2018-07-19

[] #59-1「誰がためクーラー

資源が有限だってことを、俺たちは時に忘れる。

だけど有限かどうか気にするのは、それが必要ものであることの証明だ。

この夏、俺たちの世界ではそれを意識せざるを得なかった。

厳密に言うなら、ここでいう“世界”とは「俺たちの住んでいる市」のことで、“資源”とは「電気」のことだが。

俺たちにとっては誇張表現ではない。


この町の市長は思いつきでロクでもない政策を度々行うのだが、そのせいでいつも予算はカツカツだった。

そこで議題に挙がったのが電気

この市に使われていない発電所があったことに、市長は気づいた。

から、それを再稼動して市の電気を全て賄おうと考えたんだ。

あわよくば他に売り込もうという目論見もあったらしい。

しかし、これは皮算用もいいところだった。

なにせ、その発電所は風力。

かなり昔に、原子力に代わるクリーン発電所というアピールのため、突発的に作られたものだった。

この町の風土も考えずに出来たそれは生きた化石だ。

……いや、この例えだと化石に失礼か。

化石だって燃料になって、発電に貢献できるからな。


そんなわけで、俺たちの町では電気がまるで足りていなかった。

「我が市は資源エネルギーを大切に扱う市としてアピールするべきです。『地球に優しく!』……これをテーマしましょう」

そこで市長苦肉の策として出したのが、「クールビズ月間」という名の強制的電気節約案だった。

「ですが、今は夏真っ盛りですよ! クーラーなどの冷房のために、電気は大量に必要です」

当然、周りは反対したが、市長は無理くり理由をつけて強攻するしかなかった。

「いや、クーラーがなかった時代もあるのです。つまりクーラー必要な今の環境こそが間違っている!」

大した理屈じゃない。

今の環境じゃあクーラー実質的必要なのは自明なんだから、もしも解決したいなら環境のものを変えてからだ。

現状をただ非難したり、今あるものを取っ払っただけでは何も解決しない。

しろ悪化することだってある。

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