岡山県倉敷市の女児(11)が監禁され、5日後に保護された事件で、逮捕された岡山市北区の無職藤原武容疑者(49)は、大学院で哲学を学び、研究者を志した寡黙な青年だった。監禁容疑での逮捕から26日で1週間。県警は未成年者略取容疑での立件に向けて、事件の全容解明を進める。
「カントを愛している」
約20年前、大阪大学大学院の博士課程で倫理学を専攻していた藤原容疑者は、研究室の宴席で同窓生にこう打ち明けた。寡黙で勉強熱心。青春時代の藤原容疑者を知る人たちの印象は似通う。交友関係は少なく、存在感は薄かった。
地元の私立高校を出て、一浪して法政大学に進学。その後、ドイツの哲学者カントに心酔し、大学院の研究室で研究者を志した。
だが、学問の壁に突き当たる。学友が順調に助手や教職に就き始める中、1人だけ就職先が見つからなかった。ある同窓生は「進路が決まらず焦っていた。気まずかったのか、周りに気づかれないように単位取得退学した」と話す。1995年ごろのことだ。
大学院を退学した後は、家庭教師などの職を転々としていたようだ。96年~99年ごろは、大阪府内の公立中学校で夜間に校内を見回る宿直員として働き、宿直室で寝泊まりしていた。
同じ時期に勤務した男性教諭は「岩波書店の難しそうな本を黙々と読んでいた。無口だが愛想がよく、先生や生徒とあいさつを交わしていた」と話す。休日の電話番を引き受け、部活動の早朝練習に来る生徒のために、早起きして校門を開けていたという。
親族らによると、藤原容疑者は30歳のころに結婚したが、すぐに離婚した。今年初めごろまでの約10年間は、兵庫県西宮市に住んでいたという。築32年の4階建てアパート。家賃3万円の1階6畳一間。コインランドリーで洗濯する藤原容疑者を、複数の住民が見ていた。ある住民は「平日の昼過ぎで、仕事をしていない人だと思った」と話す。
暮らしぶりには不明な点が多く、岡山市の実家に戻ってからも人付き合いはほとんどなかった。ただ、洋室のリフォーム代や母親の介護費用などは工面できていたようだ。逮捕後に名乗った職業はイラストレーター。小学生くらいの女の子を描いたA4サイズの絵を見せられた人もいる。