あわててドッペルに連絡を入れる。
「もしもし」
「ドッペル、いまどこにいる?」
「家にいるよ。この時期になると親がなぜか外出させてくれなくて」
「よし、今日はそのまま家にいて、誰が来ても迎え入れるんじゃないぞ」
「サンタも?」
「サンタは訪ねるとき、わざわざ住人に尋ねたりしないんだよ。合法侵入なんだから」
「それもそっか」
ひとまず、これで時間は稼げる。
ツクヒを見つけだし、サンタの暴露話を思いとどまらせなければならない。
だが、そんなことができるのだろうか。
俺は少し冷静になって、“本当の意味で根本的な問題”について考えた。
『いずれドッペルも分かることだ、マスダ! 止められると思うなよ』
実際問題、ツクヒを止めたところで、ドッペルもいつかはサンタの存在に気づく日が来る。
その日がいつなら良いのか、誰も正確な答えは知らない。
仮に答えがあったとして、そこまでして隠す意義があるのか。
そもそも、サンタなんて虚構の存在を作り上げて、それで俺たち子供を騙して何の意味がある。
ただツクヒを無粋だからといって止めるのは、本当に正しいことなのか。
俺はその答えを出せない。
それでも心のどこかで、ツクヒを止めなければならないという思いが歩みを止めさせないでいた。
俺自身が迷っているのに、仲間たちを呼んで協力を仰ぐのは憚られた。
アテもなく、俺は一人でツクヒの捜索を始める。
別に悪いことをやっているわけじゃないけど、あいつがやってると何だかすごく胡散臭いな。
「おや、マスダくん。クリスマスだというのに浮かない顔ですね。プレゼントのアテが外れたとか?」
「そうじゃないよ。あんたこそ他宗教の文化に参加するなんて大丈夫なのか?」
「生活教は、他の宗教に寛容です。それが人々の生活を彩るものであれば、文化や風習においても同様なのです。だからクリスマスを祝っても何ら問題ありません」
「随分とフットワークが軽いんだな」
「まあここだけの話。新興宗教は歴史のある信仰や、科学などの体系と真っ向から戦うと排除される運命しかないので。柔軟剤入り洗剤のように、しなやかでクリーンであることに努めないとやっていけません」
好き勝手やっているように見えて、宗教って割と不自由なんだな。
俺は、それがまるでサンタみたいだと思った。
「俺たちのクリスマスには、主とかは出てこないけどさ。なんというか、サンタって信仰そのものだよな」
思わず吐露してしまったが、我ながら教祖相手に何を言っているんだか。
「ふーむ……確かに。サンタは、信じることの尊さを学ぶ上では大きな存在ですね」
だが教祖は意外にも真面目に答えた。
「時に虚構というものは、人々が何かを学ぶことに大きく貢献しています。基本的に嘘は良くないことですが、それでもサンタという存在を守ろうとするのは、そこに何か大事なものがあるからでは?」
「プレゼントとか?」
「まあ……それもあるでしょうけれども。私の立場では、そういったものに明確な答えを出すわけにはいかないので……」
たぶん、俺がツクヒを止めようとしているのも、そのためなんだ。
答えはまだ出ないけど、道筋は見えたような気がした。
「よし、クリスマスが過ぎるまでに何とかしないと」
ん、どういうことだ?
「クリスマスの時期は宗教によって異なるので、別にテキトーにやっても大丈夫です」
今年もクリスマスが近づいてきた。 みんな思い思いの過ごし方を目指して大忙しだ。 父はアニメのクリスマススペシャル制作で。 母は市民団体のクリスマス企画で。 兄はバイト。 ...
≪ 前 気持ちを切り替え、俺は改めてツクヒの捜索に乗り出す。 ツクヒの行方は見当がつかない。 だが、居場所を見つけるアテはあった。 魔法少女だ。 この町には魔法少女がいて、...
≪ 前 部屋に入ると、そこには魔法少女がいた。 ミニスカートのサンタという色んな意味で寒そうなコスプレをして。 イベントのために、出番を待っている様子だった。 「ちょっと...
≪ 前 ところ変わって兄貴のほうはバイトを終え、仕事仲間と共に帰路の途中だった。 「やれやれ、サンタのコスプレなんてガラにもないことやるもんじゃないな」 「確かに。精神的...
≪ 前 俺たちは捕まえたツクヒを囲み、この後どうするべきか考えあぐねていた。 「ふん、サンタなんてタダの不審人物だ。そんなのを糾弾して何が悪い」 「不審人物だっていうが、...
≪ 前 兄貴としてはドッペルが寝ている間に、部屋にプレゼントだけ置いて帰るつもりだったのだろう。 だが、時間はまだ20時。 子供が寝るにはまだちょっと早い。 部屋に入ると照明...