2021-09-22

山本拓高市氏の元旦那)の進次郎批判よろしくない

山本拓議員小泉進次郎への公開質問状話題になってる。

http://yamamototaku.jp/article/20210921/

山本議員の「元妻を守るために」という物言いが(「離別した夫にも擁護されるなんて、やっぱり高市さんは人格的に素晴らしいんですね!」みたいな感じで)高市支持者に大ウケ。さら自民支持者右派だけじゃなく、河野太郎小泉進次郞を叩きたいやつら、再エネを批判したいやつらにも大人気になっている。バズりまくりだ。よかったよかった。

しかし、肝心の公開質問の内容がまずいというか、やばい

IT関連消費電力は2050年には2016年の41TWh/年の約4,000倍の176,200 TWh/年になるとの予測が、国立研究開発法人科学技術振興機構低炭素社会戦略センターによって発表されています

現在よりも省エネルギーの進展があったとしても、IT 関連消費電力は莫大に膨れ上がることが予想されます。2050 年にそれらを再生可能エネルギーでまかなうための具体的計画を、環境大臣としてお示しください。

これ読んで、増田諸氏はどう感じるだろうか。少なから増田が「『176,200TWh/年』というのがどれぐらいかからないけど、ITの進展で電力需要がすごい増えるんだな、それは再エネだけじゃ到底まかなえないんだろうな、小泉進次郎はそういう現実的想定をしないで、夢みたいな再エネ推進を言ってやがるんだな」と思うんじゃなかろうか。でも、そうじゃない。

「176,200TWh/年」というのは、今の日本全体の年間発電電力量の180倍、世界全体の発電電力量の7倍だ。そんなもん再エネどころか原発だろうが火発だろうが絶対充当できるわけがない。もし小泉進次郎環境省から「なるほど、再生可能エネルギーでまかなうことが不可能だというなら、2050年にそれらを原子力化石燃料エネルギーでまかなうための具体的計画を、対案としてお示しください」と反論されたら一発で撃沈だ。なんなんだこの数字? というわけで引用元PDFを読む。vol.1からvol.3まである

情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響(Vol.1)

IT 機器の消費電力の現状と将来予測

https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2018-pp-15.pdf

情報化社会の進展に伴って、従来の予想を超える膨大なデータが取り扱われるようになり、この傾向は今後も拡大すると考えられる。これに伴い、エネルギー消費がどのような影響を受けるかを 2050 年までを視野に入れ、調査ヒアリングなどにより検討した。その結果、世界情報量IP トラフィック)は 2030 年には現在の 30 倍以上、2050 年には 4,000 倍に達すると予想され、現在技術のまま、まったく省エネルギー対策がなされないと仮定すると、情報関連だけで 2030年には年間 42PWh、2050 年には 5,000PWh と、現在世界の消費電力の約 24PWh を大きく上回る予測となった。すなわち、技術進歩がなければ情報関連だけで世界の全てのエネルギーを消費してもまだ不足するという事態になりうる。

現在日本の年間の電力消費量が約 980TWhであるから現在技術でまったく省エネルギー対策がなされないと仮定すると、2030年には年間使用電力量の倍近い電力を IT 関連機器だけで消費する予測となる。世界についても、現在世界の消費電力が約 24,000TWh であるから、やはり現在の2倍程度の電力を IT 関連機器が消費する予測となる。また、2050 年の電力消費量は、現在比較して日本世界ともに約200倍という極端な数字となり、情報関連だけで全てのエネルギーを消費してもまだ不足するという状況になりうる。この情報量の爆発に対しての対策必要なことは明らかである

まり「もし現時点から全く技術の進展がなければ、将来はIT関連機器だけで世界中のエネルギーを全部食い潰しちゃうぞ〜」という、極端なシナリオにもとづく極端な数字なのだ。そして、Vol.1(IT関連機器編)、Vol.2(データセンター編)、Vol.3(ネットワーク編)と分野別に分けて、こうした消費電力増大の問題技術進歩でどう抑えていくか、という議論がされている。IT中心に増大するエネルギー需要に対して、どういうエネルギーミックスで応需していくか、みたいな話は全くしていないし、それどころか低炭素エネルギーへの流れが世界的に進んでいるから「電力供給が大幅に増大することは期待しがたい」とはっきり言っている。電力供給の増大に期待できないということは話の前提で、その中でのやりくりについて書いているのだ。

情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響(Vol.2)

データセンター消費エネルギーの現状と将来予測および技術課題

https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2020-pp-03.pdf

 データセンターIaaSSaaS、MaaS などの新たなクラウドサービスの進展に伴い今後も膨大な計算負荷が発生すると考えられる。また全世界的な COVID-19 の蔓延にともなう仕事学習形態リモート化はそれに拍車をかけるものと思われる。さら医療画像診断やセキュリティの顔認識なども膨大な計算量の発生が予測される。

 これらの状況を考えると従来以上にデータセンターにおける計算負荷が上昇しそうである一方で、供給電力には限りがある。また、現在世界中で急速に低炭素エネルギーに向けてエネルギーポートフォリオ見直しが進められていて、供給電力の大幅な増大は期待しがたい

 低炭素社会へ歩を進めつつ、社会必要とされているサービス提供するためにはデータセンター省エネルギー化を進める必要がある。本提案書では 2030、2050 年も見据えて現状技術で固定された場合の電力需要計算した。 

(ちなみに具体的提案CPUGPUを中心とした要素部品類の集積度向上、液浸、ヒートポンプなどの冷却方法の工夫、必要とき以外は動作しない(スマート化)…などなどの提案で、それに対する研究支援をせよ、と言っている。割と普通だね)

この提案書の報告主体は「国立研究開発法人科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター」なんだけど、ようするにこの提案書は、山本拓議員引用している文脈とは真逆の論旨のことを言ってるのだ。「これだけ電力が足りなくなるから、再エネを推進してはダメだ」ではなく、「技術進歩がなければこんな非現実的シナリオになってしまうから、それを避けるために、IT分野全体で電力消費を減らす努力研究支援をしよう」という内容なのである

山本議員公開質問ではこういう文脈無視して、一部の記述を都合よく切り取って、意図的に「再エネではこの電力需要を賄えない、再エネを推進しない現実的計画を立てるべきだ(立てることが可能だ)」みたいな誤解を招く表現をしてるように見えて、大変よろしくない。山本議員エネルギー通だそうだから、「176,200TWh/年」という数字が全く非現実的な想定であることは本人も理解しているはずだ。そもそも公開質問では、この数字引用した部分のすぐ上に

一般電気事業者 10 社の 2019 年度の火力発電量は約 4,814 億 kWh/年です。

という記述もあるのだ。約 4,814 億 kWh/年 = 481400000000 kWh/年 = 481 TWh/年 である東日本大震災以後、国内発電量の70%以上を担う火発を全部ひっくるめても480TWhでしかないことを山本議員承知していながら、その直後には「IT 関連消費電力は 2050 年には (略)176,200 TWh/年になるとの予測が、国立研究開発法人科学技術振興機構低炭素社会戦略センターによって発表されています」「現在よりも省エネルギーの進展があったとしても、IT 関連消費電力は莫大に膨れ上がることが予想されます。2050 年にそれらを再生可能エネルギーでまかなうための具体的計画を、環境大臣としてお示しください」という書き方をしている。こういうのは誠実な議論ではない。

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