今年もクリスマスが近づいてきた。
みんな思い思いの過ごし方を目指して大忙しだ。
兄はバイト。
そして俺はというと町じゅうを練り歩き、奉仕活動に励んでいた。
もちろんサンタなんてアテにするような歳じゃないけれど、“現実的なサンタ”の方はアテにしているからな。
そうして人通りの多そうな場所を重点的に散策していると、バイトをしている兄貴を見かけた。
サンタの格好をしていてパッ見だと分かりにくいが。
「お前、サンタじゃないだろ!」
そして子供のほうはというと、俺のクラスメートのツクヒだった。
ああいうタイプのやつは、着ぐるみの頭を取ったりファスナーを下ろすことに快感を覚えるからな。
気持ちは分からなくもないが、ああいう無粋なことを堂々とやっている姿を見ると、クラスメートのこっちまで恥ずかしくなってくる。
「そうだよ。俺は“サンタのお手伝いさん”。書き入れ時には俺みたいなお手伝いさんが出動するんだ。サンタだけでクリスマスの仕事を全部やるなんて物理的に不可能なんだから当たり前だろ。子供には難しい話かもしれないが」
「わ、分かってるよ、そんなこと!」
だが兄貴の方が上手だった。
サンタの存在を全否定しないようにしつつ、あっという間にツクヒを撃退してしまった。
「ガキはこれだからチョロい。それっぽい理屈を並べたら反論できなくなるし、子供であることを指摘したらそっちに過剰反応する」
何か手伝えることはないかと思ったが、あの調子なら兄貴は大丈夫そうだ。
というか、むしろ邪魔に思われそうだし。
それに、どちらかというと気になるのはツクヒのほうだ。
クリスマスも近いというのに、妙に不機嫌だった。
兄貴に言い負かされたツクヒは、目的もなく公園でクダを巻いていた。
俺はその様子を木陰から観察する。
「ああ、気に入らない、気に入らない! これもきっと容姿のせいだ!」
ツクヒはクリスマスが嫌いだった。
考えられる可能性は、ツクヒは強いコンプレックスをたくさん持っている人間だということだろう。
あいつはそれでイジめられているわけでも、そのせいで何か損をした人間というわけでもない。
だが要領の悪いあいつにとって、そのコンプレックスは分かりやすい言い訳だった。
その言い訳によってコンプレックスは強まり、より自分のことが嫌いになる。
そして、周りを更に嫌いになることで自我を保っていた。
そんな全てが恨めしいツクヒにとって、皆が楽しそうにしているクリスマスも例外ではなかったのだろう。
俺は見てられなくなって、ツクヒに話しかけた。
「おい、ツクヒ。クリスマスの何が気に入らないんだ?」
ツクヒは同じところをグルグル回りながら、クリスマスへの恨み言を呼吸のように吐き出していく。
「なんか寒いのが嫌だ! なんか温かみがない。なんか国の景観に合っていないし……」
その様は、まるで画力の高い漫画家の絵に、難癖をつけるオタクみたいだ。
ツクヒはふと歩みを止める。
何かを思いついたようだった。
「みんなにクリスマスなんてクソだって気持ちを共有してもらおう。そのためにはサンタなんて虚構の存在が邪魔だ」
こぼれる言葉と笑みから、ロクでもない企みであることは傍から見れば明らかであった。
「そういえばクラスメートのドッペル。あいつ、まだサンタを信じてる、おめでたい奴だったな……よし、あいつの目を覚まさせてやろう」
そう言うと同時にツクヒは走り出した。
俺は血の気が引いていく。
もちろん、それは寒さではなく、ツクヒの大それた計画に対してだ。
「おい、そんなことはさせないぞ!」
「いずれドッペルも分かることだ、マスダ! 止められると思うなよ」
捕まえようと追いかけるが、ツクヒは俺との距離をどんどん離していく。
あいつが唯一自慢にしている俊足に、俺が追いつける道理はなかった。
≪ 前 あわててドッペルに連絡を入れる。 「もしもし」 「ドッペル、いまどこにいる?」 「家にいるよ。この時期になると親がなぜか外出させてくれなくて」 「よし、今日はそのま...
≪ 前 気持ちを切り替え、俺は改めてツクヒの捜索に乗り出す。 ツクヒの行方は見当がつかない。 だが、居場所を見つけるアテはあった。 魔法少女だ。 この町には魔法少女がいて、...
≪ 前 部屋に入ると、そこには魔法少女がいた。 ミニスカートのサンタという色んな意味で寒そうなコスプレをして。 イベントのために、出番を待っている様子だった。 「ちょっと...
≪ 前 ところ変わって兄貴のほうはバイトを終え、仕事仲間と共に帰路の途中だった。 「やれやれ、サンタのコスプレなんてガラにもないことやるもんじゃないな」 「確かに。精神的...
≪ 前 俺たちは捕まえたツクヒを囲み、この後どうするべきか考えあぐねていた。 「ふん、サンタなんてタダの不審人物だ。そんなのを糾弾して何が悪い」 「不審人物だっていうが、...
≪ 前 兄貴としてはドッペルが寝ている間に、部屋にプレゼントだけ置いて帰るつもりだったのだろう。 だが、時間はまだ20時。 子供が寝るにはまだちょっと早い。 部屋に入ると照明...