開店時刻の17時になっても電気が点かず,しかも建物の1階には解体計画があると書かれていて本当に営業してるのか?と思いつつ30分ほど周りを歩き回って,電気が点いたタイミングで入店.
入ると南インドかスリランカぽいシェフがちょうど上着を脱ぐところだった.マトン系のカレーとバスマティライスが欲しいと告げると,
「今日は肉の仕入れの関係で特別大きいグッカーがあるんだよ.ちょっと時間かかかるけど食べてく?」とシェフは上機嫌.
10分ほどして,もう一人来店者がいた.入り口の衣紋掛けにコートを自分で掛けていたので,?,と思ったがどうやらマダムらしく,まもなく彼女がグッカーとライスを供してくれた.
ん〜,じっくりと煮込んだ骨付きマトンのゼラチンの味わい.皮も軟骨も腱もとろけてコラーゲンたっぷり.
ややアニスの匂いが強いが,全体的な香りのバランスは取れている方だろう.バスマティライスも油で炒められているっぽいが,まあまあ香りは保たれている.
辛さはシェフに勧められた通り,5段階のうちの2にしたが,これでだいたい銀座デリーのカシミールカレーくらいの辛さで,全くわたしの好みにドンピシャだった.そういえばグッカーもカシミールカレーのようにトロみの無いわたし好みのサラサラカレーだった.
……が,店の主導権がマダムに移るや,「隠れ家的な静かな店」の雰囲気はぶっ壊れた.
やれ明日は日テレの取材があるの,やれ最近は九州や北海道からグッカーを求めて客が来るから手間暇かかるがレギュラーメニューにしたのと,一人客であるわたしに対して自慢話をずっと話し続ける.相槌を打つわたしは食が進まない.
ここのマダムはなにか話し続けないと気がすまないのかと思って,1階に貼られていた「建築計画のお知らせ」について訊いてみた.「この建物は建て替え予定なんですか?」と.
これが地雷だった.マダムは今までの笑顔を般若の面に変えて,家主への恨み言をまくし立て始めた.
「売れない時代から30年近くずっとここでやってきたんです.意地でも移転しませんよ.明後日には日本テレビの取材の予定も入ってるし.」
「今更移転するにしても,タンドリーの設備造営って300万円以上もするんですよ.もう裁判ですよ.」
30年前はともかく,今ならタンドリーがあってもっと客足のある物件なんて幾らでもあるだろうに.
ずっと話しかけられて相槌を打たなきゃいけないので食事が進まない.それでもなんとかライスを平らげてそそくさと会計を済ませようとすると,マダムが一言.
「あら,まだ骨に肉が残ってるわよ?」
確かの他のレビューで,最後に骨を割って骨髄を食べさせてくれるサービスが有るというのは知っている.
しかしもうそんな物要らない.一刻も早くこのマダムの前から姿を消したい.
手間暇と心を込めて煮込んだ肉だから最後まで味わって欲しいというのは分かる.しかし店の雰囲気に耐えかねて出て行こうと言う客に対し,【骨までしゃぶれ】という発言はいかがか.
恐らく二度と訪店することはないだろう.