生産性になぜ差異が生じる かの原因の 1 つは,おそらく文章を書くという作業があ る種のスキルであることに起因していると考えられる. すなわち,生まれつきの技能や特別な才能ではなく,地 道に練習をすればある程度までは論文を執筆するスキル は身に付けられるものであり「文章を書くという作業を 習慣化する(生活の中に組み込む)」ことこそが最も重 要なのではないかと思う.
自分自身を振り返ると,授業 や学内業務,社会活動をはじめ様々な日常業務がある中 で,いつも忙しいというのを言い訳にして「もう少しま とまった時間があれば,もっと論文が書けるのに」とい つも考えており,その改善策を考える上で,私の周りに いる生産性の高い研究者に教えを乞うことが有効だと考 えた.
そのため,論文執筆の生産性が高いと考えられる 研究者を対象に,執筆作業の効率化およびそれを習慣化 するための具体的な工夫等について聞き取り調査から明 らかにすることを試みた.対象者は,論文の生産性がかなり高い研究者 3 名(男性 2 名, 女性 1 名)であった.調査内容は, 1 )論文執筆作業を習 慣化するための具体的な工夫, 2 )論文執筆作業を効率 化するための具体的な工夫,の 2 点である.
論文執筆作業を習慣化するための工夫として,「タイ ムマネジメント」の一環として,論文執筆の日は出張に 行く日と同じという感覚を持つことが挙げられた.具体 的には,実際は自分の研究室にいるが,出張で終日不在 にしている体裁で論文執筆作業のみを行うというやり方 であった.特に,手帳に論文執筆の日であることを明記 し,他の予定を入れない,メールの確認頻度を減らす, 急用でないとメールは開かない,集中度が高いときは電 話にもでないという工夫をしていた.
また,早朝の時間 を論文執筆作業に充てるという意見もあった.学生指導 を含めた業務時間を自他共に分かるようにし,指導学生 には業務時間になってから相談して欲しい旨を伝える工 夫を行っていた.
さらに,無駄な時間や作業を減らすた め,非常勤講師や超過コマを持たない,むやみに学会発 表をしないといった意見もあった.
一方,いつまでに書 き上げるかのタイムスケジュールを(数カ月単位で)徹 底的に組み締切を作る,最低でも一文を書いてから帰宅 する等の「目標設定」を上手に行っていた.また,構想 から論文化までを一括管理し,何をどこまで書いたかを 常に把握しておく(可視化する)といった「セルフ・モ ニタリング」,できる限り大学に行く(まずは **やる場所** に行く),ふと良い流れや改善点,文章が浮かぶため, 常にメモができる状態にしておく等の「環境整備」に関 する工夫がみられた.
論文執筆作業を効率化するための工夫としては,作業 過程を 5 段階に分類するという意見があった.具体的に は,
①先行研究の動向を把握する段階(雑誌の最新号目 次のメール配信サービスの活用),
②データを分析し, 結果を確定させる段階(シンタックスを自分で書き, 分 析手続きの記録を残す),
③論文構成を考え,まとめる 段階(「日本語で」「段落ごとに」執筆する内容や主な引 用文献を, 箇条書きに簡潔にまとめる),
④文章を執筆す る段階(数日程度, 執筆のみを行う時間を作り, 細部は気 にせず一気呵成に書き通す),
⑤文章をブラッシュアッ プさせる段階(冷静に見直すため少し日数を置き, 全体 の一貫性など細かな修正を行い, 仕上げる)であった.
また,書く→修正→書く→修正ではなく,執筆自体が止 まらないようとりあえず全体を書いてから修正する,上 手に気分転換を図る(同時に複数の論文を書き, 1 つが 行き詰まったら他の論文を進める)といった意見も挙げ られた
論文執筆作業を習慣化するとい うことは,自分が重要性を感じているその他の時間との 価値交換を行う場面が多々あるため,なぜ自分は論文を 書くのかということを改めて突き詰める必要があるよう に感じた