ところ変わって兄貴のほうはバイトを終え、仕事仲間と共に帰路の途中だった。
「やれやれ、サンタのコスプレなんてガラにもないことやるもんじゃないな」
「ところで、お前はクリスマスどう過ごすんだ? やっぱり映画でも観るのか?」
「そんなに自分って分かりやすい人間に見える? まあ、その通りなんだけれども。ビデオ屋の店長が在庫処理で譲ってくれてさ」
「『家にボッチ』、『エクセレントかも、人生?』……パッケージが如何にも古いって感じだな」
「知らなくて悪いかよ。そうやって知識でマウントとろうとする姿勢、お前の悪い癖だぞ」
「無知なのにマウント取ろうとする奴よりはマシだろ。それよりもホラ、割と珍しいものもあるよ。この『ええクリスマス物語』とか、この国では未公開なんだ」
「なんでそんなの店長が持っているんだ」
「……さあ? まあ自分の話はこれくらいにして。マスダは今日どう過ごすつもり?」
「特にないな。明日は家族と過ごすけど、今日は父さんと母さんが夫婦水入らずのディナーを楽しむから。弟の子守りのために留守番」
「ふーん……あ、そんな話をしていたら、ちょうど弟くんが」
ドッペルが家から出てこないので、仕方なく公園でくすぶっていたのだろう。
俺は木陰に隠れながら、チャンスを伺う。
あいつに気づかれれば、さっきのように俊足で逃げられるのがオチだ。
そして、そのチャンスはすぐにやってくる。
ツクヒが俺のいる木陰とは真逆の方を向いた。
俺はそれを見逃さず、全速力で距離を詰める。
けど、俺の逸る気持ちが足音に出てしまい、ツクヒとの距離を満足に詰められないまま気づかれてしまう。
俺が隠れていた木陰と、ツクヒがいた場所までかなり距離があったのも痛かった。
この公園が、俺たちの町では『缶蹴りに向かない広場』なことで有名なのを実感する。
そして、ツクヒはまたもその俊足でもって俺との距離をどんどん離していった……。
これではさっきと何も変わらない。
もちろん、そんなことは分かっていたし、こうなることも分かっていた。
違うのは、今の俺は一人じゃないってことだ。
「兄貴、そっちにいったぞ!」
ついさっき出会った兄貴たちに、公園の外を見張ってもらっていた。
俺はツクヒを捕まえるために走ったのではなく、あくまで誘導役だったのだ。
「人違いだ」
ツクヒは慌てて方向転換し、逃げようとする。
けど、もはや逃げることも、捕らえられるのに抵抗する体力も残っていなかった。
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