工場内の搬送業務で、ハンドリフトを片手にほぼ一日中、倉庫内や工場内を歩きまわるような仕事をしていた。
離職の理由はそんなに珍しいことでもない。
おそらく、離職の理由と聞いて思い浮かべるものを五つも上げればたいていの人はヒットするような類のものだ。
それはさておき、退職後少し困ったことが起きた。
体重がひと月で5kgも増えたのだ。
もともと体重が108kgあり、それがこのひと月で5kg増えた。
とはいえ、仕事していた時の食事量のまま、家で一切動かない生活にシフトしたのだからそれは当然のことだと思う。
そこでさすがにこれではまずいと思い、食事量を減らすことと並行して何か運動をしようと考えたのがつい二時間ほど前のことだ。
いわゆる運動性喘息と呼ばれるもので、特にマラソンなどの有酸素運動を行うと決まって喘息を起こし、向こう二日は咳の症状が続く。
冬の体育でマラソンなどしようものなら、その直後から一日中咳が続く。
当時は運動性喘息などというものは知らず、ただ運動すると咳が出るくらいとしか思っていなかった。
その頃からこの病気の存在を知っていれば、医師からの制限という形であの地獄を体験せずに済んだのかもしれないと思うと、少しだけ悔やまれる。
話が逸れてしまった。
そんなこともあり、これからダイエットをはじめるなら最初はウォーキングからはじめるべきかと思い、
その前段階として筋肉をなるべく多くつけ、より代謝のいい身体を作ることを考えたのだった。
幸か不幸か、過剰な体重を持つ私には自重トレーニングという選択肢があるようだった。
調べれば、スクワットや腕立てなどの基礎的な筋力トレーニングを、なるべく長い時間をかけ筋肉に適度な負荷を抱えながら行うというものらしい。
たしかにこれならやっていて過剰に息が上がるというものではないし、何よりのんびりとした私の性にあっている。
上半身をまっすぐ伸ばし、手は頭の後ろに置き、
そのままゆっくり膝を曲げ、蹲踞に近い形をつくり、それからまた立ち上がる。
蹲踞のとき、なにやら膝周辺でミシミシパキパキとスナック菓子が砕けるような音がしたが、
きっとこれは効果のある証だろうと思い、構わずスクワットを続けた。
一回、二回、三回。
ゆっくりとスクワットをしているだけなのに、だんだん息が上がっていく。
ひとまずは十回。そこでワンセット。
これを四回繰り返し、計四十回のスクワットをしたところで終わる計画だった。
二セット目。これも問題なく終わる。
足の甲に血管が浮いたり、視界を白い星が飛んだりはするが身体はいたって良好だ。
三セット目。少しだけ苦しくなってきた。
膝は相変わらずミシミシパキパキと音を立て、膝周りの筋肉が張ってきた気がする。
四セット目。その五回目の蹲踞を行ったあたりから、膝が笑いはじめた。
ガクガクと膝が揺れ、思わず前のめりに倒れそうになる。
だが、あと五回。
これが終わればそれでいったんメニューは終わりだ。
そして、成し遂げた。
私の心は達成感で満たされた。
これから、夕食後と入浴前にこれを行おうと思っているが、わりと膝の状態が悪い。
歩くだけで膝がガクガク。座ろうとしても膝がガクガク。
膝が笑ったまま下の段へ足をつけると、そのままつんのめって転がり落ちてしまいそうになる。