気持ちを切り替え、俺は改めてツクヒの捜索に乗り出す。
ツクヒの行方は見当がつかない。
だが、居場所を見つけるアテはあった。
魔法少女だ。
この町には魔法少女がいて、とある一軒で見知った間柄になった。
事情を話せば、協力してくれるはず。
確か市内で、クリスマスの催しに参加するとか触れ込みがあったよな。
イベントの関係者であるタケモトさんの鉄壁のガードによって、俺は強引な突破すら封じられていた。
「諦めろっての。無分別なファンとかが突撃してこないよう、関係者以外は通しちゃいけねえんだ。どのような事情だろうが、例外はない」
けど、ここまで来て諦めるわけにはいかない。
「頼むよ。サンタを、サンタを信じる子供を、それを大事にする人たちのために、どうしても必要なことなんだ」
俺は何度もタケモトさんに頼み込んだ。
「タケモトさん、去年のハロウィンのことを覚えている?」
「お前がイタズラあってのハロウィンだとか主張して、周りの制止を振り切って暴れようとしたときだな」
「結局、あれは失敗に終わったけど、最後にタケモトさんは自分の家を犠牲にしてまで、俺たちのイタズラを認めてくれた」
もちろん、それを認めてくれたのはタケモトさんだけじゃない。
他の大人たちも表面上は俺たちを止めつつも、正論だけでは学べない大事なことを知っていた。
「そんなんじゃねえ。イタズラが原則悪いことって前提は変わらねえんだ」
「でも、それが許されたり、認められる時もある。そういうのを“容認”っていうんだろ。サンタなんて嘘が大衆に根付いているのは、そういう考え方も大事なのを知っているからだ」
「ふん、大した理屈だな。だが、それと今お前を通すことは別の話だ」
そうして押し問答が幾度となく繰り返され、タケモトさんが絆され始めたとき。
「通してあげて」
魔法少女の声だ。
タケモトさんは溜め息を吐くと、おもむろに扉を開けた。
「先に進む前に、さっきの話の続きだ」
そのまま進もうとする俺に、タケモトさんは呼び止める。
「ハロウィンのイタズラが悪いものとは限らないように、サンタの存在も悪いものとは限らん。大人は、なにもサンタを使って子供たちを騙したくて、悪意があって真相を隠すわけじゃねえ」
「うん、分かってるよ」
「いずれ知る日が来て、傷つくかもしれない。だがそれを悪い思い出にするか、良い思い出に昇華できるかはテメェ次第だ。夢から醒めるのは、見ているものが夢だって気づいた時だとは限らんからな」
「タケモトさんは……できたの? 良い思い出に」
「大人だって誰かの子供だ。その子供が大人になった今、その夢の“お手伝い”に参加しているってのが答えだ。オレの話は以上。とっとと行きな」
タケモトさんは、俺を追い払うように手を振った。
あわててドッペルに連絡を入れる。 「もしもし」 「ドッペル、いまどこにいる?」 「家にいるよ。この時期になると親がなぜか外出させてくれなくて」 「よし、今日はそのまま家に...
今年もクリスマスが近づいてきた。 みんな思い思いの過ごし方を目指して大忙しだ。 父はアニメのクリスマススペシャル制作で。 母は市民団体のクリスマス企画で。 兄はバイト。 ...
≪ 前 部屋に入ると、そこには魔法少女がいた。 ミニスカートのサンタという色んな意味で寒そうなコスプレをして。 イベントのために、出番を待っている様子だった。 「ちょっと...
≪ 前 ところ変わって兄貴のほうはバイトを終え、仕事仲間と共に帰路の途中だった。 「やれやれ、サンタのコスプレなんてガラにもないことやるもんじゃないな」 「確かに。精神的...
≪ 前 俺たちは捕まえたツクヒを囲み、この後どうするべきか考えあぐねていた。 「ふん、サンタなんてタダの不審人物だ。そんなのを糾弾して何が悪い」 「不審人物だっていうが、...
≪ 前 兄貴としてはドッペルが寝ている間に、部屋にプレゼントだけ置いて帰るつもりだったのだろう。 だが、時間はまだ20時。 子供が寝るにはまだちょっと早い。 部屋に入ると照明...