2017-12-28

[] #45-5「3丁目の輝石」

≪ 前

ところ変わって兄貴のほうはバイトを終え、仕事仲間と共に帰路の途中だった。

やれやれサンタコスプレなんてガラにもないことやるもんじゃないな」

「確かに精神的な疲労のほうがでかい

「ところで、お前はクリスマスどう過ごすんだ? やっぱり映画でも観るのか?」

「そんなに自分って分かりやす人間に見える? まあ、その通りなんだけれども。ビデオ屋店長在庫処理で譲ってくれてさ」

「『家にボッチ』、『エクセレントかも、人生?』……パッケージが如何にも古いって感じだな」

まさか知らないの? 定番クリスマス映画だよ」

「知らなくて悪いかよ。そうやって知識マウントとろうとする姿勢、お前の悪い癖だぞ」

無知なのにマウント取ろうとする奴よりはマシだろ。それよりもホラ、割と珍しいものもあるよ。この『ええクリスマス物語』とか、この国では未公開なんだ」

「なんでそんなの店長が持っているんだ」

「……さあ? まあ自分の話はこれくらいにして。マスダは今日どう過ごすつもり?」

特にないな。明日家族と過ごすけど、今日は父さんと母さんが夫婦水入らずのディナーを楽しむから。弟の子守りのために留守番

「ふーん……あ、そんな話をしていたら、ちょうど弟くんが」


…………

魔法少女のいっていた通り、ツクヒは公園にいた。

ドッペルが家から出てこないので、仕方なく公園でくすぶっていたのだろう。

俺は木陰に隠れながら、チャンスを伺う。

あいつに気づかれれば、さっきのように俊足で逃げられるのがオチだ。

からスキを突いて、捕まえる必要があった。

そして、そのチャンスはすぐにやってくる。

ツクヒが俺のいる木陰とは真逆の方を向いた。

俺はそれを見逃さず、全速力で距離を詰める。

「……ん!? くそ、またマスダか!」

けど、俺の逸る気持ち足音に出てしまい、ツクヒとの距離を満足に詰められないまま気づかれてしまう。

俺が隠れていた木陰と、ツクヒがいた場所までかなり距離があったのも痛かった。

この公園が、俺たちの町では『缶蹴りに向かない広場』なことで有名なのを実感する。

そして、ツクヒはまたもその俊足でもって俺との距離をどんどん離していった……。

これではさっきと何も変わらない。

もちろん、そんなことは分かっていたし、こうなることも分かっていた。

違うのは、今の俺は一人じゃないってことだ。

兄貴、そっちにいったぞ!」

ついさっき出会った兄貴たちに、公園の外を見張ってもらっていた。

俺はツクヒを捕まえるために走ったのではなく、あくま誘導役だったのだ。

「うわ、お前はさっきの偽サンタ!?

「人違いだ」

ツクヒは慌てて方向転換し、逃げようとする。

けど、もはや逃げることも、捕らえられるのに抵抗する体力も残っていなかった。

次 ≫
記事への反応 -
  • 部屋に入ると、そこには魔法少女がいた。 ミニスカートのサンタという色んな意味で寒そうなコスプレをして。 イベントのために、出番を待っている様子だった。 「ちょっと協力し...

    • 気持ちを切り替え、俺は改めてツクヒの捜索に乗り出す。 ツクヒの行方は見当がつかない。 だが、居場所を見つけるアテはあった。 魔法少女だ。 この町には魔法少女がいて、とある...

      • あわててドッペルに連絡を入れる。 「もしもし」 「ドッペル、いまどこにいる?」 「家にいるよ。この時期になると親がなぜか外出させてくれなくて」 「よし、今日はそのまま家に...

        • 今年もクリスマスが近づいてきた。 みんな思い思いの過ごし方を目指して大忙しだ。 父はアニメのクリスマススペシャル制作で。 母は市民団体のクリスマス企画で。 兄はバイト。 ...

  • ≪ 前 俺たちは捕まえたツクヒを囲み、この後どうするべきか考えあぐねていた。 「ふん、サンタなんてタダの不審人物だ。そんなのを糾弾して何が悪い」 「不審人物だっていうが、...

    • ≪ 前 兄貴としてはドッペルが寝ている間に、部屋にプレゼントだけ置いて帰るつもりだったのだろう。 だが、時間はまだ20時。 子供が寝るにはまだちょっと早い。 部屋に入ると照明...

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