2015-06-29

リハビリ文章を書く。

文章を書くことがリハビリにいいと言ったので、ひとつ書いてみることにした。

土曜の平日は、スイミングスクールに通うのが私の日課だった。

スクールから家までの道のりは近くもなく遠くもなく、徒歩で10分、自転車だと10分といったところだ。

だが、ゴールまで半分といったところで、落とし物にしていることに気がついた。

どうやら機内に置いたままだったらしく、それに今ごろ気づく自分も優しいものだ。

腹いせにそこらへんを走っている車を念力で爆破しようとするのが、私の処世術だ。

なぁに、別に水着がなくても泳げる。

ここの講師は融通が利いて頼りになる。

きっと分かってもらえる。

滞りなく授業は終わった。

その中に私はいなかったが、泳げないものは仕方がない。

では、少し早いが次の用事を済ませよう。

次の用事は妻の頼みごとで、地図コンパスを買ってくるよう言われた。

コンビニに置いてあるような陳腐ものではなく、百貨店にあるような高級なものが欲しいとのことだった。

「何の地図か」という肝心の部分を聞き忘れたが、とりあえず世界地図を買ってくれば文句は言われないだろう。コンパスも同じだ。

では電車に乗って百貨店に……、財布は水着の中に入れていたのだ。

仕方なく徒歩で百貨店を目指すことにした。

トホホ

わず出てしまった言葉だったが、その短絡さに自ら呆れ、咄嗟に口を両手両足で覆った。

途中、妻の幻影に「あと3時間はかかる」と言われて辟易したが、どこか私の足は軽やかだった。

結局、3時間かけて百貨店に到着し、地図を無事手に入れた。

さすがに徒歩で帰る力は今の私には残っておらず、電車ダメなのでバスで帰ることにした。

こういうときのために、免許を取っておいてよかった。

しか今日の私はどうも間が悪いようで、途中で尿意に目覚めた。

自分ロボットならこんなことにはならないのに。

……いや、バッテリー必要からそれはそれで不都合か。

オムツをしているので最悪漏らしても大丈夫だが、できれば尊厳を保ちたい。

何とか漏らさず家路に着いた。

妻にコンパスを買い忘れたことを責められた。

今の私はそれどころではなく、「コンパスなら君がいるじゃないか」と嗜め、急いでトイレに駆け込んだ。

一息ついたところで、妻に詰め寄られて「申し訳がないか」と聞かれた。

あるかないかでいえばあるのだが、私がコンパスを買い忘れたことは事実だし、思いつく限りの案で妻を納得させる自信がないのも確かだ。

「ない」というしかなかった。

妻はそれを聞いて数分の沈黙の後、「そうか」とだけ漏らして去っていった。

明らかに彼女は不機嫌で、妻はこういうときひたすら寝て過ごす。

こうなったら、私がどうしようと明日になるまで妻は起きない。

実のところ内心では安堵していた。

なにせ今日の夕飯はカレーで、妻の作るモノはお世辞にも美味しくないからだ。

だが、カレーを食べたかったのも確かで、一人で食べたくないのも確かだ。

私は暇な友達を誘って、夕飯を済ませることにした。

友人のカワチは、不健全健康体だった。

私の愚痴を聞き流してくれる気さくな友達だ。

私はカワチと落ち合うと、さっそく吉野家カレーを食べようと持ちかけた。

彼もカレーを食べることには賛成してくれたが、カレー松屋で食べようと言って来たのだ。

「あのほっといてくれる雰囲気が好きなんだ」

彼らしい意見だ。

私としては、カレーを食べることができれば場所は問わない。

のだが、カワチは吉野家へ行こうといった私の言葉を予想以上に重く受け止めていたらしい。

「それでいい」といった私に遠慮し、そこからは「どうぞ」合戦だ。

数分後、埒があかないと感じてココイチで食べることに決まったが、カワチも私もこういうことにはどうも不器用だ。

カワチはサラダ、私はカレーを食べながら、お互いの身内の話を始めた。

「お前んところの奥さん。どうだよ」

「まあ、相変わらず。でも、ありがたくもある。喧嘩をしてもすぐ仲直りできる子供同士みたいな関係で」

「俺のところは、最近ちょっと不気味にさえ思ってきた。絶対に思うところはあるだろうに、やたらといい夫として扱ってくれるしさ」

「実際そうなんだろう」

「どうかね。あいつが好きだったタバコを吸わなくなったのは俺と結婚してからだ。いや、妊娠が発覚してからだったか?」

「私に聞かないでくれはははははははは」

こうして、何気ない会話をして別れ、家路に着く。

いつもとさして変わらない休日

妻の機嫌は思いのほか早く直っていた。

どうやらコンパスは、隣のナカガワさんに余りものを貰っていたようだ。

しかし、一通り書いてみたが、これでリハビリになるのだろうか。

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