイボーグの母さんでも、あの調子だよ。今日はほんとすごい暑さだ……」
……いや、妙だぞ。
母の身体は、かなりの高温でも耐えられるように出来ている。
不振に思った俺は、母に近づく。
「あつっ……」
近づいただけで分かるほど、熱を帯びているのが感じ取れた。
俺はおもむろに、母の額に手を当ててみる。
「あっっっっっっつ!」
にも関わらず、母の反応は鈍い。
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